第53話 悪役令嬢は悪役令息との交渉に臨む
「どーも。助かった、部屋をかえるか」
うんざりした顔で、ネプチューン皇子が言った。
僕達を危険な目に遭わせたこと、悪かったとは思わないのかな。
最初、僕は納得行かなかったんだけど、何事もなかった様子のガゼル様とデゼルを見ているうちに、謁見を申し入れたのは僕達の方だから、仕方ないのかなと思えてきたんだ。
そうだよね、あの人だって、狙われたくて狙われてるわけじゃないんだし。
三年後に起きる惨劇の意味が、少し、わかってきたかもしれない。
帝国の皇子様同士の争いに、僕達の公国は、ただ近くにあったから、踏みつぶされるんだ。
僕達が次に通されたのは、広めの客間だった。
**――*――**
「で? お子様がたがオレに何の用だ」
ガゼル様の目配せを受けて、デゼルが一歩、前に進み出た。
「私は闇巫女デゼル。単刀直入にうかがいますが、先ほどの刺客は、皇太子ウラノスによって差し向けられたものでしょうか?」
ネプチューン皇子が軽く目を見張ってデゼルを見た。
「なぜ、そう思う?」
「私達は闇の神の警告により、三年後、皇太子があなたにオプスキュリテ公国への侵攻を命じることを知りました。ですが、皇太子の狙いは外征のどさくさにまぎれてあなたを暗殺することに他なりません。それは成功しませんが、あなたが城を留守にしている間に、ユリア様が皇太子に襲われ殺害されます」
激昂して、ネプチューン皇子が椅子を蹴立てた。
「なぜ、ユリアのことを知っている!」
デゼルはネプチューン皇子を静かに見詰めたまま、答えない。
なぜって、デゼルは最初に言ったんだ。
闇の神様の警告だって。
それが真実だから、ネプチューン皇子がそれを信じないなら、他に答えはないんだ。
「――まぁ、オレとしても、ウラノスの仕業だとは思うが。だったら、どうなんだ?」
「私達は公国の滅亡を望みません」
「そうだろうな」
「あなたが皇帝と皇太子を打倒し、帝位に就く意志を持たれる場合には、公国から闇巫女デゼル、闇幽鬼ユリシーズ、研究員クライス・アスターの三者があなたの陣営に与し、あなたに帝位を献上する心づもりであることを、お伝えに参りました」
「物騒な話だな」
唇の端を引き上げてニヤリと笑ったネプチューン皇子が、デゼルじゃなく、クライス様に尋ねた。
「そうでない場合には、オレの招へいには応じないというわけか? クライス」
クライス様もニヤリと不敵に笑った。
「我が主はオプスキュリテ、闇巫女様のご意向がすべてであると申し上げておきましょう」
「おまえもか? ユリシーズとやら」
どうしたんだろう。
ジャイロのお姉さん、ユリシーズはじっと、瞬きも忘れたようにネプチューン皇子を見詰めてた。
しばらくして、ユリシーズも静かに、ネプチューン皇子から目を離さないままでうなずいた。
「用向きはわかった、考えておこう。まさか、今すぐに決断しろなんて話じゃないだろうな?」
「はい。貴国がオプスキュリテ公国への侵攻をしないで下さるのなら、永遠に、決断して頂かなくても構いません」
何が面白いのか、ネプチューン皇子が声を立てて笑った。
「なかなか、わかりやすい話だ。気に入ったぞ、デゼル」
えっ!?
