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~魂鎮メノ弔イ歌~  作者: 宵空希
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歓迎

誘われるがままに森を進み、やがて木々の間から見えてきたのは、とても大きくて立派な屋敷だった。

一体何坪ほどの広さだろうか、八重桜家も藍葉家もかなりの土地を有しているが、ざっと見てもその倍以上はある。

屋敷全体は塀に囲われており中までしっかりと見れてはいないが、門構えからしても相当立派である事が十分窺える。

まるで中学の歴史の教科書に描かれていた江戸屋敷がそのまま具現化されているかのようであり、ここがまともな地であれば間違いなく文化遺産であったろう。

時の流れをすっぽ抜かして時代を飛び越えて来たかのような、寂れ廃れはすれど朽ちてなどはいない、けれどおびただしい程の邪気を纏った建造物であった。


「陰の力がかなり強い。今までのどんな場所よりもな」


蒼はそう言って屋敷を見上げた。


「……これが、何たら屋敷」


そう玖々莉は呟きながら、門に触れた。


「あんた、今回は勝手にいなくなんな……っておい、マジかよ!言わんこっちゃねぇ!」


玖々莉は門に触れた次の瞬間にはもう姿を消していた。

驚愕と嘆息を入り混じらせ、蒼は手毬の方を見る。


「いやいや、私の方を見られましてもねー。玖々莉さんのポカなんて防ぎようがないですよー」


「だろうなっ!ちっ、しゃあねぇ。俺らも行くぞ!」


「はーい」


蒼は一度、腕時計を確認してから行動を始める。

今回の検証は向こう側とこちら側の時間の差を計る事にあった。

そうして同じように蒼と手毬も門に触れた、のだが。


「……あ?なんも起きねぇじゃねぇか」


「あー、呼ばれてるのは玖々莉さんなんでしょうねー。私たちは普通に門を開けて入るしかなさそうです」


仕方がないので門を力いっぱい開きながら、蒼は思う。

八重桜玖々莉は本当に天才だ、多角的に見ても天才としか思えない、故にこれ以上ない程厄介であると。

魂鎮メとしての天才、問題児としての天才、それ以外特筆できる事がツナしかない天才。

互いに四世家当主だから同僚と言う立場にはあるが、これをコントロールする事は至難の業だと蒼は結論に至った。

まとめ役だった勇太の偉大さを今更ながらに痛感した。


「あの人、俺より四つも年上なんだよな?マジで信じらんねぇぞ」


「六つ年下の私からしても同じ事が言えるので、歳の差はあまり関係ないですよー」


全く以て手毬の言う通りだと思う蒼であった。




二人は開いた門から中庭へと侵入する。

すると門は二人を迎え入れた瞬間に、バタン!!と勢いよく閉じた。

自動で閉まるような構造は時代背景的にもしていないだろう。

何者かの意思が働いたと見るべきだ。


庭に生えている草は一体いつの時代の物なのか、そして冬のこの時期にこれだけの緑が生い茂っているのはどういう事なのか。

邪気や瘴気の強さよりも、蒼はそっちの方が気になって仕方がなかった。

蒼の立てた仮説、それは禁地の時間は止まっているかもしれないというものだ。


この発想に至った理由、それは前回の鳴咲神社の一件で玖々莉が邪気を祓うのが早すぎたという点。

勿論蒼だって玖々莉の特性も全てではないにしろ少しは把握しているし、蒼から見ても玖々莉がスイッチを入れれば事は一瞬だ。

だが前回に至っては玖々莉が門の前で消えた次の瞬間には邪気が祓われるところだったので、何かしらのギミックがあると考えていた。

神社の中で雑賀美冬とコンタクトを取っていた時間を鑑みると尚の事、時系列がどう考えてもおかしいだろう。


故に蒼はこう推測した。

禁地は呪われた地へと変貌したその時点で時が止まっているのかもしれないと。

禁地の中に入ればそれこそ何年何十年彷徨おうとも、外の世界では一瞬たりとも時は進んでいない事になる。

三人とも救い出せるという仮説は、この推測から立てられたものであった。


蒼は腕時計を確認する。

秒針の針は狂いもせずに動いている。

だが問題はそこじゃなく、ここから出た際に蒼の腕時計の時間がズレているかどうかだ。

時計は故障でもしない限り動き続けるのは至極当然。

だがこの地の時が本当に止まっているのならば。

この場で針が時を刻んだ分だけ、必ず外の世界とで時間のズレが生じる筈。

それこそが検証の結果と言えるだろう。


「しっかし広いですねー。これ玖々莉さんを探し出すのは朝になりそうですよー。なので先にご飯にします?私、お弁当作ってきましたよ?」


手毬はそう言って背負っているリュックに目を向ける。

だが蒼は先に感じ取っていた。

中庭の中央から異様な気配を発している何者かに。


「どうやら飯食ってる場合じゃねぇらしい。歓迎の時間みたいだぜ?」


「おや、それは先方に失礼でしたね。早く身だしなみを整えないと」


手毬も気づいたようで、その何者かは別格の邪気を纏っていた。

着物を着用し刀を携えた男の霊は無念を口にするでもなく、ただ明確な殺気だけを放っている。

どす黒い顔に、真っ赤な眼を光らせながら――。

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