第57話 悪役令嬢は中学校を中退する
そんなこんなで、中学校なんだけど。
実は、入学したその月のうちに、デゼルが中退してしまうことになったんだ。
**――*――**
あれは、中学校の授業が本格的に始まってすぐのことだった。
小学校は卒業まで、四年生の時に担任だった先生が、僕達をそのまま受け持ってくれたから。
デゼル、生活科の実技以外、授業は聞かないのが当たり前になっていて、中学校でも同じようにしてしまったんだ。
なぜって、小学校のクラスでは、デゼルが誰よりもできること、みんな知っていたから、誰も、それをへんだとは思わなくて。
それより、クラスに可愛くてかしこい動物がいるのを嬉しがって、興味津々でそわそわしてた。
闇巫女様って、ちっちゃいのに四年生の言葉がわかるよ、かしこい! って。
だけど、中学校の先生は歓迎しなかった。
チョークでトントンとデゼルの机を叩いて、デゼルに教科書はって聞いたんだ。
デゼルは持ってきていませんって答えた。
そうしたら、怒った先生がデゼルを廊下に立たせたから、僕、すごく驚いたんだ。
だって、十歳だって闇巫女様だよ。
大公陛下を廊下に立たせるようなものなのに。
デゼルは泣きながら、水晶球と攻略ノートと筆記用具を持って、廊下に出て行った。
公国を滅ぼさないために、デゼルは命懸けで頑張ってきたのに、僕、デゼルがあんまり可哀相で、黙っていられなかった。
授業が終わり次第、先生に事情を話そうと思ったんだ。
だけど、廊下に出たデゼルが立たずに、座って水晶占いを続けているのを見た先生は、それすら許さなかった。
青ざめた顔を引きつらせたかと思うと、授業が終わる前に廊下に出て行って、まだ十歳のデゼルにどうしてそこまでって思うくらい、バチンって強く叩いたんだ。
「先生!」
僕はほとんど、叫ぶように声を上げていた。
「デゼルは小学校でずっと、こうすることを許されていたんです。悪いことだとわからなかったんです。廊下に出されて泣いているデゼルを、この上、叩くなんて!」
そうしたら、二人を追って廊下に出てきていた僕を、先生がギッとにらみつけた。
今度は、僕が叩かれたんだ。
でも、まるで痛くなくて、僕は少し途惑った。
なんだろう、手加減してくれたのかな。
先生、すごく怒って見えて、手加減してくれた表情じゃないんだけど――
どうして痛くないんだろうって、途惑った僕が反応できずにいたら、デゼルが泣きながら「もう、明日から来ません」って。
ああっ。
手の甲で涙を拭おうとして、拭っても拭っても涙が溢れるデゼルはあっという間に、クロノスの魔法で闇神殿に帰還してしまった。
きっと、デゼルは僕が叩かれたこと、デゼルのせいだと思ってショックを受けたんだ。
小学校の頃、僕の机に「まじょのどれい」って書かれていた時にも、全然、気にしなくていいのに、すごく気にして今みたいに泣いていたから。
デゼルって、僕に何かあると気にし過ぎるんだ。
泣いているデゼルの傍についていてあげなくていいのか、すごく気になったけど、学校の授業を受けないわけにもいかないし、困ったな。
急に、デゼルがいなくなった教室は、まるで、火が消えたみたいに寂しかった。
先生に叩かれたことより、僕はよっぽど、教室にデゼルがいないことに動揺して、授業に身が入らなかった。
だって、教室にデゼルがいなかったことなんて、この三年間、一度もなかったんだ。一緒の教室にいたって、席も隣じゃないし、授業中には話しかけもしない。
それでも、ただ、デゼルの気配がするだけで、僕は随分と安心して、居心地よく過ごせていたんだって、思い知った。
そしてそれは、デゼルがいない教室に途惑ったのは、僕だけじゃなかったんだ。
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【ご感想】羽海様より
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サイファたちから見たデゼルは未だに小さくて可愛い未知の動物なんですね…?
