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~魂鎮メノ弔イ歌~  作者: 宵空希
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不快

渚は幼い頃から兄にべったりだった。

大きくなるにつれて、周りからはブラコンなどと言われたりもする程、兄に付き纏う日々。

土日も大型連休も、友達より兄と出掛ける日の方が多かった。

だが渚が高校生の頃、兄が関東の大学に進学してしまい離れ離れとなる。

渚もついて行きたい気持ちはあったが、そこまでの決断に踏み切れず結局は見送る形となった。

けれどまた、別の理由もあって渚は関西に引き留まった。

魂鎮メの連中に一泡吹かせてやる事だ。


幼い頃から聞かされ続けて来た、関東にはもの凄い祓い屋の一族がいると。

まるで自分たちが劣っているかのような言い回しに、渚は当時から不快感を覚えていた。

関東なんかどうでもいいのに、関西にまで話を持ってくるな。

そんな感情が、会った事もない人間に対してどんどん強くなっていった。

渚は魂鎮メを心底疎ましいと思っていた。




「ねえ、あんたの服ってボーイッシュ過ぎない?サイズはいいんだけどさ、持ってる服偏り過ぎでしょ」


「うっさいわ!22にもなるとこれくらいがちょうどええねん!」(※個人の見解です)


お好み焼き屋から帰り、渚と芽唯は明日の為の準備をしていた。

カナリア炭坑に行く為の準備である。

渚の家からは多少の距離を要するので、予定では二日に掛けて向かう。

なので着替え等を鞄に詰め込んでいるところであった。


「ホンマ、あんたは口を開けば文句ばっか。芸能人はホンマに性格悪くなるんちゃうか」


「ま、そうかもね。そのせいかは微妙だけど、メンバーとも上手くいかなかったし、LOVE※のリーダーって言っても憎まれ役でしかなかったし。どうでもいいけど」


芽唯は右手をひらひらさせて他人事のようにそう言った。

けれど続け様に、今度は渚の意表を突くような言葉を言ってくる。


「でも私が気兼ねなく本音で話せるのって、夜御坂さんとあんたくらいだから」


「……なんや自分、調子いい事言いおるやないか。ウチに惚れでもしたか?」


ドヤ顔でそう言ったはいいが、その場の勢いで出た言葉だった。

だから渚は流されるとばかり思っていたのだが。


「そうかもね。あんた、百合に抵抗ないんでしょ?」


「え?いや、ゆーたけど」


四つん這いでこちらへと近づいて来る芽唯に、渚は不覚にも心臓が高鳴り出してしまう。

芽唯の顔が間近に迫った。

やはりトップアイドルだけあった、端整で綺麗な顔立ち。

妖艶さを覗かせるのは、アメジストの瞳。


「顔が赤いわよ?渚――」


そう言って芽唯は渚の顔に触れて来た。

ピクリと反応したが、それ以上動く事が出来ない。


「……ちょ、あかんて。ウ、ウチには愛する彼氏が……」


「浮気、しちゃおっか?」


芽唯の唇がゆっくりと渚の唇に近づいて。

渚はそんな場の空気に流され、とうとう目を閉じた。


「――ぷっ、あははっ!もう、冗談だってば」


「……へ?」


渚は呆けた顔で芽唯を見る。

当の本人は腹を抱えて笑っていた。


「あんた、意外と流されやすいタイプだったのね。そんなんじゃまだ、彼氏とキスもしてないんじゃない?」


プルプルと渚の全身が震えだす。

そうして勢いよく芽唯へと手を伸ばした。


「……芽唯コラーー!!」


「あははっ!痛いって!」


渚は芽唯の頬を思いっきりつねった。




渚は魂鎮メの人間を心底疎ましいと思っていた。

でもそれは、まだ出会っていなかったからだ。

出会ってみれば案外、愉快なもので。

例え性根が捻じ曲がっていたとしても、好ましいくらいには思えたのだ――。

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