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サイファ ~少年と舞い降りた天使~  作者: 冴條玲
第一章 舞い降りた天使
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第9話 今夜は帰らないで

 夜の(とばり)が降りる頃まで。

 僕はずっと、デゼルの傍について闇の神様(オプスキュリテ)にデゼルの回復を祈り続けた。


 ごめんね、デゼル。

 本当にごめん。


 ずっと、言えなくて。


 学校で、僕がどういう立場にあるのか、みんなにどう思われてるのか、デゼルにだけは、知られたくなかったんだ。

 ごめんね、こんな、情けないありさまで。

 ガッカリしたよね。


 知られたら、デゼルも僕から離れて行くと思った。

 デゼルだけは、失いたくなかった。

 どうして、言わなかったんだろう。

 デゼルを傷つけるくらいなら、僕が傷つけばよかったのに。


 それなのに、どうして――


 デゼルはどうして、こんなになるのに、闘ったの?

 どうして、デゼルはひとつも悪くないのに、ぜんぶ、デゼルが悪いことにしたの?


 こんなことのために、デゼルの傍にいたんじゃないのに。

 僕がどんな目に遭っても、デゼルがガッカリせずに、昨日までと同じように傍にいてくれたら、昨日までと同じように僕を呼んで、笑いかけてくれたら、僕なら、それだけで、どんなことにも耐えられたのに。


 デゼルの高熱が引かないんだ。

 息も絶え絶えで、それなのに、たまに意識が戻ると、僕を見てほっとした顔で笑うんだ。


 闇の神様、どうか、デゼルをお守り下さい。どうか――



  **――*――**



「サイファ…さま……」


 気がついた様子のデゼルが、僕を探すように右手を宙にさまよわせたから。

 僕はほっとしたあまり泣いてしまいそうになりながら、きゅっと、その手をつかんだ。


「デゼル、気がついてよかった。何か食べられる? お水なら飲める?」

「…キノコ……サイファ様と一緒に採ってきたキノコ……デゼルと一緒に、焼いて食べよう?」


 やだな、デゼルったら。

 僕のこと、こんなに心配させておいて、まずキノコなの?

 もぉ、可愛いんだから。

 僕はクスっと笑って、優しくデゼルの髪をなでた。


「キノコだね。わかった、焼いてくるから、少し、待ってて。お水はここにあるからね」


 デゼルがこくんとうなずくのを確かめた後、僕はリュックごと、キノコを持って部屋を出た。

 そうしたら、デゼルが起きてついてきちゃったから、すごく、驚いたんだ。

 起きられるくらいデゼルが元気になって、安心したら、デゼルのすることがあんまり可愛くて、抱き締めたくなったけど――

 デゼル、まだ苦しいかもしれないから、我慢して、キノコをどうやって焼いたらいいのか教えてあげた。

 僕、上手なんだから。


美味(おい)しく焼けました」


 アツアツのキノコを頬張りながら、デゼルが幸せいっぱいの笑顔で言うんだ。

 おかしくて、笑っちゃった。


「よかった、デゼルが元気になって」

「うん。でも、今夜は帰らないで、サイファ様」


 僕、大丈夫かな。

 デゼル、ものすごく可愛いんだよ?

 ついさっきまで高熱で、息も絶え絶えだったデゼルを、渾身の力で抱き締めちゃったりしない自信、あんまり、ないんだけど。


 キノコにブロッコリーとじゃがいもを添えた料理を食べて、デゼルはお腹がいっぱいになったみたい。

 今度は、ふらふらとお風呂に入りに行った。

 僕も、その間に神殿のお風呂を借りて、歯を磨いて、パジャマに着替えた。

 その間に、いろいろ考えた。

 これで終わりじゃないんだ。

 公国の滅亡を阻止したいなら、こんなこと、きっと、始まりですらないんだよね。後戻りはできない。

 デゼルも僕も、もっと、危険な目に遭うんだと思う。

 つらいことや悲しいことが、たくさん、あるんだと思う。


 デゼル、本当にいいのかな。

 僕は?

 僕こそ本当に、デゼルにこんな思いをさせてまで、守れるかもわからない公国を守りたいのかな――


「サイファ様、一緒に寝よ~」


 顔を上げたら、枕を抱いた湯上がりのデゼルがいて。

 えぇっ。

 可愛い。

 わ、わ、胸がとくとく、とくとく、高鳴って止まらないよ。

 そんな僕を見てデゼルが笑うんだ。

 駄目だったら、そんな、可愛い顔で笑ったら。

 どうしよう、抱き締めたいな。

 ぎゅってしていい? だめ?


「サイファ様、あのね」


 月をかたどったナイトライトをつけて、僕のとなりに座ったデゼルが、寄りかかってきて。

 わ、わ、痺れる甘さってこういう――

 すごく可愛くて、パジャマ越しに感じるデゼルの肌のあたたかさが優しくて。

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