そう言うなり、ネプチューン皇子がデゼルを手招いたんだ。
なんだろう、いやな感じがする。
デゼルも何か感じるみたいで、手招かれても、ネプチューン皇子に近づこうとはしなかった。
「よろしければ、ユリア様に私を会わせて頂けないでしょうか。私だけで構いません」
ユリアね、と、ネプチューン皇子が不思議そうにデゼルを見た。
僕も驚いたんだ。
ユリア様と話したいなんてことは、事前には聞いていなかったから。
さっきの襲撃で、事前の予定といろいろ違う流れにはなってしまってるんだけど。
「まぁ、おまえだけならな」
デゼルはまだ八歳の聖女様で、戦闘の時にも天使みたいに可愛らしかっただけ。
警戒する必要はないよね。
「ユリア、闇巫女様のご指名だ、隣室で話してくるといい」
部屋の隅に控えていた侍女が一礼して、隣室に続く扉を開いた。
綺麗な桜色の髪の、ユリシーズと同い年くらいの女の人。
その間に、僕達はお風呂と着替えを借りて、食事まで振る舞って頂いた。
デゼル、ずいぶん、長くかかったんだ。
初めて会う人と、何をそんなに話すことがあったのかな。
だけど、礼装に浴びた返り血や戦塵を、早く洗い流してしまいたかったから、ちょうどよくもあったんだ。
★☆ ―――――――― ☆★
【ご感想】羽海様より
★☆ ―――――――― ☆★
態度の悪さであまり同情する気が湧いてきませんが、ネプチューンも気の毒な境遇です。
望んで皇子に生まれたわけではないのに兄弟に命を狙われるとあっては、心が荒んでしまっても無理はありません。
ガゼルのようにきちんと公子としての自覚を持ち、真面目に責務を全うしていることのほうが珍しいのかもしれませんね…
ネプチューン、ここでデゼルを近づけて何をするつもりだったのでしょうか。
同じ部屋にユリアもいるというのに…
まあネプチューンのことですから、ユリアが見ていようが見ていまいが、自分がいいと思った女を口説くのは当然のことだと思っていそうです。
年が離れすぎていて犯罪臭もしますけれどね…
☆ 返信 ☆
態度の悪さで『まったく』ネプチューンに同情する気が湧かない作者に比べて、『あまり』で許してあげられる羽海様の優しさときたら…!
望んで皇子に生まれたわけではないのに、確かにそうなのです。
だけど、境遇に不満なら、ユリアと一緒に駆け落ちすればいいだけだと!
ネプチューンが皇宮で理不尽に冷遇されているのは事実だけど、現状で彼の自由になる財産ときたら、軽々とガゼル公子を上回る規模だったりしますし、ガラの悪い連中に絡まれたって、軽々と撃退できる戦闘力の高さを誇るラスボスだったりしますし。
結局のところ、彼は「過酷な権力闘争に恐れをなして逃げ出した、情けない負け犬皇子」と歴史に刻まれ嘲笑されるのがイヤだという、ただそれだけのことに耐えられない、無駄に高いプライドのために勝手に苦しんでいるのです…! ← ダメンズにやたら厳しい作者
プライドの問題だけで、闇の皇子の苦しみには実態がないところがリアルすぎてやンなっちゃう(o_ _)o
リアルのふつうの男の子の悩みなんて、このくらいはくだらないよね…
乙女ゲーム転生で悪役にされがちなピンク頭のヒロイン、ふつうの女の子な京奈ちゃんの悩みとたいして違わないのに、よくも女の子ばっかり悪役にして断罪して偉そうに説教してくれたものですよ…(*´Д`)グチグチ
でも、ネプチューンのことも京奈ちゃんのことも、
ふつうの男の子、ふつうの女の子であれば無理もないと、その過ちを許してあげられる羽海様は優しくて素敵だと思います✨(*´∇`*)
ガゼル公子やさいふぁ様はもう特別製の男の子で、滅多にいないでしょうね。
さいふぁ様なんて心の強さと純粋さだけが特別製で、スペックはふつうの男の子だから、誰でもさいふぁ様になろうと思えばなれるんですけど。
ここでデゼるんを手招いたネプチューン、デゼるんがあんまり可愛らしかったので、『どうしてやろうか』と思ってました。ヘタに近寄るとロックオンされたかもしれないので、その気がないなら、近寄らないでよかったやつです。
ユリアとはまだ馴れ初めで、気になりつつも、身分違いの侍女に特別な感情を持ってるなんて認められないみたいな、やっぱり、プライドの高さで一人でこじれているところです。
★☆ ―――――――― ☆★
【ご感想】しき様より
★☆ ―――――――― ☆★
第3話 闇巫女の予言
https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4475432
ここでのデゼルさんとサイファ様はデゼルさん覚醒後の初めての再会ですよね…!
