第50話 闇主覚醒
翌朝。
腕の中から小さな悲鳴が聞こえて、目が覚めた。外からは鳥の声。
クロノスが解けて八歳に戻った、一糸まとわぬ姿のデゼルが腕の中にいて、重ねた、優しくてサラサラの肌が、とても心地好かった。
僕、まだ、まどろんでいたかったのに、デゼルが身を起こしかけたから、つかまえて抱き締めたんだ。
そのままキスで口を塞いだら、すごく甘かった。
だから、舌も挿して絡めたらデゼルがびくっと震えて、それが可愛くて、身体も絡めてデゼルがもっと僕を感じるようにしたんだ。
「――っ! ……ッ!!」
ふふ。
耳まで赤くしたデゼルをいいようにするの、とっても楽しい。
優しい肌触りが心地好くて、いつまでもこうしていたくなるけど――
起きなきゃ駄目だよね。
闇主の力を確かめて、急いで訓練しなくちゃ。
「デゼルって可愛いね」
「サイファ様……」
デゼルが涙ぐんだ目で、僕をちょっとうらめしげに見た。
手の甲で涙を拭って、震える手で服を着る仕種まで、何をしても可愛くて。
僕、にこにこしながら眺めてた。
「よかった」
「?」
手の平から舞わせた闇の魔力が、昨日までと違うんだ。
これが、覚醒した闇主の魔力――
普段着じゃなく、闇主の礼装を身にまとって、僕はデゼルに礼を取って見せた。
僕から目を離せないデゼルの耳に、昨日、贈ったイヤリングを飾ってみたら、すごく似合って綺麗だった。
「これなら、デゼルを守れそう。覚醒した闇主って、こんな感じなんだ」
おいでって、デゼルに手を差し伸べたら、その手につかまってくれたから。
力を込めて抱き締めた。
僕、こんなに強いから、きっと、デゼルを守ってあげるからって、言葉より抱き締めた方が伝わると思ったんだ。
デゼルを大好きな想いも一緒に。
不思議だね。
そうしたら、デゼルの反応も昨日までと違う気がして。
なんだか、僕の胸に頭をもたせてくれるデゼルの気配が、驚くくらい甘いんだ。
こんな感じ、今までなかった。
僕が飾ったイヤリングが、デゼルの耳元できらめきながら揺れていた。
**――*――**
――ガカッ!
僕の小盾がジャイロの模擬刀を弾いて、高い金属音が訓練場に響いた。
目を見張ったジャイロが嬉しそうに打ちかかってくるのを、訓練のため、刃をつぶした小剣と小盾ですべて受け流して、弾かれた勢いのまま距離を取る。
まだ、僕の体勢は崩れてない。
覚醒した闇主ってすごい。
昨日まで、全然、間に合わなかったのに。
ジャイロが手加減してるのかと思うくらい、ジャイロの動きが見えるし、動けるんだ。ジャイロと闘えるんだから当たり前なんだけど、大人の教官とだって、互角以上に渡り合えた。
それでも、闘うのって、動き出したら全力疾走を続けるようなものだから、何秒くらいで勝負を決めないと疲れてしまうのかとか、疲れて落ちてしまった速さと力でも、どの程度までなら凌げるのかとか、体で覚えないといけないことはたくさんあって。
夏休みの間に、訓練を重ねたジャイロがすごく強くなってて、出発まで二日しかなくて心配だったけど、特訓してもらって護身術も闇魔法も叩き込めた。
ジャイロって、好敵手と闘うのが本当に楽しいみたいで。
朝から晩まででも、面倒くさがらずに、嬉々として相手してくれたんだ。
写させてあげた夏休みの宿題のお礼だって。
ジャイロって、とっても気持ちのいい友達。
頼りになるのはもちろん、意外と義理堅いし、女の子や小さな子には暴力をふるわないし。
最近は、降参した相手をまだ殴るみたいな真似もやめてくれたんだ。
ただ、後で聞いたところによると、ジャイロ、僕を特訓するのを口実に、敬語と作法からは逃げ回ってたみたい。
あは。
確かに、綺麗に最敬礼するジャイロとか、丁寧に穏やかに話すジャイロとか、想像もつかないもんね。
ジャイロも僕達と一緒に帝国の王侯貴族に会いに行くことが多くなるから、最低限はできた方がいいんだけど。
「オレ、後ろに隠れてっからよ。『拳』じゃなく、『権』で闘うやつらの相手は任せた。拳で殴れねぇもんの相手は面倒くせぇからよ」
だって。
ジャイロって、実はお化けも駄目なんだよ。
デゼルが帝国で見つけたお化け屋敷に入りたいって僕たちにねだった時に、「冗談じゃねぇよ! 金払って化け物小屋に入るなんざ、ぜってぇ御免だぞ! どうしても入りたいんなら、サイファと二人で見てこいよ、待っててやっからよ!」って、絶対に入らなかったんだ。
怖がりなデゼルがお化け屋敷は好きなのも、怖いものなんてないかと思ってたジャイロがお化けは駄目なのも、すごく、意外だった。
僕は一人では入らないけど、デゼルが怖がって(怖いのになんで入りたいんだろう)、僕の手をぎゅっと握り締めてくれるのが可愛くて、楽しかった。
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【ご感想】羽海様より
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サイファ、私達の世界で言えば小学生ですよね…?
