第54話 公子様との帝国探検
襲撃はあったけど、ネプチューン皇子とユリア様との初めての会談は、まずまず、うまくいったみたいだった。
「アスタール邸？」
その日の夜、僕とデゼルはガゼル様のVIPルームに泊めてもらって、フカフカの寝台に寝転んで、三人でたくさんお話したんだ。
いつもは綺麗に結い上げられた、ガゼル様のきらめくプラチナ・ブロンド、もうすぐおやすみになるからって、下ろしてもすごく綺麗だった。
ガゼル様が窓辺に座ったりしたら、月明かりにきらきら、幻想的な美しさで。
それって、デゼルも同じなんだけど。
僕、ガゼル様とデゼルが世界で一番、綺麗だと思うんだ。
他の人達は、今日会ったネプチューン皇子やユリア様の方が綺麗だって言ってたけど、僕はあんまり、帝国の人達を綺麗だとは思わなくて。
ネプチューン皇子をじっと見詰めてたユリシーズ、一目惚れしたんだって、ジャイロが困ってた。
「何度か、私とサイファとジャイロで訪ねようとして、失敗していて」
「えぇ！ デゼル、まさか、サイファとジャイロと三人で帝国に？」
「はい。クロノスの魔法でいざという時に帰還できるのが三人までなので」
ガゼル様が幾分、血の気を引かせた顔で口元を覆った。
「参ったな、三人ならいいっていうつもりで、二人で出国しないようにと言ったわけじゃなかったんだけど」
『えぇえ！』
僕とデゼルの声が重なった。
「だけど、そうか、クロノスの魔法――いざという時、すぐに帰還できるっていうのは捨てがたいね」
僕とデゼルがこくこくうなずいたら、苦笑して僕達を眺めたガゼル様が仰った。
「アスタール邸には、明日にでも私と行こうか」
＊＊――＊――＊＊
「サイファ、デゼルをガード！」
「はい！」
ガゼル様の剣閃が、陽の光を弾いて美しくきらめいた。
昨日、襲撃された時にも思ったけど、ガゼル様って、闘っても優雅なんだ。
しかも、ジャイロより強い。
無駄な動きのない、速くて正確な剣さばき。
ガゼル様のスマートで優美な身体のどこにこれだけの力があるのかと思うくらい、鋭い斬撃。
昨日、僕にも剣術を指導してもらえないかと思って聞いてみたんだけど、殺す覚悟ができないうちは教えられないって。
土壇場でためらうくらいなら、最初から殺さない闘い方を覚えるようにって。
ガゼル様ご自身は殺すこともある方だけど、ジャイロに比べれば、殺さずに戦闘不能に持ち込む技術が高いんだ。
なるべくなら、殺したくないからこそ、そういう技術を修められたんだよね。
誰よりも厳しくて、誰よりも優しい方なんだ。
今日は僕とデゼル、ガゼル様の他に、ガゼル様の近衛が三人。
平時に自力で帰還できない近衛隊士なんていないから、いざという時には、僕とデゼルとガゼル様の三人で帰還すればいいんだって。
襲撃されて間もなく、少し遅れて僕達を追ってくれていた近衛隊士の人達が追いついてきて、後は、片づけてくれた。
あまり、ぞろぞろ歩いても目立つから、自然な距離をあけてもらっていたんだ。
「こんなに、ラクな戦い方でいいのかな……」
ジャイロと組んで戦う時には、もっと、ひやっとすることがたくさんあったから。
僕の途惑いがちなつぶやきを、ガゼル様は聞き逃さなかった。
「サイファ、闇主なら、確実にデゼルを守れる戦いしか、したら駄目だよ。危険な戦いからは、デゼルを連れて逃げるんだ。闇主の務めは戦うことじゃない、デゼルを守ることだと忘れないで」
「あ……の、はい！」
僕、戦うのが務めのジャイロと組み過ぎて、いつの間にか、僕は死鬼じゃなくて闇主なんだってこと、忘れかけてたのかもしれない。
ガゼル様の仰る通りだ。
僕が目標にするべき強さ、闇主としての優先順位、死鬼のジャイロとは違って当たり前だったのに。
取り返しのつかない事態を招く前に、目が覚めてよかった。
「この者たちはいかが致しましょう」
「官憲に――アスタールじゃなく、首都の官憲に引き渡してくれるかな」
それで近衛が二人、別行動になった後。
「どうして、アスタールじゃなく、首都の官憲に？」
「デゼルの話だと、アスタールは領政に問題があるようだから。白昼堂々、当たり前に賊が出るとなると、官憲と賊がつながっていないとも限らない。念のため、かな」
僕、すごく感心しちゃった。
ガゼル様ってやっぱりすごい。
僕はもちろん、デゼルだって、そこまでは考えつかなかったのに。
その後は、残り一人になった近衛隊士に一緒に歩いてもらったら、もう、賊は出なかった。
やっぱり、大人が一緒だと違うのかな。
デゼルを無事にアスタール邸の時の精霊と契約させて、ガゼル様との初めての冒険は終わったけど。
時の精霊との契約だけじゃなく、アスタール領の悲劇の阻止は、丸ごと、ガゼル様と進めることになったんだ。
