第51話 ときめく胸に
九月九日、ガゼル様と一緒に帝国に向かう豪華客船に乗り込んだのは、総勢十二名。
ガゼル様と近衛の人達が五人。
交渉役の文官の人が一人。
僕とデゼル、ジャイロ、ユリシーズ、それからクライス様。
僕、デゼルと一緒に初めて乗った船、てっきり、豪華客船だと思ってたんだけど、全然、違ったみたい。
本物の豪華客船は本当に豪華で、船なのに広間があったり、シャンデリアがあったり、楽団までいて、びっくりしちゃった。
あまり揺れないからか、ジャイロも気分はすごく悪そうだったけど、そこまで酷い船酔いはせずに済んでるみたいだった。
姉ちゃんに因縁つけてくるやつがいたらぶっ飛ばすって、今回のジャイロは闇幽鬼様であるユリシーズを守るために参加してるんだ。
船旅の間、僕はガゼル様の船室にデゼルと一緒に招かれて、色々な話をした。
帝国の第二皇子ネプチューンとの謁見をどう進めるかの打ち合わせはもちろん、小学校ってどんなところなのかとか。
楽しそうでいいねって、家庭教師について英才教育を受けているガゼル様が、少し寂しそうに仰ったのが気にかかった。
ようやく、帝国に到着した九月十一日の夜も、ガゼル様のために取られたホテルのVIPルームに招かれたから。
話を終えて退室する頃に、僕は思い切って、ずっと言いたかったのに、言えなかったことを切り出してみたんだ。
「ガゼル様、あの……」
「なに? サイファ」
ガゼル様はいつも、デゼルだけじゃなく僕にまで優しい。
だからって、こんなこと、ただの公民にすぎない僕が言ったら駄目かもしれないんだけど。
「言いにくいこと?」
うなずいたら、ガゼル様が笑って、言い淀んでいた僕を促して下さった。
「いいよ、許すから、言ってごらん」
「――私もそんな友人が欲しいと仰られていたので、その、僕とデゼルでよければ」
ガゼル様がご気分を害されないか、僕、すごく心配だった。
だって、ガゼル様はデゼルのことが好きなんだ。
それって、友達になりたい好きじゃないのに――
ガゼル様が少し驚いた顔で僕を見た後、笑顔を向けて下さった時には、だから僕、すごくほっとしたんだ。
「なんだ、それが言いにくいなんて、サイファらしいな。私はとっくにそのつもりだよ」
えぇ!?
ガゼル様が軽く、ぽんと僕の頭に手を置いて、髪を一筋、しなやかな指に流された。
わ、わ。
何だろう、胸がとくとく、高鳴って止まらない。
「二人とも可愛いよ。今後ともよろしくね」
わ。
お返事しないといけないのに、胸がとくとく、苦しくて声が出ない。
ガゼル様のVIPルームを退室した後、まだ、胸を高鳴らせたまま、デゼルに話しかけようとしたんだけど。
「ガゼル様って、……」
後が、続かなかった。
この、高揚感に近い苦しさ、なんだろう。
僕はふと、デゼルを見て、ガゼル様が僕にしたみたいに、デゼルの髪を指に流して遊ばせてみたんだ。デゼルの髪は長いから。
そうしたら、見る間に、デゼルの頬が綺麗な桜色に染まった。
デゼルも動けなくて、声さえ出せないみたい。
そっか、こういう風にされると、胸が高鳴るの、そういうものなんだ。
廊下でやってたから、デゼルに触れるだけのキスをして、戻ろうって声をかけたら、蒼の瞳をきらきらさせて、デゼルが僕に聞いたんだ。
「サイファ様、ガゼル様にときめいた?」
えぇ!?
驚いたけど、僕、急にすべてわかったんだ。
この胸の高鳴りが、ときめきなんだって。
「――うん」
僕が答えたら、どうしたのか、デゼルが花が綻ぶような、可愛らしい笑顔できゃーきゃーはしゃいだ。
すごく楽しそうだけど、デゼルのツボってよくわからない。
でも、割といつものことだから、僕、気にしないんだ。
「守ってくれる人がいるのって、安心するね。僕も、デゼルにそう思ってもらえるようになりたい」
今は、ガゼル様だけが僕を守って下さるんだ。
デゼルも僕を守ろうとしてくれるけど、デゼルは駄目だよ。
闇巫女様なんだから、闇主の僕に守られてくれなくちゃ。
嬉しいって思った。
ガゼル様のこと、僕、すごく好きになってて。
僕の傍に、守りたいデゼルがいてくれて。
守って下さるガゼル様まで。
僕にはそれが、言葉にできないくらい嬉しかったんだ。
※ この作品は現在、個人サイトの方でご感想を募集しています。
https://velvet-kazakiri.ssl-lolipop.jp/kaza/dezel/
★☆ 次回予告 ☆★
第52話 悪役令嬢は初めての戦闘で無双する
https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/5472960
いよいよ、三年後に公国を滅ぼす予定の、トランスサタニアン帝国の第二皇子ネプチューンに謁見する日になった。
戦闘の予定ではないんだけど、何があるかはわからない。僕、頑張るんだ。
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【ご感想】羽海様より
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サイファの言ったことは、本来サイファから言うのは無礼なことのはずですが、言ってもらった側のガゼルは嬉しかっただろうなと思います。
デゼルとサイファと出会う前は、ガゼルには友達というよりもガゼルに取り入ろうとする人しか周りにいなかったのでしょうから、対等に接せるデゼルも、公子だからという以上にガゼルの人間性そのものを好きでいてくれるサイファも、ガゼルにとっては大事な存在でしょうね。
自然にサイファの髪に触れて可愛いと言うガゼルの王子様ムーブには、読んでいるだけの私でもドキドキします…
サイファ、ときめきがどんなものなのかも知らなかったのですね…
デゼルに対する色んな感情も、本人はそれが何なのかまだ分かっていないものも多いのでしょうか。
そのへんの認識には、デゼルとサイファで人生経験の差が出ていそうです。
☆ 返信 ☆
王子様ムーブ!Σ( ゜Д゜)
言われてみれば… ほんと、そうですね…!?
