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淵(ふち)
彼女は、男を信じないと言う——。
度重なる出来事が彼女を変えてしまった。
彼は、女を信じないという——。
度重なる思いが彼を変えてしまった。
求めた光は幻であった。
だからこそ探し求めた幸せに、
自らの手でピリオドを打つ。
こうして人は、幸せを脱ぎ捨てて行くのだろう——。
最後の幸せが脱ぎ捨てられた時、
人は絶望という名の淵に立つ。
陽の有り難さなど微塵も届かない。
深遠のその淵で、求めようとも思わない。
絶望という名の淵で見た、
色をも持たぬこの世界。
今あなたには、
どんな色が見えますか?
見れるものなら見てみたい。
たがわぬことなく——。
この世に差し込む陽があることを——。
それだけが
色がよみがえる瞬間であった。