表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~魂鎮メノ弔イ歌~  作者: 宵空希
58/58

炭坑の主

「はあ?じゃああんた、こっから出ようと思えば出られたって事?それなのに私を待ち続けてたの?」


「ええ、そうね。暇だったから、ずっとお祈りしながら過ごしていたわ」


芽唯は現在、朔耶と共に炭坑の奥深くまで進んでいた。

会話を交えながら歩くものの、朔耶のあまりのマイペースさに言葉を失い掛けていた。


「……馬鹿じゃないの?タイミングが分かってたなら、わざわざここに居続けなくても良かったじゃん。三年前から前泊なんて頭おかしいって」


芽唯がそう言うと、朔耶はどこか影を落としたかのように視線を少しだけ下げた。


「……それだけじゃないの。私がいたら、勇太はきっと楓さんを引き取ることを躊躇してしまう。それもあって、三年前のあの時しかなかったのよ。楓さんには勇太が必要だったし、魂鎮メにとっても楓さんは必要不可欠。だから私は、家を出るしかなかった。この炭坑から出たら今度は、蒼に居場所を突き止められてしまうしね」


朔耶はそこまで言うと再び視線を上げて、芽唯の方を見て笑い掛けて来る。


「あ、でもそんなに深く考えなくてもいいのよ?蒼には悪かったかもしれないけれど、これは蒼の為でもあるから。それに、ここにいると食べる必要もないから太らなくて済むの。勇太と暮らし始めたらきっと、一気に太りそうでちょっと怖かったのよね」


「ああ、藤堂さん料理男子だもんね」


きっと朔耶なりに気を使って言葉を選んでいるのだろう。

だからそれ以上は芽唯も言及しなかった。

マイペースでありながらも、その使命を最優先に考えている。

みんなの事を一番に、自分は二の次にして。

朔耶は昔からそういうきらいがあったのを、芽唯は思い出していた。


「あんたってほんと苦労人だよね。新婚生活を送る間もなくこんな事になっちゃってさ。ま、私には別にどうでもいい事だけど」


「ふふ。でもそう言ってくれると、少しスッキリするわ。ありがとう」


「別に、思った事を言っただけだし」


二人はそんなやり取りをしながら、気付けば炭坑の最奥までもう少しの地点に来ていた。

途中途中の分岐点は全て朔耶の示した最短ルートを通って来られたので、何の苦労もなかった。

だがここから先何が待ち受けているのか、芽唯には分からない。

けれど少なくとも、芽唯は一人ではない。

渚はいなくなったけれども、代わりにカバーしてくれる姉のような人がいるのだから不安もなかった。


「ねえ、朔――」


だがそう思ったのも束の間、隣を歩いていた筈の朔耶が急に姿を消した。

芽唯は慌てて周囲を警戒する。

何だ、この感覚は。

そんな言葉が浮かぶ程に、異様な気配が漂っていた。


「……何?」


ポツリと呟いた芽唯の一言が、炭坑内に微かに響く。

視線を彷徨わせながら、異様な気配の発信源を探す。

この先の更に奥だ。

芽唯は覚悟を決めて、歩みを進めた。


するとそこにいたのは、明らかな別格の存在であった。

異形の放つ瘴気を大幅に上回る真っ赤な瘴気。

可視化できる程の満ち溢れたどす黒い邪気。

一際大きな体躯をした、炭鉱夫の姿を借りた異形の主であった。


朔耶は何処にいったのだろうか。

まさかまた裏切られた?と、そんな思考が脳裏を過った。

けれど疑ってばかりいても仕方がない、今はただ。

芽唯は孤独な決戦へと、一人挑むだけだった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