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~魂鎮メノ弔イ歌~  作者: 宵空希
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鳴咲神社

藍葉家の所有するワゴン車に揺られながら、玖々莉たちは目的地を目指していた。

高速を経由して海岸線を通り、そこからどんどん人気のない方角へと車は向かって行く。

誰も免許を持っていない為、運転は藍葉家の人間に任せている。

助手席に座る蒼がナビをしながらも、後部座席の二人へと声を掛ける。


「まあ今回は急な話だったからな。元々この禁地は最初に目星を付けてた場所でもある。一石二鳥って言やぁ聞こえはいいが、何より雑賀美冬の救出が最優先だ」


「大人ですねー蒼さん。お姉さんもいるかもしれないのに」


手毬が蒼にそう言ったのをただ聞いていた玖々莉は、この二人、何だかんだ仲が良いのかななどと思った。

これから行くのはどうやら危険が伴う場所らしい。

ならば団結はより一層大事だと玖々莉は考えるので、仲が良いに越したことはない。


「はっ、姉さんだって当然こっち側の人間だ。一般人を優先するのはプロとして当たり前の事だろ」


「意識高いですねー。でもあまり高い所にいると、いつか落っこちちゃいますよー?」


「あ?何の話してんだよ」


だがこの二人が話すとどうしてもややこしい解釈に発展して行くような気がする。

それは玖々莉もなのだが、当人にその自覚はない。

なので蒼に対して通訳をしてあげる事にする。


「たぶん手毬は、蒼を心配してるんだと思う。あんまり自分を追い込まない方がいいって」


「あぁ?余計なお世話だろ。こっちは四世家を背負ってんだぜ?」


どうやら蒼には余計なお世話だったらしい。

手毬も気を使っていた為に残念だ。


「いえ、違います。天狗になってる鼻が落っこちた際にへし折れればいいのになーって密かに願ってるだけです」


どうやら通訳も違ったらしい。

結局は犬猿の仲なのだろうか。

兎にも角にも踏んだり蹴ったりだなあと思う玖々莉であった。




車はいよいよ人里を離れ、薄暗い木々が生い茂る林道を走る。

道が狭い為に途中までしか行けないだろう、目的地までは歩く事が予想された。


降車して、三人はすぐに気付く。

この道の先は明らかに違う何かがあると。

心霊スポットなどと生温い言葉では言い表せないような、何か強い邪気や瘴気を感じる。

けれどそれに構わず足を止める事はしなかった。


歩き始めてから数分、蒼がポツリと呟く。


「……気味わりぃな」


本当にその一言に尽きるかもしれない、怖いよりもしっくりくるのだ。

そんな、何か得体の知れないような感覚。

玖々莉にとっても初めての経験。

いや、本当は違う。

玖々莉にとって、記憶には残ってないが二度目の経験。


林道はそこまでの勾配もなく、歩く分には丁度いいくらいのごく一般的なお散歩コースに近いもの。

勿論道自体のみを取り上げた話ではあるが。

辺りは薄暗く尚且つ気温も下がっているように感じる。

初冬のこの時期の夕方前ではそれが余計に感じるものだから、羽織るのがダウンジャケットだけでは足りなかったかもしれない。

身体を動かしているというのに体温の上昇をあまり感じられないのだから、やはりお散歩コースとは一線を画していた。


「玖々莉さん、はぐれないでくださいよー?探すの大変そうですから」


「こんな一本道でどうやってはぐれんだよ?無理があんだろ」


「いやいや蒼さん、玖々莉さんをナメてもらっては困ります。いつどんな境地であっても何をやらかすのか分からないのが、この八重桜玖々莉さんなんですよ!ムッフー!」


「いやお前、何でそれを自慢そうに言えるんだよ」


そうなのかな?と思いながら玖々莉は二人の話を聞いていた。

自覚がなかった為に、本人もよく分かっていない。


やがて目的地が見えて来る。

八脚門を構えた神社『鳴咲神社(なるさきじんじゃ)』。

今はもう誰も近づかなくなった、いわくつきの場所である。

外観からしても中々に広い敷地面積であり、しかし本来の神聖な空気は一変して異様な雰囲気が辺りを占めている。

邪気や瘴気が酷く色濃い、つまり怨霊が棲み付きやすく尚且つ生きている人間には精神的にも肉体的にも悪影響を及ぼす地だと言えた。


「いよいよですね。みなさん心の準備はいいですか、ってあれ?玖々莉さんは?」


「は?おいおい嘘だろ、どうやってはぐれたんだよ」


いつの間にか姿を消していた玖々莉に二人、特に蒼は驚きを隠せなかった――。




どうしてなのかは分からないが、玖々莉は一人神社の中へと転移していた。

ただちょっと門に触れただけなのに、どうして二人は見当たらなくなってしまったのだろうか。

考えても仕方がないので、一先ず散策してみる事にする。

境内は特に他の神社と代わり映えのない風景で、ただ少し周囲に靄が掛かって見えるような気がするだけだ。

静か過ぎて耳鳴りがしてくるも、耳を澄ます。

美冬がいないか懸命に目を凝らして歩いていると、神社の手前に人影が視界に入った。

ちょうどお参りをする場所だった、女性のシルエットが霞んで見える。

玖々莉はゆっくりとそちらへ歩みを進め、声を掛ける。


「……美冬?」


だが女性はこちらに対して何の反応も示さずに、ブツブツと独り言を呟いているだけだった。

玖々莉は女性の正面に回り込み、再び名を呼ぶ。


「美冬、私だよ」


「……」


未だ反応のない美冬の表情は、まるで別人のような怖い顔つきで。

玖々莉はだんだん美冬が美冬ではなくなっていくような気がして、思わず声を荒らげた。


「美冬!私だよ、玖々莉だよ!ねえ美冬!」


美冬の両肩を掴んで必死に揺らしながら声を掛けた。

するとようやく美冬は表情を変えてくれた。


「……あれ、玖々莉?なんで?」


自我を取り戻した友人に、玖々莉は安堵のため息を漏らす。

だがすぐに美冬はこの場所の空気に当てられたのか、パニックに陥る。


「え、ここどこ?なに、ここ……怖い……。怖いよ玖々莉!」


「落ち着いて美冬。私がいるから大丈夫」


「何が大丈夫なの!?全然大丈夫な場所じゃないわよ!!」


そんな全身を震わせる美冬を玖々莉はそのまま包み込むように抱きしめた。

そっと背中を擦って落ち着かせるように宥める。


「大丈夫。大丈夫だから」


「……うん、ごめん」


震えが収まりを見せたのを確認した玖々莉は、ゆっくりと境内の方へ視線を向ける。


「ちょっと待っててね。すぐに終わらせて来るから」


「え……?っ、なにあれ……!?」


二人の視線の先では、境内の中央に立つ何者かが揺らめいていた。

それは異形であり同時に黄泉ノ国の者でもある、明確な敵であった――。

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