表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイファ ~少年と舞い降りた天使~  作者: 冴條玲
第一章 舞い降りた天使
6/72

第6話 小さな嘘

 デゼルの家庭教師になって、十日ほどが過ぎた頃。


「――ねぇ、デゼルは学校には行かないの?」


 そう聞いてみたら、デゼルがふわっと微笑んだ。

 わぁ、可愛い。


「うん、行かない。サイファ様の教え方がわかりやすいから、行かなくていい」

「でも――」


 そんな風に言ってもらえるのは、すごく、嬉しいんだけど。


「デゼルなら友達もたくさんできると思うし、これだけできたら、デゼル、一番になれると思うよ。もったいなくない?」

「ふふ、もったいなくない」


 やわらかく微笑んだデゼルが、頬杖をついて上目遣いに僕を見た。

 わ、なんだろう、小悪魔みたい。

 すっごく可愛いんだけど、なんだか、してやったりのカオ。

 敵わないなぁ、もう。

 デゼルがあんまり可愛くて、つい、僕が笑顔をこぼしたら、デゼルがますます嬉しそうに笑った。

 デゼルって、僕が笑うとすごく喜ぶんだ。

 嬉しいんだけど、僕がデゼルを独占していていいのかな。

 デゼルなら、もっと、みんなに好かれて、もっと、誰よりも幸せな人生を送れるんじゃないかと思うんだけど。


 ふいに、デゼルが何かに気がついた顔で、目を丸くして僕を見た。


「サイファ様、お怪我は、どうして……?」


 ぎくっとして、息を呑んでしまって。

 ヒールしたつもりだったんだけど、不十分だったのかな。


「……なんでもないよ、生活の授業とか……」


 知られるのが怖くて、目を逸らして、――デゼルに嘘、ついたんだ。

 そうした僕にバチが当たるのは、冗談みたいにはやかった。


「やっぱり、デゼルも学校に行こうかな。――サイファ様と同じクラスに編入できたら、行きたい」

「そんな、四年生の生活の実技とか、デゼルにはまだ無理だよ」

「背が届かなかったら、サイファ様が助けて下さいね」


 なんで!?


 デゼルが学校には行かないって言った時、正直、ほっとしたんだ。

 それなのに、僕と同じクラスに編入したいなんて。


 学校を勧めはしたけど、貴族向けの学校に、一年生として入学することを勧めたつもりだった。

 こんなことになるなんて、思いもよらなかったんだ。


「サイファ様のいないクラスには通いたくないの。デゼルができない、生活の実技をなるべく教えて下さい。来週、編入試験を受けてみますね」

「来週って!」

「サイファ様、今から教えて下さい」


 言って、デゼルが僕の手を取った。

 そうしたら、不思議と、少し気持ちが落ち着いたけど。

 どうしよう、こんな――


 知られたくないんだ、僕が学校でどう過ごしているのか。

 友達の一人もいなくて、ジャイロに黙って殴られてるだけ、すごく、悪いことばかりする子だって、みんなに思われてるなんて。


 デゼルにだけは、楽しそうな笑顔で僕の傍にいて欲しいのに。

 母さんみたいな悲しい顔はさせたくないんだ。

 僕のことを、知らないで。

 みんなが僕をなんて言っているのか、知らないで。


 たったひとつの小さな嘘のバチが、こんなに重く、こんなに早く当たるなんて――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