サイファ様は流石デゼルさんの事をよく見ていらっしゃると言いますか、ひと言交わしただけで変化にお気づきになられましたね!
笑顔で手を振るデゼルさんのお姿はきっと前と変わらぬ7歳の可愛い女の子のはずなのに……
機微に気付けるサイファ様すごい……
また改めてこちらの場面を思い返すと、ここのサイファ様の発言のすごさに驚かされます!
いきなり自分が住んでる国が滅亡するよって言われたら、大人でも慌ててしまう気がするのですが、サイファ様は驚きつつも落ち着いて詳細を聞いているんですよね……
更にデゼルさんと一緒にオプスキュリテ公国を救う決意をすると……
もう肝が据わってるとかそういうレベルではないかもしれない……
でもデゼルさんにとって、ここでサイファ様が一緒に救いたいって言ってくれた事ってかなり大きいと思うんです。雪乃さんの記憶が戻ってから前より色んな事が分かる様になったけれど、大人ばかりの神殿での心細さや考え過ぎてしまったりとかもあったと思うので……
そんな状況でサイファ様が受け入れてくれるって、とても心強かったと思います!
デゼルさんがサイファ様と呼びたくなる気持ち、よくわかりますもの!!
あと挿絵が美しくて叫びそうになりました……
サイファ様の少し目を見開いた表情が可愛いし、それに対して真剣な表情してるデゼルさんが美人なのに可愛さも兼ね備えていて最高です!!!
☆ 返信 ☆
素敵なご感想、ありがとうございます✨(*´∇`*)
さいふぁ様視点だと、そこまで詳しい観察を書けないのですが、
(さいふぁ様の観察力と思考能力を超える描写があってはならないので…!)
このシーンのデゼるん、幼女としてものすごくおかしい言動のオンパレードです(ノ∀T)
突然、さいふぁ様も知らないような難しい言葉を並べ始めて、話の内容もスゴイ。
じゃいだったらコレ『は? え? 公国を救うって、つまり、デゼルは何したいって言ってんだ!?』とか『無理かもしれないって、何すれば救えるかわかんなくて言ってんのか? わかって言ってんのか??』とか、あまりにもツッコミどころが多すぎる話にフリーズしてしまうのですが。
物事をあるがままに受け止めてしまえるさいふぁ様は丸呑みです。
何ひとつ、突っ込みません…!( ゜Д゜)9
あどけなさがどこかにいっちゃったとは感じても、それをおかしいとは思わない、さいふぁ様。
まさに、もう肝が据わっているとかそういうレベルではないです…
はむが据わっています…(何言ってるの)
まだ幼いさいふぁ様はデゼるんの話を「みんな死んじゃう」「大きい国が攻めてくる」くらいのかんたんさでしか理解できなくて、でも、だから逆に、間違った理解をすることも、話が重たくなることもなくて。「僕、みんなが死んじゃわないようにしたいな」その気持ちを心のままに、デゼるんに伝えてみたさいふぁ様。
明日をも知れないさいふぁ様には、なんと、公国を救う努力をすることで、犠牲にするものや失うものが、これといってないのです…!Σ(゜Д゜)
だから、決意もこれといっていらなかったッ!!(ドーン)
ガゼるんだったら、たいへんな決意をしないとならないのに…!
幼い頃から懸命な努力を重ねて、犠牲にするものや失うものを、誰よりも積み上げてきたガゼるんだから。
だけど、同じように幼い頃から懸命な努力を重ねて、さいふぁ様が積み上げてきたものときたら。
借金だけ? しか、見当たらな
「僕、積み上げてきたものをすべて失っても平気だよ♪(*´∇`*)」
はむ強し、はむ強し、向かうところ敵はなし…!(; ・`д・´)9
これが、『はむが据わる』ということなのですね…!
