帝国女学館
「新入生の皆さん、グーテンターク。ようこそ帝国女学館へ。私は、校長の矢車優美。我が校の象徴であるセントウレアのように、皆さんが世の中から信頼されるような人材になる手助けをします。戦華としての誇りを持って、強く、気高く咲き誇って下さい」
-戦華-
それは私たちのこと
かつて世界は混沌としていた。国同士で争いあった激動の時代。その時代の戦の最前線に立って戦っていたのが戦華だった。
世界は“世界女王”を設ける事によって、激動の混沌時代を潜り抜けた。
争いの終わったこの世界に唯一残った兵器“戦華”。人間離れした身体能力と、戦闘に特化した能力を生まれ持つ、人間の女子の形をした兵器。戦華は確かに人間から産まれるが、ソレらが真の人間だと認められたのは十数年前のことである。
だからこそ、戦華を育てる学校は少ない。その数少ない学校の内の一つがここ、帝国女学館である。
「さぁ、寮に移動しましょう。皆さん、着いてきて下さい」
矢車校長の挨拶が終わり、私たちは列を作って寮へと足を運ぶ。
生徒数は各学年二十名ずつの計六十名。
部屋は四人一部屋。
もちろん部屋に入ると私を含めた三人が居るわけで。
扉を閉めて四人揃って硬直していると、紅眼の女の子が話し出した。
「フロイト・ミヒ。私の名前はアダリーシア・マルキ・フォン・フェルディナンドだ。長いのでリシャと呼んでくれ。能力はフランメ・ベトリーベン。よろしく頼む」
「…ふ、フランメ?」
「フランメ・ベトリーベン、だ。…まさか、伝わらないのか…?私は旧帝国の名残が強い地域から来たからな、標準語での呼び方も分からんから、実際に見せた方が早いかも知れん」
ゴウッ!!
そう言うと同時に、リシャの手から炎が吹き出す。なるほど、火炎操作のことか。
「よろしく、リシャ。私は白鹿・シュミッド・恵月。旧帝国の息がかかった辺りの地域から来たの。能力は強制凍結」
今度は碧眼の子が名乗ってくれた。
どうやら私は旧帝国近辺から来た子が多い部屋に配属されたらしい。
「ふ、ふふ、フロイト・ミヒ!わ、私は、く、九条常磐…です!…の、能力は、人命治療です…よよよ、よろしくお願いしまひゅっ!!」
か、噛んだ…。
よほど緊張しているのか、パッチリとした黄色の眼をおどおどさせながら話している。
「フロイト・ミヒ。私は小此木由香。能力は思考共有」
「よろしく。…あら、案外バランスの取れた能力振り分けなのね」
「あぁ。目の色も、私が赤、恵月が青、常磐が黄、由香が緑。ちょうど良いな」
「さぁ、片付け始めちゃおうよ。この後の予定なんだっけ?」
「こここ、この後は、制服着用後、来月の聖クラベル女学院、再来月の帝国桜女学苑との練習試合に向けた能力育成です!」
「ありがとう、常磐」
コンコン
「はい」
「アダリーシア・マルキ・フォン・フェルディナンド嬢、荷物が届いていますよ。ロビーへ取りに行って下さい」
「了解した」
「今のは…?」
「寮監よ。この寮を管理してる人」
「なるほど」
一体リシャは何を取りに行ったのか悶々と考えながら、目の前の荷物を片付ける。
ガチャ
「戻ったぞ」
「おかえりなさい」
暫くして戻ってきたリシャが連れて居たのは…
「クラーラだ。よろしく頼む」
…犬?!
た、確かに犬を連れてきちゃダメとは書いてなかったけど…
「じ、ジャーマン・シェパード、ですね!可愛い〜!さ、触ってみても、良い…ですか?」
「あぁ、今後は私たちの同居人になるからな。存分に可愛がってくれ」
常磐はどうやら犬が好きらしい。
早速近寄って行って、クラーラを手懐けている。は、はやい…
「…準備できたわ。常磐、貴女まだでしょう?犬と戯れていないで、早く準備したらどう?」
「あっ、そ、そうですよね!い、いい今準備してきます!」
常磐がクラーラから離れると、今度は恵月がいそいそと近付いて行き、ポケットから謎の袋を取り出す。そして袋から中身を取り出してクラーラの口に運ぶ。まさかそれって…
「………餌ぁっ?!」
「「?!」」
「な、何よっ!私が餌持ってちゃいけないの?!」
恵月の顔がみるみる赤く染まっていく。
「いや、別に悪くは無いけど…ただ、ねぇ?」
そう言って私は他の二人の方に同意を求める。
「は、はい…」
「まぁ、そうだな」
「な、何よ皆して!ど、どうせ、私がこんな見た目だから、犬なんか好きなわけがないとか思ってたんでしょ?!」
そりゃあそうだ。
恵月は、この学校の入学条件の一つである銀髪を肩甲骨の辺りまで真っ直ぐに伸ばし、パライバトルマリンに近い、エメラルドグリーンのような瞳を持つ。しかも凄くスタイルが良い。
我が校の制服よりも、聖リブロン女学院の制服の方が余程似合う。
「い、良いでしょ別に!!リシャだって犬好きには見え…見え…ない、わよ…ね?」
「いや、見えるよ?」
「み、見えると思います…」
「私的には、クラーラを可愛がってくれたらそれで良い。ついでにもう一匹飼うか?」
「それは制服が犬の毛だらけになるから嫌」
「そうか…」
「じ、準備できました!」
「もう良いわよ!…はぁ。じゃあ、シュポルトプラッツに向かいましょうか」