公的な場でデゼルにリードされていても、小さいのにすごいなあ、賢いなあと思いながらサイファがにこにこデゼルを見守っているのを想像するとほんわかします。
こうなることが分かっていても、心苦しくなってしまう場面です…
相手が幼いデゼルであっても、見過ごすことなく授業を聞いていなかったことを咎めた先生は、教師としては正しかったのかもしれませんが、女の子を叩くのはやりすぎだと思います。もう少しデゼルの事情をくんであげることはできなかったのかなと思ってしまいます…
サイファが叩かれても痛みを感じなかったのは闇主になったおかげでしょうか。そうだとすれば、デゼルを庇って叩かれたのと、デゼルと契ったおかげで痛くなかったのとでプラスマイナスゼロなので、デゼルが気にする必要は本当にないと思います。むしろデゼル以外の原因で暴力を振るわれても耐えやすくなったのだからプラスなのではないでしょうか。
サイファとデゼルが同じ空間で一緒にいられる貴重な時間を奪ったという点でも、先生は罪深いです…
☆ 返信 ☆
素敵なご感想、ありがとうございます✨(*´∇`*)
デゼるんと同じ教室で授業を受けているだけのクラスメイトはもちろん、
たくさんの冒険を一緒にして、寝食まで共にしているさいふぁ様にとっても、デゼるんはまだまだ、不思議がいっぱいの可愛らしい生き物です♪
………ところで、あの… あのですね…?
さいふぁ様にドSの自覚はまったくなく、闇巫女様(公国のお姫様)に闇主として立派にお仕えしているつもりなので…!
アレ、お仕えする者の態度なのデスか!? と、突っ込めるのは読者様ばかり。
マリベル様とかじゃいとかガゼるんとか、二人きりの時のさいふぁ様とデゼるんの様子を知ったらツッコミが追いつかなそうですが、知らぬが仏…(=∀=)
さいふぁ様が先生に殴られても痛みを感じなかったのは、そのまま、『先生のこぶしには痛みがなかったから』だったりします。
デゼるんに出会うまで、さいふぁ様は学校ではじゃいに、仕事では大人に殴られていました。
仕事で殴られるのは、商品を駄目にしてしまった時とか、受け取るべき代金をきちんと受け取れなかった時とか、過失とはいえ、働かせてもらった恩に仇で報いてしまった時です。
じゃいの方は、キングコングによる凶悪な虐待に耐え続けるしかなかった子どもの痛みと怒りのマグマのこぶしです。たとえ八つ当たりでも、そのこぶしに宿る痛みは本物。
なんで母ちゃんは帰ってこないんだ! なんで俺と姉ちゃんをこんなゴリラのとこに置き去りにしたんだ! なんでだよ、なんで! っていう、母親に置き去りにされた子どもの深く救いのない悲しみと寂しさのこぶしです。
そういうこぶしに殴られてきたさいふぁ様にとって、『子ども達が私をなめている』と、苛立ったにすぎない先生のこぶしは、あまりにも、軽いものだったのでした。
万単位の人命がかかった仕事に取り組んでいるデゼるんとさいふぁ様なので、中学校の先生に対する思いは「小学校の先生と違って、理解してくれないんだ。困ったな」程度のものだったりします。
公家なり闇神殿なりに先生の仕打ちを訴えれば、ただちに処分してもらえるのですが、そこまでしたら悪いからと、先生の立場を思いやってしまう二人だからこそ、対応に少し、困っているに過ぎないのですが……
――だが、しかし。
このクラスにはもう一人、こぶしで語りたい『神に選ばれし闇のモブリーダー』の影が…! 先生、あやうし!!(; ・`д・´)9
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【ご感想】しき様より
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第7話 悪役令嬢はキノコりたい
https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4514477
この世界の生活科は食べ物を集める所から実習内容になってて楽しそうですよね!