この領地は政治的な問題が多かったし、必要に応じてデゼルが無敵の水神になれるとしても、子供だけで進めるにはリスクが高すぎるとガゼル様が判断されて。
選り抜きの近衛隊士にも手伝ってもらっての長期戦、それでも大変だったんだ。
ガゼル様の判断は、すごく正しかった。
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【ご感想】羽海様より
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デゼルとサイファとガゼルの3人でのベッドでのお話、修学旅行の夜っぽさがあっていいですね。
サイファにとってデゼルとガゼルが帝国の人たちよりも美しく見えるのは、見た目だけでなく中身の美しさも目に映っているからではないかと思いました。
ユリシーズにも男は中身で選んでほしい…！
まさかデゼルが本気で、ジャイロがいれば帝国に行ってもいいと思っていたとは思いませんでした。
一応ガゼルの言葉を守っているという名目でジャイロを連れて行っていたのかと…
サイファはもちろんですがデゼルもやっぱり天然です。
雪乃の記憶もあるデゼルと違って、ガゼルは見た目通りの年齢のはずなのに、どうしてこんなに頭がよく回るのでしょう…？
雪乃はごく普通の女の子として生きてきていて、ガゼルは生まれたときから公子だったという違いでしょうか。
ガゼルも転生者なのではないかと疑ってしまいます…！
☆ 返信 ☆
ぴんぽんぴんぽん✨
何を隠そう、さいふぁ様には人のオーラが視えています。
よく読むと、それらしい描写がちらほらあるのですが、他ならぬさいふぁ様に『他の人には視えないものが視えている』という自覚がないので、かなり、さらっと。
というわけで、
『見た目だけでなく中身の美しさも目に映っているからではないか』
大正解です♪(*´∇｀*)ｂ
ちなみに、神に選ばれし悪役令嬢ユリシーズ様の目には、さいふぁ様とはまた違う中身――
『御しやすい男かどうか』
が視えているのかもしれません。
生粋の悪役令嬢にあらせられるユリシーズ様の理想は、
『ハイブランド（容姿端麗）な超ＡＴＭ（引き出し限度額なし）』であるため、
はむすたー少年など超どうでもよく、
麗しき貴公子様さえ、闇の皇子の前には霞のごとし――
『ついに出会えた、私の運命の帝王！ さぁ、この私の美貌と手練手管にお惑いになって！』
（・∀・）
クライス様が生物多様性だって言ってました（違）
デゼるんの天然は『うっかりゲーム脳』です。
闇主であるさいふぁ様と、死鬼であるじゃいを伴えば、光と闇の十二使徒くらいにしか負けない――
と、ゲーム攻略として正しいパーティを組んだつもりだったので、「子供だけで海外旅行したら危ないよ」なんていう『まともなツッコミ』が入る世界だとは思いもよりませんでした…！( ゜Д゜)
空間跳躍で同行できるのが三人までなので、『もう一人、仲間を選びましょう』というゲーム世界からの指示だとばかり思っていたのです。
目下、そんなまともなツッコミが入る世界だとしたら、どんな経緯で十歳のデゼルが大帝国の皇帝の副官に任命されてしまうのか、むしろ、そんな不自然なシナリオまでその通りになる世界ではないのか、デゼるんはとても気になっていますが、公国の滅亡が前提のシナリオは全力で書き換えにゆくため、確認できないのが残念だと思っています。
ガゼル公子の頭がよく回るのは、神に選ばれし闇主、すなわち、三神の祝福を授かった文字通りの神童だからです。
転生前のデゼルが智慧の女神メティスの祝福を知らず授かっていたように、実は、転生者でなくても神の祝福を授かることはでき、ガゼル公子の場合は愛と美の女神アフロディーテ、慈愛と正義の女神ユースティティア、軍神マルスの祝福を生まれながらに授かっているため、さいふぁ様が自力で発現した神の上位スキルも、ガゼル公子なら奇跡を起こすまでもなく発現できるはずでした。
そのくらい、ガゼル公子は『神に選ばれし者』なのに、なぜかデゼるんに選ばれなかった悲劇…
じゃんがりあんはむすたーにもっていかれた… なんでだろう…
デゼるんも優秀だけど、闇巫女としてはまだ七歳の少女の知識しかない上、闇巫女が政道を修めることもないので、政治絡みなら圧倒的にガゼル公子が優秀です。
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【ご感想】しき様より
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第4話 闇巫女と闇主
https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4488169
記念すべきサイファ様が闇主になったお話ですね！
