EP: 5 檸檬色の瞳
少年は、路地裏に入るなり綺麗な土下座を決め込んだ。
「すみません、すみません……!痛いことはやめてください!!」
心の底からの懇願だろう、顔を見ることもなく、その額を地面に擦りつけている。
連れてきたものの、ここからどうしたらいいものか…先程からアゼルからの視線も痛い。
「………ごめん、連れてきたはいいけどどうしたもんか…」
視線に耐えかね、そう呟くと、大きな溜め息が隣から聞こえた。
後先考えず面目ない限り…。
アゼルは、視線を少年に移したようでそのまま彼の前に跪きながら語りかける。
「顔を上げなさい。彼女は貴方を買った主ですが、酷いことをするような人ではない」
それを聞いてか、少年は恐る恐る顔を上げる。
ざんばらに伸びた髪の毛はベージュ色を纏いながらさらさらと流れ、その瞳はまるでイエローダイヤモンドだ。
ダイヤと輝きを比べると、表情や見た目も相まって加工される前の原石といったところだ。
鼻筋が通り、唇は薄め、殴られて滲む赤い血でさえ映えてしまうような姿だ。
目はたれ目で、物腰柔らかそうな顔に小さなホクロがある。
目の下とは、またセクシーな…。
舐めまわすように見ながら、その美貌を確かめる。
俺はどうにもこんなイケメンを殴る気にはならんが…。
そのとき、アゼルの咳払いが聞こえハッと我に返る。
どうやら自分の世界に入ってしまっていたようで、目の前の少年も怯えながらも、不思議そうに首を傾げて見上げている。
「えーと、君の名前は?」
「フィオスタと、申します…ですが、お好きに名前をつけていただいて構いません。番号でも、虫とでも」
「そんな呼び方しないよ、物好きじゃあるまいし…!フィスって呼ばせてもらうよ」
出てきた呼び方の候補に絶句して、慌てながら否定。
そしてなんとも響きのいい名前を呼ぶことにした。
さて、ここからすることと言えば、彼の服を用意することとお風呂に入れること、なんとなく気になっていた、"アグニスの生まれ変わりと言われる王子"のことも気になっている。
それを調べつつ、彼のマスクも用意してあげないと。
俺はフィスを立ち上がらせて、数日泊まる予定のホテルへ向かった。
♦︎♦︎♦︎
マスクの存在は、随分と抑止力になっている。
先程まで、まるで汚いゴミを見るように顔を顰めながらひそひそ話されていた。
然しながら、フィスの顔をアゼルと同じようなマスクで隠したところを、たまに視線を向けられるだけで、そこで邪険に扱われないのだ。
どうやら、顔が見えないと言うだけで多少なり、世間の目は柔らかくなるらしい。
「イケメンって素晴らしいな」
綺麗な服を仕立てた後に、フィスはアゼルの手によって風呂に入れられ、それはそれは丁寧に洗い上げられて、立派な美少年になって俺の前にいた。
アゼルはなんでも出来るようで、彼の髪を肩の上で切りそろえ、前髪も流せるような長さへカットし、似合いそうなイエローの宝石が着いたヘアピンが添えてある。
絵画にいるような少年だ、顔立ちは甘く、女の子に見えなくもない。
色素の薄いベージュのまつ毛、その先の瞳からは未だに戸惑いが見え隠れしている。
「大丈夫、フィスはこれからおれ…私が!大切にするから」
改めて宣言した後、にっこりと微笑むと、幾分か緊張がほぐれたようだ、小さな声でお礼を告げてくれた。
和やかな雰囲気が流れる中、タオルを首に掛けたアゼルが風呂場から出てくる。
汗を拭き、その胸元は風呂の熱気が暑かったようでいくつかボタンを開けている。
うん、色気がすごい、大人の色気が。
服越しでは分からなかったけれど、今白いシャツを着ているアゼルの体躯は、鍛え抜かれた美しい筋肉をしている。
心做しか腹も割れているようだ。
間違いない、日本に行けばモテる。
アイドルだって目じゃない。
それに、この少し広いホテルの部屋にイケメンがふたりいるという環境に、俺は猛烈に緊張している。
もちろん中身がおっさんな訳なのだが、元が女の子だからだろうか、胸が高鳴って仕方ない。
ドキドキと脈打つ胸になんとか、落ち着けと語りかけるが、一挙一動に視線を奪われる。
アゼルとフィスは風呂で少し話したらしく、その事について今も話している。
比較的声が小さいフィスの声が聞こえるように少しだけ屈んだ姿勢で話を聞き、ときどき2人は笑顔を浮かべている。
あぁ、なんていい顔なんだ。
俺はこの世界に来てよかったと、初めて思えた気がする。
天に昇るような気持ちでその尊い光景を見ながら、エリュシア国の新聞記事と、持ってきた資料の本を開いた机の前に座る。
何故ここまで、王子のことを調べているのか、明確な理由は俺でも分からない。
ただ、胸がザワザワしてしまう。
どんな人間か気になるのだ。
新聞を目で追っていると、人探しの情報が載った項目を見つけた。
「…ベージュ色の髪、イエローの目……ん?10代半ば頃…」
一つだけすごく既視感を感じる人探しの項目がある。
横には、ご丁寧に人物像が貼られていた。
小綺麗にされた今とは面影が少し違うが、探されている人物はフィスで間違いないようだ。
それを2人に伝えようとすると、既に俺の後ろに立って新聞を覗き込んでいた。
「びっ……くりした」
心臓出るかと思った……と胸元を抑えると、アゼルが隣から新聞に顔を近づけている。
「うーん、フィオスタの事のようですね」
「そうなんですか…?」
フィス自身は首を傾げてアゼルを見上げている。
俺は違和感を感じてフィスの方を見る。
「文字が読めない、のか?」
「あぁ…すみません…学ぶ時間が無くて」
「アゼルが教えてくれるからね」
フィスの言葉に思わず目頭が熱くなった気がして、誤魔化すようにフィスの肩に手を置いた。
俺が教えるんですね、という刺々しい視線を感じつつ、気付かないふりを決め込む。
話は戻るが、フィスを探しているのは、サスティスという男性らしい。
住所は少し距離があるけれど、今から向かっても間に合う位置らしいので、フィスの服を着替えさせたら向かうことになった。
ふたりが着替えるのを見ながら、俺は思わず視線を窓の外へ逸らす。
うーん、イケメンの着替えを見るのはどうにも……やましい事をしてる気分だな。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
イヴがついに、新しい男の子を迎えましたね!
この後、続けて新しい男性の気配も…!?
一体彼らはどうなるのか…!
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