そこに、はむが座ってもいます…!!
Σq( ゜Д゜)
そして、デゼるんにとって。
さいふぁ様の言葉は思いもよらず、理想を遥かに超える、まさに心強いものでした。
一緒に公国を救いたい、さいふぁ様のその気持ちはとっても嬉しい。
だけど、それだけだったら、デゼるんと一緒の道は過酷な茨の道だなんて知るはずのないさいふぁ様を、辛い目に遭わせてしまうんじゃないかって。背負えるはずもない重荷を、騙し討ちみたいに背負わせてしまうんじゃないかって。デゼるんは思い悩まずにはいられなかったはずでした。
なのに、さいふぁ様はまさかの前置きをしたのです。
『きっと、うまく行かないと思うけど』
『デゼルが命を懸けてもいいと思ってくれるなら』
デゼるんはさいふぁ様の境遇を知らないので、どうして茨の道だと知ってるのか、命を懸ける覚悟どころか命を懸けさせる覚悟までできるのか、ただ、ただ、驚くしかなくて。
ましてや、知った上、覚悟の上で一緒に公国を救いたいなんて、もうサイファ様と呼ぶしか!
このシーン、物語の浅瀬だけを渡ってゆく人々には「ホントかよ」程度にしか受け取られないのが、とても残念だったのです。
だけど、しき様は、デゼるんが『サイファ様』と呼びたくなった気持ちに共感できるくらい、始まりの物語の深淵をのぞき込んで下さって。奥の深さとテンションの高さが序盤からさりげなく凄いシーンの核心に、誰よりもニアピンなご感想、すごく嬉しいです✨(*´∇`*)
挿絵へのコメントも、きっと、のぶ様の励みになると思います。
のぶ様って彩色のセンスが超素敵で、パステル調で爽やかな風合いが、子供なりに真剣な恋の始まり五秒前の雰囲気に、すごく合っていますよね!
私もこの一枚は、一番のお気に入りです♪(∩´∀`)∩
★☆ ―――――――― ☆★
【ご感想】羽海様より
★☆ ―――――――― ☆★
第12話 町人Jはこぶしで語りたい
https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4577451
サイファの考え方は不思議だなと思います。
自分と同じようにデゼルのことを好きな人たちを、ライバルだとは決して思わないのですよね。
ガゼルに対してもそうでしたけれど、ライバルとして対抗心を燃やすのではなくて、デゼルのことを想ってくれる人がいて嬉しい、という方向に気持ちが動くのが、変わっているなと感じます。
スニールと同じように、ジャイロのこともサイファは理解できないみたいですね。
もしかすると、サイファってけっこう頭が固いタイプなんでしょうか…?
自分と違う考え方をなかなか理解できていないように見えます。
これはサイファが子供だからなのでしょうか。
☆ 返信 ☆
さいふぁ様はまだお子様なので、プロポーズを受けてもらった時から、大人になれたらデゼるんと結ばれるものと信じて疑っていません。
その上、さいふぁ様はみんなのことが好き。
だから、ジャイロがデゼルを好きでも、だからといってジャイロにデゼルを取られるとは、思いもよらないです。
そのため、ライバル意識は皆無で、それよりも、大好きなデゼルをはじめ、さいふぁ様が守りたいものを守ることにジャイロが協力してくれるなら、さいふぁ様は素直に嬉しいです。
ところで、さいふぁ様は確かにジャイロのことも、スニールのことも、理解できていませんが、お互い様です。
ジャイロやスニールにも、さいふぁ様が何を考えているのか、サッパリわかっていません。
ということは、さいふぁ様が人のつもりのハムスターであることが、さいふぁ様とお友達の相互理解を困難にしているのではないかと思うのですが、どうでしょうか?(真顔)
さいふぁ様が何を考えているのかサッパリわからないというご感想は、大人の読者様からもよく頂くので、子供だから理解できないのではなさそうです。
やはり、はむだk(ry)







