EP:3 優雅な明け方
アゼルから世界の授業を受けて、翌日。
俺はと言うと、昨日と変わらない大きなベッドから起きて、鏡台の前に座っていた。
改めて見ると、まるで西洋人形のように美しい見た目をしている。
今は自分の体なのだが、自分の中身がおじさんというギャップに苦しんでいた。
夜はお風呂に入れられそうになったが、さすがにまだ覚悟ができておらず必死で抵抗した。
それも虚しく引きずり込まれてしまった訳だが……。
アゼルにあちこちを洗われ拭かれたときは、それはそれは尊厳を破壊され、イヴちゃんという俺の体にも大変申し訳なくなった。
見ちゃったから…しょうがない……。
改めて自分の髪を撫でながら、昨日のお風呂場でのドタバタを思い出し苦笑いを浮かべる。
「にしても、今日は出かけると言っていたけどエリュシアというところに行くんだったか……」
喉から出る声は、意図せずとも猫なで声のように甘く高い。
少女らしい絹のような聞き心地だった。
そもそも、俺とアゼルのいる島『ユーフォリウム』には、他に人がいないらしい。
ひとつの国ほどのサイズはなく、程よく大きな島だと言う。
島の所々に俺が魔法で作ったという施設がありつつも、2人きりでは管理もままならず、草が生い茂っているらしかった。
窓から見える景色は、確かに緑が多いけれども、整理された印象がある。
生垣が綺麗に長方形にカットされているし、薔薇も綺麗に咲き誇っていたのだ。
しかも見た事ないほど、色とりどりの薔薇が。
窓から視線を外して、また鏡の中の自分へ映す。
白い肌と整えられた細い眉、ぷっくらとした唇は赤く色付いてる。
唇の左下にセクシーなホクロがひとつあって、睫毛は長く、クルンとカールしていた。
髪の毛はおよそ腰ほどまで伸びており、横髪はいわゆる姫カット、前髪もパッツンと目の上で切り揃えられている。
日本人形とも取れるけど、顔はドールという表現が近しい。
要するに美しいってことだ。
暫く見とれながら時間を潰していると、扉が2回丁寧にノックされた。
アゼルが朝の支度に来たのだろう、間延びした返事をする。
「はぁい」
「おはようございます、イヴ様。」
「うん、おはよう」
まだまだぎこちない敬語を抜いた言葉。
日本人のおじさんとしては年上らしい相手には、敬語で畏まって所々にお世辞なんかを入れたいところなんだけども。
アゼルは断固としてそれを許してはくれなかった。
銀で出来たワゴンを押しながら部屋に入ってくる。
その笑みを浮かべたご尊顔は相変わらずの美しさを放ちながら近付いてくる。
「本日の朝食です。オムレツとハーブのソーセージ、小さめのスコーンをご用意しました。紅茶の茶葉は、アッサムとセイロン、ケニアを混ぜたイングリッシュ・ブレイクファストとなっております。ミルクティーにもピッタリの茶葉です」
つらつらと本日の朝食のレシピを告げながら、俺の目の前には淡々と食事準備が施されていく。
食欲をそそる香りと、見た目に翻弄され、使い慣れないながらもナイフとフォークを手に取り、ハーブのソーセージをひと口頬張る。
ぷちんと皮が弾けて、控えめに油とハーブの香りが鼻腔を充満していく。
噛み締める度に肉々しい食感に思わず感動を覚えた。
「美味しいそうに食べていただけて、とっても嬉しいです!」
隣で紅茶を入れるアゼルが、それはそれは嬉しそうに呟いている。
顔に出ていたのを恥ずかしく感じつつ、喜んでくれたなら何よりだと、愛想笑いを浮かべた。
並々と注がれたべっ甲色の紅茶。
程よい茶葉の香りを感じつつ、なんて優雅な朝なんだと感嘆する。
日本人の頃は朝ごはんを抜くことなんてざらにあったし、紅茶を飲む機会もそこまで無かった。
「有難いね。こうやってゆっくり朝を過ごせて、こんなイケメンに見守られながら食べる朝食も乙なもんだわ……」
「い、イケメン……相変わらず変わったご趣味ですね、イヴ様は」
そのとき、アゼルの表情は見たことないほどの曇りを浮かべ、エメラルドの瞳がゆらゆらと揺れた。
そうか、美醜逆転した世界…俺のようなものは異端者になってしまうのか。
そこで初めて、この世界の美醜に関する価値観を見たような気がした。
アゼルも奴隷としてこき使われていたところ、俺が大金を出して買い取ったらしいのだ。
エルフになんという扱いをと、それはそれは怒っていたらしい。
きっと今の俺も、そうするだろうな。
細やかな気遣いをしてくれて、服を選ぶときもあくまで俺の趣味を優先してくれた。
話す時は嬉しそうに目を細めてくれて、目線を合わせて授業もしてくれたっけ。
そんな完璧で素敵なエルフをを、アグニスという過去の人物が犯した罪で虐げられるとは、誰が想像しただろう。
たった一人の王が嘆き悲しんだことで、きっと世界は歪んでしまったのだ。
アゼルにかける言葉を決めあぐねていると、彼から先に口を開いた。
「本日向かうのは、俺たちの住むユーフォリアムからいちばん近い、エリュシア国です。……船で2時間ほどでしょうか、貿易が盛んで美味しい食材もあるんですよ」
「そうなのか、すごく楽しみ」
ここに来て2日目、遂に俺は外の世界を見るらしい。
胸は期待と緊張で満たされながら、浮つきそうになる心を何とか抑え、紅茶の最後の一口を流し込んだ。
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次回は、初めての国、エリュシア国編に突入致します!
お楽しみに。




