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~魂鎮メノ弔イ歌~  作者: 宵空希
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天然ライオンと獰猛な鷹と時折思い込みの激しい野兎

あれから数日。

美冬はケガも後遺症もなく、今は元気に出社しているそうだ。

何事もなくて良かったと、玖々莉は心の底から安堵していた。

何故美冬が今回禁地に誘われたのかは分からない、けれどこれまでも美冬に限った事ではないのかもしれない、それが蒼の出した推測だった。

でもハッキリとした事は何も分かっていないので、結局のところは憶測になってしまうのかもしれないが。


一方の玖々莉はというと、早速次の禁地の情報を探っているところである。

どうやら禁地は日本全国に八カ所存在しているらしく、北海道から果ては九州まで。

まあその内の中部地方にある鳴咲神社を無事清める事が出来たので、実質あと七カ所となる訳だが。


「次の目的地は東北地方の森の奥に存在すると言われる禁地『支倉屋敷(はせくらやしき)』だ」


そう宣言した蒼。

現在いつも通り藍葉家の客室に来ていた玖々莉はテーブルに対面している蒼から、自分の隣に座っている手毬へと視線を移す。


「いや玖々莉さん、私の方を見られましても困りますよ。私だってその何たら屋敷について何も知りませんから」


そう言われたので仕方なく蒼へと視線を戻した。


「支倉屋敷はその昔、ちょっとした事件があったらしくてな。元々は支倉って言う偉い大名だか何だかが、当時の霊媒師に助言を貰って霊脈の強く流れる地に屋敷を建てたってだけの話だったんだが。ある夜、突然その大名が気を狂わせて、次々と配下の者たちを斬り捨てていったとか。まあありがちな言い伝えだな」


蒼の説明を受けた玖々莉は、手毬の方を見やる。


「いやだから玖々莉さん、私を見ても何も出ませんから。蒼さんの言った情報が全てですよ」


そう言われて再び目線を蒼の方に持って行く。


「だがどうも奇妙な事に、大名はその時、歌を口ずさみながら配下を殺して回ったそうだ。何でも文献では子守唄のような歌だったとか」


(……子守唄?)


身に覚えのあるワードが耳に入り、思わず玖々莉は手毬をまじまじと見つめる。


「もう、さっきから何なんですかー!そんなに私が恋しいんですかー!未成年相手に手を出すつもりですかー!」


(……子守唄)


だがほのかに顔を赤く染める手毬の抗議は耳に入っておらず、玖々莉は考え込むようにしてそのまま手毬を見続けた。


「……え?玖々莉さん、本気ですか?手毬は玖々莉さんに食べられちゃうんですか?」


(子守唄……)


そう言う事柄に過敏になってしまう年頃の手毬に対して、相手は無頓着な玖々莉である。

最早、意思疎通すら取れていない二人。

それを察していた蒼はとうとう苛立ちを露にする。


「おいお前ら、ふざけてんじゃねぇよ!こっちは真面目にだな——」


「こっちだって大真面目ですよ!手毬の貞操を何だと思ってるんですかー!?」


だが何故か逆ギレされる蒼を他所に、玖々莉は手毬を見つめながらも深い思考に陥っていた。


(子守唄は、私の記憶の中で一番古いもの。昔お母さんから聞いた、子供の時の事件がもし禁地に関わっているのだとしたら。舞唯さんは禁地から私を助け出してくれたのかも。だとしたら、その何たら屋敷に舞唯さんがいる可能性も……)


だが余りにも時間が経ち過ぎている。

仮に舞唯がその後再び禁地に行っていたとしても、生存の可能性は限りなく低い。

そこまで考えた玖々莉だが、可能性がゼロでない限り行く価値はあると判断する。


「……行こう」


「え?玖々莉さん?行くってまさか……ラブ」


「うん、何たら屋敷に」


「あ、あー。そっちでしたか……」


「?」


そうして次の目的地が決まり、複雑な温度差の付いてしまった三人はそれぞれ準備に取り掛かる為その場を解散した。




蒼は一人考え込んでいる。

自室の勉強机に散らばった古い書物に視線を落としながら。

端の方に置かれたカフェイン摂取の為のブラックコーヒーと、脳の回転の為の糖分補給用に栗饅頭を二つほど用意して。

そうして藍葉家に貯蔵されていたあらゆる文献の数々に目を通しながらも、自分の中でどうにも腑に落ちない感覚に違和感を覚えていた。


文献に記されている八カ所の禁地。

それは本来、日本でも特に強い霊脈が流れていた場所だ。

故に魂鎮メの間では聖域や聖地とされて来たのだ、それが元々の姿であったから。

が八カ所その全てに共通して起きたのが、何らかの理由による事件。

結果、全ての聖地はもれなく邪気に埋もれた魔の巣窟となってしまった。

共通項はやはり霊脈となるだろうか。

それが原因で何かを引き寄せてしまった。

その何かがどうしても腑に落ちない理由なのだ。

まるでこの世の理から逸脱してしまっているような、得体の知れない何か。


「……はぁ。姉さんなら何か知ってたんだろうけど」


栗饅頭を一つ頬張り、口の中に広がった甘さを苦めのコーヒーで流し込みながら、蒼は回想を含めて再び考え込む。

藍葉朔耶が禁地で行方不明となっているなら、何かしらの情報を掴んだからであろう。

もしかしたらそれは白百合舞唯に関する事でもあったかもしれない。

朔耶は舞唯の行方を追っていた、蒼はそれを密かに知っていたのだ。

当時二十一歳の舞唯と十歳の朔耶は、歳の離れた姉妹のような間柄であった。

舞唯が失踪してからも朔耶は娘である芽唯の世話をよくしていたし、親戚に預けられるまでの数年は藍葉家で芽唯を預かっていたくらいだ。

芽唯自身がそれをどう思っていたかは知らないが、少なくとも朔耶は妹のように思っていただろう。

蒼にとってはどうでもいい話である、誰がどう親密になろうと知った事ではない。


「……知ったこっちゃねぇけどよ。あいつ、連絡くらい寄越せよな。今頃何処で何やってんだよ、あの強情女は」


呟くように蒼はそう口にしていた。

もう一人の姉と言えるのかは微妙な間柄の、四世家の同僚に対しての言葉を――。

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