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能力育成

「アハトゥンク!私は能力育成担当の五十鈴蘭(いすず らん)だ。諸君には、来月は聖クラベル女学院、再来月には帝国桜女学苑との練習試合が控えている!全国大会出場を視野に入れた育成プログラムを組んでいるから、心して励め!」


「「「はっ!」」」


「能力別に訓練ブースがある。各自のブースに移動し、各々の教官の司令を聞け。ヴェーク・トレーテン!」


それぞれ、同室の子と別れて思考系能力育成ブースに向かう。

戦華の能力は主に、長距離攻撃系、短距離攻撃系、人体系、精神系の四つ。

リシャは短距離、恵月は長距離、常磐は人体系らしい。

私の配属先である精神系ブースに着くと、優しそうな教官が一人と、私を含めて三人の生徒がいた。


もともと、戦華の能力は攻撃系が多い。特に、我が帝国女学館は攻撃系能力育成に長けている。私のもつ精神系能力育成に長けているのは、全国大会優勝常連校であるヴィクトリアローズ中央女学園か、聖クラベル女学院の姉妹校である聖リブロン女学院のどちらかだ。ほとんどの精神系能力を持つ戦華はこの二校のどちらかに進学するが、私には性が合わなかった。


ヴィクトリアローズ中央女学院は、優雅でお嬢様感溢れる校風。ただ、いつも真顔で何を考えているのか正直よく分からない。そもそも入学条件が金髪だ。


聖クラベル女学院は、優美でお洒落な校風。ただ、自己主張が激しく、いつも生徒同士で喧嘩している。入学条件に髪色指定は無いが、私はお洒落に向いていない。


以上のことから、例え能力的に不利な学校であろうとも、質実剛健で有名な我が帝国女学館に入学したのだ。

だから、精神系の生徒が三人いるだけでも驚きだ。


「は〜い、みんな集まったわね〜?フロイト・ミヒ〜!私は精神系能力育成担当教官、清水泉美(しみず いずみ)で〜す!今年は三人!なかなか多いわね〜!…去年なんか一人もいなかったのに…。よろしくね〜!」


き、キャラが濃い…そして、帝国女学館っぽくない…


「先ずは自己紹介しなくっちゃ!じゃあ、貴女からおねがいね〜?」


そう言って指されたのは藤色の眼の女の子。藤色の眼の子、私、桃色の眼の子の順に自己紹介が始まる。


「はい。私は、藤庭華音(とうば かのん)です。能力は虚言洗脳、嘘を信じ込ませる能力。よろしくお願いします」


「小此木由香です。能力は思考共有」


「…幸田夢叶(こうだ ゆめか)。幻を見せる」


「わぁ〜!今年は逸材揃いなのね〜!さ、みんなで打倒!聖リブロン!」


…ん?聖リブロン…?


「…清水教官、来月戦うのは聖クラベルでは無いのですか?」


華音が質問すると、突如清水教官の顔から笑顔が消えた。


「……聖クラベルなんかどうだって良いのよ。攻撃系は攻撃系に任せときゃ良いの。目には目を、脳筋には脳筋を。私たちが戦わなきゃいけないのは聖リブロンよ聖リブロン。そもそも、何であんなにおちゃらけてるのに成績優秀なのよ!しかも私達みたいな愚民共のことを虫けらを見るような目で見てくるし!!ごめんなさいね愚民で!!!てかマウントすごいし!!嫌い!すっごい嫌い!!」


「「「………」」」


絶句。

教官として口にしてはいけない言葉を羅列しながら、聖リブロンを尽く貶していく清水教官の目には薄ら涙が溜まっているような…いないような…?


「コホンッ!…と、言うわけで。私達はあのお高く止まった聖リブロンの鼻をバッキバキに挫いてやる為に…つまり、全国大会で聖リブロンを倒す為に!最初の実技テストは一週間後!頑張りましょ〜!!」


「「「…お、お〜…?」」」


…そうは言っても、訓練は至って単純。

華音は人体系能力を持つ戦華に作ってもらった人造人間を相手に、とにかく洗脳を繰り返す。夢叶は清水教官に幻を見せ、私は手の空いてる他の教官達の思考を共有する。


その日から一週間、ひたすら食べて寝て訓練、食べて寝て訓練を繰り返す日々が続いた。

私たちは帝国女学館の名に恥じない程度まで能力を向上させ、実技テストでは、華音は軍隊全員に同じ嘘を信じ込ませることに成功、夢叶も軍隊全員に同時に同じ幻を見せることに成功。私も、街一つ分の人口に対して思考を共有させることに成功した。