しかも実用的できちんと生活に活かせそうなのが素晴らしいです!!
そしてサイファ様編ではデゼルさんと初絡み回のジャイロさん!
初めの方はインパクト強いですよね……
周りの子達はどう思いながら過ごしてきたんだろう……
先生は気付いてなかったけれど、これだけ長期に渡って手を出していたら周りの子は気付いていたと思うんですよね……
みんな気付いていたけれど、標的にならないように見て見ぬふりするしかなかったのかなぁ。こういうのって気付いている方も辛かったりしますよね……
☆ 返信 ☆
楽しそうですよね✨(*´∇`*)
こちらの世界と違って、公国の山林や河川はほぼ国有地で、すべての公民に自由な狩猟や採集が許されているため、ホントに実用的です。
例外的に、さいふぁ様がよく夕飯のおかずを集めていた闇神殿の庭園だけは、大人がつきそえない事情のある子供だけに解放された、獣も毒蛇も出ない恵の園なのですが。
ジャイロがよくさいふぁ様を殴るの、子ども達はみんな、マリアちゃんだって知っていました。
多くの子がまさに触らぬ神に祟りなしで見て見ぬふりをしていた中、いじめを黙って見てるなんてしそうにないマリアちゃんさえ黙認していたのは、
「ジャイロの悪口を陰でみんなに言いふらしてたスニールが悪いのに、サイファはどうしてあんな子を庇うの? ジャイロはひとつも悪くない、スニールがジャイロに謝るべきなのよ!」
っていう思いがあるからだったりします。
デゼル編でデゼるんも見抜いた通り、これはいじめではなくケンカだと、マリアちゃんも見抜いていました。(そしてマリアちゃんはジャイロの味方です)
さいふぁ様の考え方って、ふつうの子にはすごく不思議というか、何がどうなってるのかさっぱりわからないというか、人を疑うことも、憎むこともいまだ知らないさいふぁ様の純粋すぎる『はむ・アクロバット』は、あたかも空気のようなのかもしれません。
認識することはできないけど確かに存在する、
生きるためには欠くことのできない、
自然で健やかな心のありようなのかなと。
それは、誰もが持って生まれる心のありようなんだけど、ふつうはなかなか、さいふぁ様ほど純粋ではいられなくて、痛みや怒りや不安といった、認識せずにはいられない『心の雑音』に気を取られて、いつの間にか見失ってしまうのかもしれないなと。
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【ご感想】羽海様より
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第16話 水神様への願い事
https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4653813
小学生なのに国の中でも最上級に偉い人たちと話し合わなければならないデゼルもサイファも大変だなと思います。デゼルはトリップ前の記憶がありますけれど、傍から見ればただの子供に過ぎません。デゼルに雪乃の記憶がなかったとしたら、きちんと闇巫女をこなせていたのでしょうか…?
サイファに関しては本当に単なる子供に過ぎなくて、ゲーム内でも特別な能力を与えられたわけでもなくて、それなのにここまでデゼルと公国のことを考えて奮闘している事自体がとても偉いです…
☆ 返信 ☆
雪乃の記憶がないデゼルだったとしたら、公国の滅亡を事前に知ることもなく、闇巫女はこなせるけど、公国は滅びてしまうはずでした…。
公国の滅亡を阻止するためとはいえ、デゼるんは闇巫女の地位を濫用してやりたい放題、闇巫女の本来の務めからは逸脱しまくって帝国を訪ねています。
そんなデゼるんにインスパイアされたさいふぁ様もまた、お母さんを助けてあげたくて一生懸命だったのと同じように、公国のみんなのことも助けてあげたくて一生懸命に頑張っています。
さいふぁ様の能力に対して目標が高すぎることになんて気がつかない(特別な能力がないとできないことだと思わない)、信じるはむは救われます♪(*´∇`*)b







