役割と実力
「これより、新入生対抗試合第二回戦を行う!三班、四班、両者位置につけ!シュピール………ベギン!」
試合開始の合図と共に、私は皆に敵の位置と行動を知らせる。
試合のルールは至って簡単。
一班四人制で、失神したら脱落。先に全員を失神させた方の勝ち。総当たり戦で一番勝率の高かった班が聖クラベル女学院と戦う。
痛みや怪我はフィールド内でのみ有効で、フィールド外に出る又は試合終了後に支障はない。例えフィールド内で骨折をしたような感覚があったとしても、内蔵が破裂したように感じたとしても、それらは全て幻であるということだ。
(…みんな、聞こえる?例の敵は予想通りの場所にいたよ)
(あぁ、聞こえるぞ。了解した)
(は、はいっ!私も聞こえます!)
(了解、聞こえるわ。ちなみに、こちらは交戦中よ。でも…そうね、あと三分…いや、二分あれば倒せるわ)
(私も今敵と対峙した。初めて戦うタイプなので憶測ではあるが、こちらも二分あれば片付きそうだ)
(わ、わわ私は何をすれば良いのでしょうか?!)
((待ってて(ろ)))
(は、はいぃっ!!)
(とりあえず試合中はずっと思考を共有しとくね、何時でも使って知らせて)
(感謝する)
(……よしっ!倒したわよ!)
「四班、藤原理紗、脱落!」
(…こちらも片付いた)
「四班、片木菜穂、脱落!」
教官の掛け声が聞こえたと同時に、敵が動き出した。
構えていた銃を降ろし、立ち上がって辺りを見渡す。そして、リシャのいる方を向いて…
(リシャ!危ない、避けて!)
(…?!)
バンッ!!
「三班、アダリーシア・マルキ・フォン・フェルディナンド、脱落!」
(恵月、次は恵月の方を向いてる!)
(…知ってるわ)
…え?恵月には、彼女の姿が見えていないはずなのに…?
カンッ!!(バンッ!!)
フィールド内に、銃弾と氷の当たる音が響き渡った。
「三班、遠山果穂、脱落!」
(…常磐、聞こえる?)
(は、はい!お疲れ様でした、恵月!)
(…ありがと。ちょっと銃弾が掠ったみたいなの、Bビル西側の住宅街を入って三つ目の角を右に曲がった所にいるから治療に来てくれる?)
(りょ、了解です!直ぐに向かいますね!)
ということは、私は残りの一人を探して倒さなきゃならない。
精神系能力持ちとはいえ、私も戦華。一般人よりは戦いに優れている。…向こうも同じだけど。
恵月のいる場所、リシャのいた場所、予測できる常磐の移動ルート。先程までの戦闘で得た情報と、事前に覚えておいたフィールドの地図を脳内で照らし合わせる。
「…見つけた。」
残り1人の居場所を割り出すことに成功、私は急いでそこへ向かう。
(恵月、常磐。A学園三号棟二階に残りの敵がいるはず!私はそこへ向かうから、動けそうだったら来て!)
((了解!))
A学園三号棟二階の廊下に着き、教室を一つ一つ確認していく。
廊下の端まで着き、最後の教室の扉に手をかける。…多分、ここにいる。
ガラッ
ガッ!ドゴッ!!バンッ!!
目の前から瑠璃色の眼の少女が襲いかかってくる。私は少女の腕を掴み、反動を使って思いっきり投げ飛ばす。
まだ脱落ではないようなので、投げ飛ばされて壁にぶつかって動かない少女の元まで歩いて行く。
「…じゃあ、これで私の勝ちね」
そう言って彼女を失神させるべく腹部を殴ろうとしたその時ー
「残念、あんたの負け」
ドゴッ!!
「……っ?!」
突如私の腹部と背中に衝撃、背骨には骨折した感覚が走る。
気付いた時には、私は近くの電柱にぶつかっていた。
「油断してくれてありがと」
そう言って彼女は私の方に向かってくる。
駄目だ、負けてしまう。
失神しないように私は腕で自身の頭部を庇う。
ガンッ!!(カンッ!!)
