第7話 悪役令嬢はキノコりたい
デゼルはまだ七歳なのに、すんなり、四年生の僕のクラスに編入してきた。
当然だよね、闇巫女様だし、読み書きと算数はすごくできるし、生活科だって、僕のクラスの女の子たちと同じ程度にはできる。
最初の十日ほどは、クラスのみんながデゼルを珍しがって、可愛がって、夢中だったから。幸か不幸か、僕の話題は出なかった。
だけど、生活の授業で、近くの森にキノコと木の実を採りに行くことになった日に。とうとう、デゼルに小学校での僕を知られてしまうことになったんだ。
**――*――**
「キノコりたい~♪ キノコりたい~♪」
いつものように、僕がデゼルの手を引いてあげて歩いていたら、デゼルがきげんよく歌い始めた。
何の歌だろう、ヘンテコな歌。
おかしくて笑っていたら、他の子もそう思ったみたいで、デゼルに聞きにきた。
「なにそれ、デゼル」
「キノコりたい歌」
「キノコるってなに」
「生き残るんだよ!」
元気いっぱい、答えるデゼルが楽しそうですごく可愛い。
「「キノコりたい~♪ キノコりたい~♪」」
たちまち、クラスのみんなが合唱を始めちゃった。
「なにそれ」
「キノコりたい歌」
「キノコるってなに」
「生き残るんだよ!」
真似して、涙を流して笑う子や、草の上に仰向けに寝転がってじたばたしてまで笑う子もいる。
デゼルって、可愛くて頭がいいだけじゃなくて、すごく、おかしくて面白いんだ。
「こらー! 授業を始めるぞー!」
先生が声を張り上げた。
**――*――**
まず、デゼルを手伝ってキノコを先に集めて、先生に見てもらってから。
木の実を採ろうって、見つけた木の実に手が届かないデゼルを、だっこしてあげようとした時だった。
「デゼル、ほら。やるよ」
ジャイロが寄ってきて、木の実をデゼルにあげようとしたんだ。
ジャイロも、デゼルが好きなんだと思う。
当たり前だよね。
デゼルってすごく綺麗で、やることなすこと可愛いんだもん。
「ありがとう、ジャイロ」
――あれ?
どうしたんだろう、デゼル。
あんまり、嬉しくないのかな。
笑顔でお礼を言ってるけど、僕に見せる笑顔に比べたら、すごく、ぎこちない。
――あれ。
なんだろう、この気持ち。嬉しいみたいな。
僕じゃない誰かからのプレゼントをデゼルが喜ばなかったのが、僕、嬉しいみたいなんだ。
受け取った木の実をリュックに詰めたデゼルが、何もなかったように、だっこしてって僕にねだった。
わぁ。
今度こそ、嬉しいって思っちゃった。
デゼル、木の実ならジャイロにもらったのに、僕と一緒に採りたいんだ。
すごく、嬉しい。
「デゼル、あの木の実を採りたい!」
楽しいような、くすぐったいような気持ち。
僕が笑顔で、デゼルを抱き上げた時だった。
「サイファー、調子に乗ってんじゃねーぞ」
ジャイロが低くつぶやいて、僕をにらみつけた。
僕はあわててデゼルを下ろすと、緊張しながら、デゼルを背中に庇った。
ジャイロがボキっと、デゼルが木の実を採ろうとしていた枝を折って、デゼルに寄越した。
「駄目よ、枝を折るなんて!」
少し、驚いた顔でデゼルを見たジャイロが、いやな笑い方をしたんだ。
「きゃ」
ジャイロがデゼルに手を伸ばすのを見て、デゼルが小さな悲鳴を上げたのと、僕がジャイロの手をつかんだのは、同時だったと思う。
「やめろ!」
「スニール」
どうしよう!?
スニールがぎゅっと目を瞑って、僕にしがみついてくる。
僕が殴られるだけならいいけど、デゼルがいるのに――!!
スニールにしがみつかれて、動けない僕の顔をジャイロが殴ってすぐだった。
背中側から、蒼い焔が立つように、闇の魔力が立ち昇った。
――デゼル!?
「デゼル、駄目だ!」