第56話 町人Sは時間が足りない
楽しい時って、過ぎるのが本当にはやい。
気がついたら、僕はあっという間に中学生になってしまっていた。
やりたいことはたくさんあって、時間はいくらあっても足りない。
だって、闇の神様より高次の神様に紡がれた運命を変えられなければ、今年で僕達の公国は滅んでしまうんだ。
その前に楽しいことをめいっぱいしておきたい気持ちと、運命を変えるためにできそうなことがあるなら時間の許す限りしておきたい気持ちと。
僕、闇主になってよかったって、心底、思うんだ。
闇主として、夜は毎日、デゼルと一緒に眠ったし、夕飯も毎日、デゼルと一緒につくったけど、それでも、デゼルと過ごせる時間があと半年もないとしたら、全然、足りないから。
だって、毎日、夜までにはすごく疲れてるから、ちょっと話して手をつないだら、僕とデゼルはすとんと眠りに落ちてしまって、気がついたらもう朝なんだ。
一緒に過ごしたって感じがしない。
だからって、別々に眠りたいわけではないんだけど。
朝、となりにデゼルがいて、おはようのキスから始まる毎日って、素敵だし。
朝ご飯を一緒に食べて、手をつないで学校に登校するまでの時間が、一番、デゼルとゆっくりできる時間かもしれない。
お互いに時間が足りないからって、下校はクロノスの魔法で済ませてしまうことが多いんだ。
帝国で動くのなんて、それこそ冒険。
闇主としてデゼルを守り抜くために気を張ってるし、ジャイロも一緒だし、やっぱり、デゼルと一緒に過ごしてるって感じはしない。
うまく言えないけど、冒険してる、闇主してるって感じなんだ。
それはそれで楽しくて、胸が躍るんだけどね。
こういうの、中二病って言うんだって。
ジャイロに「おまえさぁ、真顔で『公国を救うために』とか『隻眼の魔女』とか、中二病もいいところのワード口にするのやめねぇ?」って、言われて。
何が病気なんだろう。
僕、休学したせいでまだ中学一年生だけど、年齢としては中学二年生だから、中学二年生がかかる病気になら、かかってもおかしくはないんだ。
でも、僕が言ってること、おかしくないよね?
まだ十歳のデゼルも僕と同じこと言ってるし。
たぶん、ジャイロは公国の運命を視てないから、何か勘違いしてるんだ。
僕もデゼルもガゼル様も、公国の運命を視たんだ。
中二病で幻覚を見たんじゃない。
あの時、闇の神様がデゼルに降臨したのは、たくさんの人が見て大騒ぎになったんだから。
時間は本当に足りなかったけど、だからこそ、お互いの誕生日には、デゼルと二人で丸一日かけてめいっぱい遊んだよ。
朝から晩まで一緒にいても、僕達の誕生日休暇は、本当にあっという間。
さっき、夜が明けたばかりな気がするのに、気がついたら日が暮れてしまってて。
僕の十二歳の誕生日にはアスレチックに、十三歳の誕生日には鍾乳洞と氷穴に。
デゼルの九歳の誕生日には景色の綺麗な渓流に、十歳の誕生日には山奥の猫カフェに遊びに行ったんだ。
とっても、楽しかったよ。
あと、デゼルの誕生日の夜には、毎年、僕の想いは減ってないよって、デゼルを安心させてあげるために契った。
もちろん、クロノスを使って。
だって――
闇の使徒の破滅をほとんど阻止できた今だからこそ、きっと、運命は変えられるって信じられるけど。
去年までは、神様が紡ぐ運命を変えるなんてことができるのか、やっぱり、自信は持てなかったんだ。
それに、闇の神様の幻に視た邪神が、これまでのところ絡んできていない。
公国の滅亡とデゼルの破滅の阻止は、他の闇の使徒の破滅の阻止より難しいんじゃないのかな。
万が一にも、あの幻に視た通りの破滅が待つとしたら、デゼルがあんまり――
そうだ、借りたお金はみんな返せたよ。
母さんへの仕送りは続けてるけど、母さん、僕があげたお金はほとんど使わないで、貯めてくれてるみたいなんだ。