さいふぁ様が、ガゼるんを『僕の白馬の王子様』だと認識してしまったのも、無理からぬことだったのですね…✨
じゃい「僕のじゃねぇだろ! 無理しかねぇよ!!Σq」
デゼるんとさいふぁ様がガゼるんにとって大事な存在だということ、読み取って下さって嬉しいです✨(*´∇`*)
ガゼるんて優秀さと誠実さを兼ね備えた公子様だから、ガゼるんの人間性そのものを好きでいてくれる友人には困っていないはず、じゃあ、ガゼるんにとってのさいふぁ様って? と考えて、
デゼル編の『君の瞳に逆らえる気がしない』の話で「サイファが振りかざすのは、あれはどういう種類の力なんだ?」とガゼるんを途惑わせていた、さいふぁ様の澄み切った瞳の神秘。
ドキっとしたというか、ゾクっとしたというか、さいふぁ様のあまりにも純粋な翠の瞳は、ガゼるんに生まれて初めての戦慄を覚えさせたのです。
ということは、デゼるんに負けず劣らず、さいふぁ様こそは、ガゼるんにとって対等な友人。どころか、もしかしたら格上の友人ということに。
世界広しといえど、さいふぁ様をガゼるんの格上と考えてしまうのなんて、デゼるんとガゼるんの他にはいなさそうですが!
点目のじじ様に「目を覚ませガゼるん、そんなわけねぇが!」と突っ込まれてしまうのでしょうね…!(ノ∀T)
> デゼルに対する色んな感情も、本人はそれが何なのかまだ分かっていないものも多いのでしょうか。
それはもう、極めて多そうです♡(*´∇`*)
むしろ、わかっている感情は『可愛い』しかなさそうなさいふぁ様。
人生経験の差のようでもあり、はむははむだから人生経験を積んでも永遠にわからなさそうでもあり( *´艸`)
羽海様、とっても素敵なご感想を、ありがとうございました♡(*´∇`*)
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【ご感想】しき様より
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第1話 舞い降りた天使 ~たとえ、明日が見えなくても~
https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4636591
感想をきちんと書く為に「シナリオが始まる前に滅んだ国の物語」から、再度こちらを読みに戻って来たのですが、温度差がすごい!!!
風邪を引いてしまいそうです。
サイファ様から涙が溢れる場合、胸にくるものがあります。学校でもイジメられて、家に帰っても気丈に振る舞わなければならず、日々の生活や借金の心配も常に付き纏う恐怖は尋常ではないです。心の病まっしぐらです。本当によく耐えていらっしゃったと思います…
そしてこのタイミングでサイファ様に話し掛けたデゼルさんグッジョブです!!
後半はふわっとしてほわっとしてくすぐったくなる様な優しい空気で、その世界の空気になってずっとお二人を見ていたい気持ちに駆られます…!
ちゃんとデゼルさんをお家まで送ってあげるのもサイファ様のスパダリの鱗片が見え隠れしてますね!
素敵です!
