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ヒロインは早々にシナリオから離脱したい  作者: 朔島 涼
一章.プロローグ

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1.箱庭の世界

『召集令状 浄化の旅への帯同』


王宮から来た騎士が持参した一枚の紙。何度も読み返してみたが、見間違いではない。そして旅のメンバーの名前を確認してシルヴィアは顔を青ざめる。


「これは強制ですか?」

「いえ。任意ではありますが、是非ともシルヴィア様にお力をお貸しいただきたいと。陛下よりのお願いでございます。」


国王陛下からのお願い。それは紛れもなく強制であり、その言葉は脅しである。せっかくシナリオから離れて平穏な日々を過ごしていたのに…。シルヴィアは受け取った令状をテーブルの上に置き頭を抱える。そして、心の中で思いっきり叫ぶ。


『何がどうしてこうなったーーーー!』っと。






シルヴィアは小さい時からこの世界に違和感を感じていた。この世界は箱庭のように誰かに管理された世界で、自分はそのコマの一部なのではないか?特に理由はないのだが、3歳の時にふとそのような考えが頭に浮かんだ。そして、4歳の頃にはそれが自分の中で真実のように感じるようになっていた。会話が上手になると、両親や兄弟にそのことを相談したりもしたが、微笑ましげに流されてしまった。


「シルヴィア、世界はものすごく広いのよ。箱庭の中には収まりきらないわ。」


「ヴィアはとても賢い子だけど、やっぱりまだまだ子どもだね。」


「ははは、今度シルヴィア用の世界地図を買ってこよう。お前の見ている景色は、世界のほんの一部でしかないんだよ。」


小さな子供の妄想だと思われたようだ。


鏡の中に映る自分の姿を見て思う。ストロベリーブロンドの艶々の髪に、クリクリの大きな空色の瞳、淡いピンクのふわふわほっぺに、うるうるの唇。こんなに可愛い生き物、誰かが意図的に作り出したに違いない。そして、この世界はきっと自分が中心で回っている。何の根拠もないが、シルヴィアはそう信じて疑わなかった。






その考えが正しいと確信したのは5歳の時。父の仕事に同伴して王宮に行き、第一王子主催のお茶会に参加した時だった。王宮は王都にあるドトーリエ公爵の屋敷から馬車で1時間ほど走らせたところに位置していた。父のエスコートで馬車から降りると、目に飛び込んできた王宮にシルヴィアは驚き固まった。その様子を見た父は、低い位置にある頭にポンと大きな手を乗せて言う。


「こんなに大きな建物を見るのは初めてだね。驚いただろう。」

「ええ、とても大きくて…美しくて…とても初めて来たとは思えませんわ。」


真っ白の壁に美しい金の装飾を施した王宮は、大きさもさる事ながら、とても繊細な造りでそれはそれは素晴らしい建造物である。しかし、シルヴィアはその素晴らしさに驚いたわけではない。初めて来たはずの王宮に既視感がありすぎて驚愕していた。


仕事に向かう父と別れると、王宮の使用人がお茶会が開かれる中庭まで案内してくれた。中庭も完璧に手入れされており、春に咲く花がバランスよく配置され、華やかさと品の良さを感じる。ゆっくり鑑賞していたいのだが、中庭を進むに連れて指先は冷たくなり、鼓動も激しくなってきた。嫌な予感がする。この立派な、見たこともないような美しい中庭でさえ、何度も通ったことがある気がするのだ。


「ご歓談中失礼いたます。ドトーリエ公爵令嬢シルヴィア様がいらっしゃいました。」


お茶会の会場に到着し使用人がシルヴィアを紹介すると、5人の見目麗しい男の子たちが振り返った。


その瞬間、前世の記憶がシルヴィアの中にストンと降りてきた。自身が何者であるのかという事実と共に。


「やっぱり、ね。」


前世でこういう設定の小説は何度も読んだことがある。記憶が戻った時は驚き慌てふためいたり、意識を失ったりするものだ。でも、自分は大丈夫。だってずっと前から気がついていたもの。


「ヒロインってガラじゃないのに…」


そう呟いた瞬間、目の前が暗転する。え…この気を失うってやつ、デフォルトなの?皆が精神的なショックや物理的な刺激とかで失神してる訳じゃないのね。


「ドトーリエ公爵令嬢!」

「シルヴィア嬢?!」

「大丈夫ですか?!シルヴィア様!」


周りでシルヴィアを心配する声が聞こえるが、目は開かないし、身体も動かない。これはもう、抗わずに意識を手放すのがいいのだろうと思い、それ以上は何も考えず眠ることにした。

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