母さんて病気がちだし、いざという時の備えはあった方が安心だから、母さんの好きにさせてるけど。
でも、僕も自分で貯めてるから、少しでも僕に返したいっていう考えなら、もっと、母さんがラクをするのに使ってくれていいんだけどな。
だって、お金には本当に困ってないんだ。
闇神殿なんて丸ごとデゼルのもので、衣食住はもちろん侍女や侍従もたくさん。
ほとんど何だって、手続きさえすれば、神殿の予算で買ってもらえるから。
借りたお金をみんな返せてからは、なるべく、僕たちが暮らすのに必要なものは、僕が買ってあげるようにしてるんだけどね。
神殿の予算が余れば、困ってる人達に食事を配ったりとか、家のない人達に毛布を配ったりとか、そういうことに回せるから。
闇巫女様は大公陛下と対等な地位って、こういうこと。
だから、闇巫女様と大公陛下が公国を守るためなら命だって懸けて下さること、僕は当たり前みたいに思っていたんだけど。
トランスサタニアン帝国の王侯貴族も教会も、民を守るどころか、自分たちを守るために民に命を懸けさせていて、びっくりしたんだ。
ネプチューン皇子を見て、白馬の王子様だと感じなかった僕の直感は、すごく正しかったみたい。
僕、本当に、オプスキュリテ公国に生まれてきてよかった。
こんなに素敵な国って、きっと、他にはないんだ。
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【ご感想】羽海様より
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何年も毎日一緒にいてもまだ一緒にいたりないと感じるサイファとデゼル、本当にお互いのことが大好きなんだなと感じました。
本当に好きでなければどうしても飽きが出てきてしまうはずですが、そうはならなくて、子どもなのにずっと好きな気持ちを変えずにいられることがすごいと思います。
そんな大好きなデゼルと契る幸せを知っても、一年に一度のデゼルの誕生日だけにとどめておけるサイファの精神力もすごいです。
中学生男子なら欲望に任せて毎日でもクロノスを使ってほしいと思いそうなものなのに、サイファがそう言わないのは、誠実にデゼルのことを想っているからか、それともあまりそういった欲がないからなのでしょうか。
ジャイロが中二病を知っていることが少し驚きでした。
脳筋な印象ばかりが強いのですが、一般常識に関してはサイファよりは知っているのですね。
サイファもサイファのお母さんも必要最低限以下で暮らしてきた経験があるから、貯金をするのは上手なのだろうなと思います。
もちろんサイファのお給金が良いこともありますが、お金があるのをいいことに贅沢三昧をすることを思いつくような性格ではないのでしょうね。
帝国のネプチューンたちと公国のガゼルたちとで国への向き合い方が違うのは、そもそも国の体制が違っていたから国を治める人の性格に影響したのか、為政者の人格によって国の体制が変わってきたのか、どちらなのでしょう。
☆ 返信 ☆
素敵なご感想、ありがとうございます✨(*´∇`*)
恋ははしかのように駆け抜けて、飽きてしまいますよね。
寝ても覚めてもデゼるんのことで頭がいっぱいで、授業中も心ここにあらずで窓の外を眺めて、ため息をついたりしていたさいふぁ様の初恋も、遥か時の彼方に過ぎ去って、もうすっかり、デゼるんが傍にいるのが当たり前になってしまったけど。
さいふぁ様とデゼるんは、恋の終わりを迎える前に、無事、愛を芽吹かせたみたいです。
恋ははしかだけど、愛は時間をかけて育むもの。
明日はきっと、もっと、デゼルのことを好きになってるよって、さいふぁ様言ってました✨(*´∇`*)
とはいえ、さいふぁ様はロリコンじゃないので、クロノスを使わないと欲情はしません!