☆ 返信 ☆
さいふぁ様の境遇への思いやり、しき様の優しさを、とても嬉しく思います。
ドラマティックなガゼるんの苦境は物語でしかないけれど、さいふぁ様の苦境はずっと身近で、さいふぁ様のような思いをする子供達は古今東西、昔からたくさんいたはず、今この時にもたくさんいるはず。
だからこそ、そういう子供達の思いを少しでも、身近には知らない人達に届けたい。
分断と断絶の世界に架け橋を。
おそらく、しき様はもとより知っていた人だと思うのですが、さいふぁ様のような境遇の子供に、本当によく耐えてきたねって、声をかけられる人がいる。
そのことが、嬉しくてなりません。
たとえ、しき様と同じ想いの人がたくさんいても、心の中でそう思っているだけでは、懸命に耐えている子供達には何も届かないから。
声にして初めて、優しいその想いが届く。
声にして初めて、誰かが救われるかもしれない橋がかかる。
声をあげて欲しいのです。
この物語を読んでいるかもしれない、さいふぁ様に似た境遇の子供達のために。
声をあげて欲しいのです。
現実に、さいふぁ様に似た境遇の子供を見つけた時に、なんて声をかけてあげたらいいのか、何をしてあげたらいいのか、優しい選択肢がひとつでも増えるように。
私が綴る物語もひとつの選択肢を示すけれど、たくさんの選択肢が、それぞれ違う優しさをもった読者様から示されたら素敵ですよね♡(*´∇`*)
この物語が真に完結するのはその時だと、私は思っています。
◆ 追伸 ◆
後半のさいふぁ様へのお褒めの言葉も、ありがとうございます✨(∩´∀`)∩
「えぇ!? だって、こんなに可愛い、ちっちゃな女の子を一人で帰らせるなんて危ないよ」って、あたりまえのことをしただけのつもりのさいふぁ様、びっくりしていましたが。
あたりまえのことができる男の子って、スパダリですよね✨(真顔)
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【ご感想】羽海様より
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第10話 優しくて甘い夜
https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4567115
やっぱりここでは、人生経験の差が出ているのかなと思いました。
サイファは性善説を信じていそうなので、救うことのできない人なんていないと考えているのだろうと思います。スニールはジャイロに従っているだけで、望んでサイファをいじめようとしているのではないと思っていたのではないでしょうか。
子供の目から見れば、それは人をいじめるジャイロが一番の悪ですよね…
優しいサイファには、他人の不幸を見て安心するスニールのような人の気持ちは一生理解出来なさそうです。
デゼルはサイファのためならいくらでも自分の身を犠牲にするつもりでいて、サイファはデゼルが苦しむよりも自分が苦しいままの方がずっと良いと思っていて、そこの食い違いが切ないところです。
サイファのドSヤンデレ感が発揮されていますね…!
サイファの思考がナチュラルにSで拍手しそうになりました。
意地悪のつもりのサイファのお仕置き、デゼルにとってはご褒美だったみたいですけれど…
☆ 返信 ☆
(`・ω・´)ゞ
まったくもって、デゼるんのスニールの見立て、わずか七歳の少女の人生経験で導き出せる代物ではないですね!(ノ∀T)b
さいふぁ様の方も、まさに、救えないという概念の持ち合わせはありません。
さいふぁ様が、スニールはジャイロに従っているだけ、と考えているのも確かです。
ただ、いじめに気がつかないさいふぁ様なので、クラスに悪い子がいるとは思っていなくて。他人の不幸を見て安心するスニールの気持ちはわからないけど、そんなスニールさえ、さいふぁ様にとっては悪い子ではなくて。
「スニールは不安なのかな。何が不安なのかな。不安じゃなくなったら、他人の不幸を見なくてよくなるよね」
さいふぁ様はこんな風に考えています。
ジャイロがしていることも、さいふぁ様には「そんなにスニールを殴るのはよくないよ」って、ゴリラと罵られて傷ついたジャイロに『それくらいにしてあげて』って、お願いしている自覚があるので、いじめだとは思っていなくて。
さいふぁ様がそういう認識だと知ったら、ジャイロに深刻なメンタルダメージが入りそうですが(ノ∀T)
罪を憎んで人を憎まず。
ジャイロやスニールが悪いんじゃなく、ジャイロやスニールがしていることが悪いから、どうやってやめさせたらいいのかなって、さいふぁ様は考えています。
うまくいかない僕の力が足りなくて悔しいなって。
デゼるんも似たような考え方なのですが、デゼるんの方はジャイロをどうにかするメドは立っていて、だから、メドの立たないスニールとだけ、関わらないで欲しかった。
だけど、そんな風にスニールだけのけ者にしても、スニールの闇が濃くなるばかりで、解決しないなと思い直して。
私が引き受けようってなりました。
二人ともお互いのための自己犠牲というより、最年長の自分が何とかしなくちゃって、その思いからすれ違っているみたいです。笑。
さいふぁ様も誰も、最年少のデゼるんが最年長だなんて、思いもよらないので…。
さいふぁ様の思考、ナチュラルにSでしたか!
ナチュラル感、醸し出せて嬉しいです✨(*´∇`*)b
ナチュラルだから『意地悪のつもり』ではなくて『お仕置き』ですけれども!
さいふぁ様、意地悪はしません、お仕置きです!
いったい、さいふぁ様は何様のつもりなのでしょうか。
おっと、さいふぁ様でした( *´艸`)
デゼるんパニックで、ご褒美どころではないですが、さいふぁ様のデゼるんへの想いに癒されて、体はすごくラクになったので、こんなに想ってくれるさいふぁ様を失いたくない、守りたいと、ますます強く思うように。
かなしいかな、それって、デゼるんに自己犠牲をやめさせたかったさいふぁ様にとっては、裏目でしかないのですが。
そんなこんなで、さいふぁ様がデゼるんに言う事を聞いてもらえるようになるまでには、十年もかかってしまうのでした。