「グート・ゲマハト!どの分野も平均以上。特に、精神系が一番良い出来だった。この調子で諸君には頑張って欲しい。…さて、今後は三日に一回、生徒同士で戦ってもらう。大会や試合は全て同室メンバーで戦うことは知っているな?総当たり戦で、初日は今日だ。試合計画表はエントランスに貼ってあるから、各自確認するように。ヴェーク・トレーテン!」


き、今日からか…。

私たちは三班なので、試合開始は二時間後。それまで作戦会議をする事にした。


「…ねぇ、誰か四班の子のこと知ってる?」


「確か、短距離のブースに二人いたな。一人はヴァッサー・ベトリーベン、もう一人はリーゼン・シュテルケだった」


相変わらず理解不能な言語で話されたので、とりあえず恵月の方を向いてみる。


この一週間で、恵月は旧帝国語が理解出来ることを知った。その他にも、可愛いものとチョコが好きなこと、の割に虫は素手で触れること、ピアノの全国コンクールで優勝したことがあること、旧帝国語以外にも計七カ国語を話せること等を知った。但し料理は任せてはいけない。

常に物事を冷静に達観しているが、達観しすぎて失言が多い。照れ隠しの時、口調が強くなる癖がある。


「はぁ…水流操作と怪力のことよ。リシャ、そろそろ伝わらないって学習しなさいよ」


「あ、あぁそうか。すまなかった、つい癖でな」


まぁ、幼い頃から聞いていた言語を変える方が大変だろう。リシャについては、旧帝国時代の侯爵家であること、肉と犬が好きなこと、虫が苦手なこと、ヴァイオリンと料理が得意なこと等を知った。

見た目通り決断力があり、統率力にも長けている。世界共通の標準語を覚えるのに、常人なら数十年かかる所をたったの三ヶ月で覚えたことも知った。私も旧帝国語を勉強しようかな…


「長距離の方にも一人居たわ。あの子は確か…超遠可視?百メートルくらい遠くまで見える見たいよ」


ひゃ、百メートル…


「じ、人体系にも一人いました!確か、単純な治癒能力でした…!」


常磐はこの一週間で、だいぶ緊張が解れてきた。優柔不断で、人見知り。動物と辛いものが好きだと知った。あと、物凄く秀才。常磐の能力である人命治癒は、普通の治癒とは違い、能力を磨けば生死を操ることも出来る。普通の治癒能力を持っているだけでもかなりの秀才なのに…。ちなみに、虫を見つけたら飼おうとするので要注意。


また、恵月と常磐は料理で殺傷能力を持っている。

常磐が作る料理は見た目から危ない。具材も危ない。よく分からない植物やら虫やらを入れたりしているらしい…。ただし、偶に美味しいものもある。


なので、一番殺傷能力が高い料理を錬成するのは恵月だ。

恵月の作る料理は驚くほど美味しそう。見た目だけで言ったらプロレベル。ただし、味は殺傷能力の保証しかされない。具材も手順も全てが同じなはずなのに、何故か恵月が作ると殺傷能力を発揮する。

二度と、恵月の料理は食べたくない。


「リシャの言っていた水流操作の子は私に任せて頂戴。水流操作はリシャにとっては不利だけど、私にとっては赤子の手をひねるようなものだわ」


「頼んだぞ、エルナ。じゃあ私はリーゼン・シュテルケの方の相手をしよう。超遠可視の方は…射撃だろうから、由香、頼めるか?」


「良いけど…私、何をすれば良い?私の能力は精神系とは言ってもサポートだし…」


「フィールド内で敵に見つからない所に居てくれれば良い。そして、敵の居場所と行動を随時報告してくれ」


「分かった。ちょっと、フィールドの地図借りるね?」


「あ、これです…!」


常磐から手渡された地図に赤いペンで書き込んでいく。これは、三角形の相似関係を応用した死角計算方法。


「………あった。」


「何があったの?」


「ここ、見て」


私はみんなに、フィールド内をほぼ全貌できる関わらず、多くの場所から見て死角となる場所を指し示す。


「多分、敵はここに隠れる。だから、私はここにいるね」


そう言って今度は青ペンでその場所からの死角を囲んだ。


「…凄いな、由香」


「そうね、数学が得意なの?」


「得意って訳じゃないよ。ただ、基本を覚えておけば大体の試合は制せるから、覚えておけば損は無いでしょ?私の能力は、時として何の役にも立たなくなるから。その時の為の道具」


「か、格好良い…です!」


「あぁ、格好良いな。これからも宜しく頼むぞ」


「うん、ありがとう」




『役立たず』『一般人』『足でまとい』

そんなこと、二度と言わせない。

私は、戦華としての〝本来の〟役割を果たさなきゃいけないんだから。

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