「三班、松村絵里、脱落!よって、四班の勝利!!良い試合だった、御苦労!」
………え、勝っ、た…?
「全く、危機一髪ね」
「ま、間に合いましたぁ〜」
「恵月!常磐!!」
「無事で良かったわ。怪我はある?痛む所は無い?」
実を言うと背骨と腹部がかなり痛むが、フィールド外へ出たら問題なくなるので問題は無いだろう。
「ん、大丈夫!さ、戻ろっか!」
痛む体を動かし、私は恵月と常磐の前に立つ。しかし、常磐は動かずにじっとこちらを睨んでいる。
「…常磐?どうしたの?」
「……由香、肋骨と背骨が折れてますよね?怪我に関して、嘘はいけません。このままにすると、フィールドの外へ出る前に折れた肋骨が内蔵に刺さって吐血しますよ?さぁ、少し待っていて下さいね」
そう言って常磐が私の体に手をかざす。
少し温かさを感じたと思ったら、痛みを感じなくなった。
「さ、完治しましたよ。これからは絶対に嘘をつかないでくださいね?己の体調は自分でしか分かりません。医者だって万能ではありません。「分かってくれ」「気付いてくれ」なんていうのはただの我儘です。己の体調を軽んじたら最後、己の体調に泣かされることになりますよ」
「…返す言葉もございません…」
普段温厚な常磐に怒られて悄気返っていると、恵月が突如笑い出す。
「…ぷっ!あははははっ!」
「ちょ、恵月!笑わないでよ!」
「ふふっ!」
「常磐まで?!」
「だって、あまりにも汐らしいんですもの!あははっ!あははははっ!」
両脇から大笑いされながら、私たちはフィールド外で私よりも汐らしくなっているリシャの元へ向かう。
「リシャ!勝ったわよ!!」
「…不甲斐ない、私だけが脱落するとは…」
「いやいや、私が気付くのが遅かったの。ごめんね」
「お、お二人共悪くないです!」
「そうよ、勝てたんだからそれで良いじゃない。それに、今回のMVPは絶対私だわ!ピンチの由香を助けたの」
「それは凄いな!由香も、ありがとう」
「こちらこそ。さっき気付いたけど、リシャの倒してくれた片木菜穂って子、序列三位だったんだね。なのにあんなに簡単に倒したんだから、リシャは凄いね。実質リシャが序列三位じゃん!」
序列とは、週に一度計られる戦闘能力順位のこと。新入生は未だ入学試験の時の成績順位だが、今回の総当たり戦で序列が変わる。ちなみに私は、二十人中十六位。とほほ…
「…由香。も、もしかして、知らないんですか?」
「…え、何を?」
「リシャは元から序列二位よ」
「………え?…えぇっ?!」
「知らなかったのか。まぁ良い、どうせ大した事では無いからな。…しかし…ということは、まさか恵月と常磐のことも知らないのか?」
「…何を…?」
「私の序列は一位。常磐は攻撃系じゃないから序列では下位層だけど、色々な研究機関からオファーが来てるほど将来有望。この間は遂に世界政府からオファーが来たのよね?」
「どうせ非人道的な事しかしないので蹴りましたけどね」
「………」
え、私の仲間もしかして最強…?
「だが、今回の試合でわかったのは、由香が一番実践向きだと言うことだな。多分この班の中で一番実践に向いているのは、由香、お前だ」
「そうね、由香が居なかったら引き分けだったかも。ありがとう、由香」
「場所を割り出す所とか、凄く格好良かったです…!あ、ありがとうございました!」
「…みんな、ありがと。というか、私たち最強じゃん!この調子で全勝しよ!」
「「「おー!!」」」
その後、私たちは有言実行全戦全勝。
私と常磐も序列を上げ、我々三班は新入生代表として聖クラベルとの練習試合の日を迎える事となった。