三年後の悲劇は知っているので、綺麗なデゼルとの契りが十歳の一度だけになってしまうのは嫌だなって憂慮する気持ちと。
だけど、ここまで順調に闇の使徒の悲劇を阻止してこられたし、デゼルの悲劇だって、きっと阻止できるはず、それなら、まだ年端のいかないデゼルをどうこうするのは可哀相だから、大切にしてあげたいなって切に願う気持ちと。
せめぎあう想いはさいふぁ様なりにあって、デゼルに優しいのはどうすることなんだろう、それを考えて、考えて、デゼルの誕生日ごとに誘ってあげようって決めたみたいです。
デゼルが怖いならしないけど、デゼルもしないことが怖いかもしれない、だから、誕生日には僕から誘ってあげるねって。
僕の気持ちが減ってないこと、デゼルが確かめたいなら好きなだけ、確かめたらいいから安心してねって。
優しいんだかSなんだか、恐るべしデス、さいふぁ様…!(; ・`д・´)
ジャイロは脳筋なようでいて、なにげに知性も高い、硬派な常識人です。
あ!(・∀・) ピコリーン
点目のじじ様がゴリラの知能は高いんじゃぞって言ってました!(それは褒めているのかけなしているのか…!?)
さいふぁ様とお母さん、貯金が上手かどうかは…
少なくとも、さいふぁ様は全然だめです。
羽海様のお考えの通り、贅沢はしないのですが、すごく騙されやすいのです。
子どもやお年寄りが困っていたら、あるだけあげてしまうのです。
(お父さんもたぶんそうだったから、さいふぁ様のおうちにはお金がなかったのでしょうね… 猫にも鳥にも蛇にも食われてしまう、はむ一家よ…)
だけど、そこはデゼるんにお任せを✨(`・∀・)9
デゼるんに任せておけば、お小遣い制にして、月に金貨3枚くらい、何に使ってもいいよって渡してくれます。
さいふぁ様、たぶん、喜んで人にあげてると思われます✨(*´∇`*) ワーイ
人にあげるお金があるなら、まず借りてるお金を返せよってじゃいあたりに突っ込まれるところですが、
「でも、はんぶんは僕の好きにしていいってマリベル様が…(´;ω;`)」
さいふぁ様には『ご利用は計画的にね♪』が壊滅的にできないという弱点があるのです…! はむだから!!( ゜Д゜)9
このあたりの、得意なこと、苦手なことの相性のよさも、さいふぁ様とデゼるんの愛が育まれる豊かな土壌なのでしょうね…✨(*´∇`*)
残りのお金も、デゼるんがさいふぁ様から夢を聞き取って、それが叶うように予算を立ててくれます。
デゼるんと出会ってから、いつでも、すべて足りているさいふぁ様。
一切のことに飢えていないので、欲求にはかなり淡白です。
帝国と公国の違いについては、
闇の女神の加護を前提に成り立っている公国の方が、
現代社会を基準にすれば特殊と思われます。
リアルでも神様が本気で信じられていた地域・時代においては、
公国のような国があったかもしれません。
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【ご感想】しき様より
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第6話 小さな嘘
https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4477031
二人の好きが溢れてて可愛いです、癒され空間だ……
お互いの笑顔を見て、更に笑顔になって……
恋っていいなって思っちゃいますね(*´ω`*)
あとここのデゼルさん、とても察しが良くて驚きました!
よく学校だってお気づきになられましたよね……!
サイファ様の行動パターン的に学校以外だと、お仕事か家になるからでしょうか……消去法???
最後サイファ様がバチが当たったと仰られてましたが、デゼルさんが来たからにはバチではなくなるよと教えてあげたいですね……!
☆ 返信 ☆
Σ(゜Д゜)
これが恋…! 言われてみればそうですね!?
恋してる自覚がない、初恋のなんたるかも知らないままのさいふぁ様に、すっかり感情移入していて、気がつきませんでした…!