ここをずっと読んでいて思ったのが、サイファ様は"救いたい"や"守りたい"とは言っているんですが、一度も"戦う"といったような発言はしていないんですよね……
「三年後、海の向こうの大きな国から軍隊が攻め込んできて」とあるので、普通だったら戦わなきゃ！って思ってしまうんじゃないかなと感じます。でもサイファ様は、病気の人や怪我をしてる人を救う事を考えてるんですよ……
もう考え方に優しさが滲み出てて、汚れた心には眩しかったです。
ここまで色んな事を経験されてるのに綺麗であり続けられるサイファ様、君は強い子だよ本当に……強さは優しさって言葉を思い出しました……
キスのやりとりもウブで可愛いです！
お二人(主にサイファ様)から、幸せな気持ちが伝わってきて私も胸がじんわりと温かくなりました。
☆ 返信 ☆
素敵なご感想、ありがとうございます✨
恋愛小説としては珍しい、相思相愛から始まる恋物語の幕開けです♡(*´∇｀*)
三年後に侵略軍が公国を攻め滅ぼしに来ると聞いた十歳児、普通だったら――
惜しい、『逃げなきゃ！』かもしれません。
ファンタジー小説の『普通』は、『特別な力を持っている主人公』なので、『戦わなきゃ！』になることが確かに多いんですが（汗）
デゼるんからもらった初級の回復魔法に胸躍らせるさいふぁ様。
ふつうの子だったら、『こんな初歩の回復魔法だけ使えても、戦争の役には立たないよね…』とか『三年後に公国が滅んでしまうんじゃ、僕なんかが何を頑張っても何の意味もないよね…』とか、絶望しそうなところ、遠い三年後のことより（…。）、今日から使える癒術嬉しさに夢と希望がはばたくさいふぁ様。
そんなさいふぁ様にかけてもらえたお言葉が、
さいふぁ様が経験してきたことの過酷さや、それでも揺らぐことのない芯の強さに目を向けて下さるしき様からのご感想だから、格別に嬉しかったです♡(*´∇｀*)
（だってはむだもの、という点目のじじ様からのご感想も、それはそれで的確過ぎて笑ってしまうのですが( *´艸｀)）
初めてのキスのやりとり、こんなに初々しくて可愛かったのに…
さいふぁ様がこんなに可愛いの、初めてのたった一度だけだなんて…
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【ご感想】羽海様より
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第13話 伝説のゴリラ
https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4607293
サイファ視点から見ると、サイファとジャイロの殴り合い、なんだか楽しそうですね。
サイファにも筋肉バカの素質があったのかも…？
殴られて楽しそうにしているジャイロが可愛いです。
一方的に殴られて応戦できないのではなくて、平等なラウンドの上で力比べができるのが楽しいのかなと考えました。
いつでもさりげなくデゼルを庇うサイファも可愛いですね。
デゼルが気付いていなくても、色んなところでサイファはひっそりとデゼルのための行動を取っているのでしょう。
野生のゴリラ…
私も初めて読んだときは勘違いしそうになりましたけれど…
途中まではともかく、ゴリラがお父さんのことだと聞いて、普通ジャイロがゴリラと人間とのハーフだと思いますかね…？
読んでいて吹き出してしまいました。サイファ、天然…
☆ 返信 ☆
さいふぁ様は、一緒に遊んでいるお友達が楽しそうであれば、なんでも楽しめるタイプです✨(*´∇｀*)ｂ
家事でも育児でも殴り合いでも、さいふぁ様が楽しめる分野には際限がありません。
一方、ジャイロの方は、これまで、ジャイロを殴り返せるクライメイトなんて一人もいなくてつまらなかったところ、絶対に殴り返してこなかったさいふぁ様が実は強かった！ という、ゴリラ的に胸熱の展開が嬉しくてなりません。
全力を出せる相手とのケンカは、ジャイロにとって最高に楽しい遊びです。
いつでもさりげなくデゼるんを庇うさいふぁ様も、愛でて頂いてありがとうございます♡(*´∇｀*)
デゼるんに気付かれると、デゼるんの方がさいふぁ様を庇おうとすることに、さいふぁ様はおいおい気付いて、僕とデゼルはいったい何と闘ってるんだろう――
そんな疑問を胸に抱きつつも、譲れないデゼるんとの闘いが、少し先の二人の行方に待ち受けているようです。
さいふぁ様の天然っぷり、笑って頂けましたか✨( *´艸｀)
ジャイロもたいがい悪ガキなので、さいふぁ様が本気とわかると、逆に、こいついつまでそう信じてるのかなって、俺ハーフゴリラだからよって、積極的にさいふぁ様を騙しにかかります。
作者もいつまでさいふぁ様がジャイロをハーフゴリラと信じて生きて行くのか、とても気になります（マテ）