さいふぁ様って恋してる自覚がないままプロポーズできちゃうんだ… すごい子だ…
(恋に憧れがないから、かえって純粋なのかもしれません。ただ、一緒にいたいから、プロポーズしたんですもんね…)
デゼるんの察しのよさは、さいふぁ様が働いてる(困窮してる)なんて夢にも思わなくて、家庭か学校の二択なら、さいふぁ様の人柄から考えて後者だなって。
さいふぁ様のおうちの事情を知っていたら、学校よりも、先にさいふぁ様の借金の方をなんとかしようとしてくれたはずなんですが。
さいふぁ様もお母さんも、他人様に助けてとは、なかなか言い出せないタイプで…。
さいふぁ様が闇神殿の庭園で働いてた様子、子どもが珍しくてよく眺めてたのに、働いてるとは思いもよらなかったデゼるんです(;´∀`)
さいふぁ様に遊んでってねだったら、さいふぁ様のお仕事を教えてもらえたこともあって、デゼるんはさいふぁ様のことを『よく闇神殿の庭園で遊べる子』だと思ってしまったままなのです。
闇巫女として働いてる自覚さえ、かけらもないデゼるんだけに(ノ∀T)
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【ご感想】羽海様より
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第15話 夏休みのグループ研究
https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4566921
サイファの、嫉妬からの安堵の気持ちの変化が、デゼルに一喜一憂させられてしまう感じが伝わってきて可愛らしかったです。
今のデゼルは公国の滅亡の阻止のことしか考えていませんけれどね…
さらっとスニールを庇う発言をした上で、マリアやその他のクラスメートも自由研究のグループに組み入れることを即決できるデゼル、頭の回転が速いなと感じました。
恋愛に疎い男子陣と違って、ジャイロがデゼルに気があることを感じ取っているマリアは、幼いながらに感覚が鋭いなと思います。まぁジャイロが分かりやすすぎるのかもしれませんね。
サイファの発想は誰でも思いついてしまうものだと思います。
攻めてくる敵は滅ぼすという考えから戦争が起こるのですし、船を沈めてしまわなくても、帝国の船が公国についてしまえば、軍隊同士が戦って結局誰かしらは命を落とすでしょうし。
例えばジャイロが闇主だったら、デゼルに質問せずに、実際に言ってしまいかねません…
☆ 返信 ☆
丁寧なご感想、ありがとうございます✨(*´∇`*)
さいふぁ様の素朴な一喜一憂、愛でて下さって嬉しいです。
これまで、女の子になんて興味なさそうだったジャイロが、
キノコ狩りの授業でデゼるんにプレゼントをしようとしたこと、マリアちゃんにとっては大事件でした…!(; ・`д・´)
ジャイロがわかりやすすぎるに一票!(笑)
さいふぁ様の思いつきは、スニールだったら独断で言ってしまいそうですが、ジャイロだったら絶対に言わないです。
神に選ばれし死鬼であるジャイロには、さいふぁ様にはない、天賦の戦略的センスがあるので、さいふぁ様のセリフを聞いたら、まずは一発殴って、怒鳴りつけます。
「アホかてめぇ! 手の内を、それも、一枚しかない切り札を敵にさらすんじゃねぇよ!」
小学生だからこの程度だけど、大人だったら、さいふぁ様を暗殺しかねません。
ジャイロ的に、帝国が攻めてくるなら水神の力で敵艦隊を沈めるなんて、当たり前の迎撃です。
ただし、それは警告抜きで、天災を装い、事前にも事後にも公子様が授かった水神の加護をもって沈めたなんて、黙っていれば絶対にバレないことは絶対に黙っておきます。
デゼるんの言う通り、そういう真似ができると知られると、敵が公子様の暗殺を最優先で狙ってくるようになるからです。
デゼるんにとっての水神が『戦争を起こさないための切り札』なのに対して、ジャイロにとっての水神は『戦争に勝つための切り札』。
さいふぁ様はその両方を重視するけど、デゼるんやジャイロのように何手も先まで読んで交渉や戦略を組み立てる脳ミソの持ち合わせはない、可愛らしいはむなのでした。
主神「小学生にそのレベルの脳みそがある方がおかしいからッ!(=д=)」
さいふぁ様の思いつきは誰でも思いつく(ジャイロに至っては、そうしないのはありえねぇと逆に振り切ってるレベル)というナイスなツッコミ、ありがとうございました✨
『僕、どうしてこんな残酷なこと、思いついたんだろう』という発想の方がはむならではの天然だって、誰かに気がついて欲しかったので嬉しいです♪(*´∇`*)