知識ではなくて心の赴くままにやっていることなのでしょうけれど、なんだか手慣れているような…
デゼルに出会わなければ遊び人になっていたりして…?
本当に好きにならなければこうやっていじめるように可愛がることもしないのかもしれませんが。
ジャイロも覚醒したことによって、父親に勝てる可能性も出てきて、毎日力を発散する先ができて、同級生をサンドバッグにする必要もなくなったのでしょうね。
根は悪人でない脳筋だから可愛いです。
お化けを怖がるところも可愛い…
お化け屋敷には本物のお化けがいるのだと信じていそうです。
ジャイロが拒否したおかげでデゼルとサイファはお化け屋敷デートもできて、いい事づくしですね…!
☆ 返信 ☆
私達の世界で言わなくても小学生です…!(・∀・)
子供の怖いもの知らずというか、はむの怖いもの知らずというか、デゼるんが泣いても悲鳴を上げても怯まない隠れ(てない)S、遠慮のないさいふぁ様だけに、クロノスの魔法を使ってから夜が明けるまでの間に、探検したいだけ初夜を探検して慣れたみたいです♡( *´艸`)
八歳から働いていて、慣れないことをすることそのものに慣れていたというのもあります。
子供なりに、生涯を懸けて愛し抜くと誓って。
本来なら、大人になってから受けるはずの、闇主としての厳しい訓練や指導も真摯に受けて。
公国の滅亡を阻止するため、重い責務を既に背負って、見知らぬ世界をデゼるんの闇主として冒険してきたさいふぁ様だから。
契る前に、ヘタな大人より、よほど丁寧に誠実に絆を結んでいるので、遊び人とは対極の存在かもしれません。(愛し方が真摯で誠実)
ていうか、デゼるんに出会えていなかったら、生きて大人になれるさいふぁ様を想像できません…!(T∀T)
にゃこにもトリにもヘビにも獲って食われてしまう、はむの命は儚くて。
じゃいに殴り殺されていたか、無理心中の犠牲になっていたか、騙されて帝国の花街に売られていたか…
これらの死の罠をすべて回避しても、三年後には公国が滅亡する運命… はむよ…
じゃいはそんな感じですね。
もともと、理由なく同級生を殴っていたわけでもなく、
(スニールがじゃいのことを陰でゴリラ呼ばわりしていたのが事の発端)
さいふぁ様のことはケンカするほど気になっていたので、絶対に言わないけど、さいふぁ様と心友になれて嬉しいじゃいです。
ただし、からかわれるとゴリラになってしまうので、ゴリラになったじゃいに遭遇してしまった時には、ダッシュで逃げて下さい(ぇ)
さいふぁ様とのお化け屋敷デート、デゼるん万歳です✨(∩´∀`)∩
第9話 今夜は帰らないで
https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4540207
サイファ視点から見たデゼルはめちゃめちゃあざといなと感じられます。
素でこんなに可愛くいられるなんて、美少女は得ですね…
サイファが相手だからこそ、デゼルの振る舞いがここまで健気で可愛らしいのでしょうけれど。
それにしても、枕を抱きしめた美少女に一緒に眠りたいと誘われるなんて夢の展開です…
☆ 返信 ☆
あざとい、ですと…!?( ゜Д゜) ゜Д゜) ゜Д゜)
将来を誓い合った、相思相愛の二人の間でも、あざといって言うのかな…(汗)
思春期の美少女が、片思いの皇子様を狙って演技でやったら、確かにあざといんですが。
ユリシーズなんて、極上のあざとさで上手くやったのでしょうね…(*´∇`*)
デゼルの場合はでも、サイファに負けず劣らず天然というか、十歳の男の子にとって、好きになってくれる七歳の女の子はすべからく目が眩むほど可愛いのではないかと!(`・ω・)9
心労からの高熱で息も絶え絶えに七歳の女の子が目を潤ませている様子は、美少女じゃなくても、すごく可愛いと思います。
そして、枕を抱いた美少女に一緒に眠りたいと誘われる夢の展開は、瀕死のデゼるんが、優しい心に癒される聖女であるがゆえ。
男の子と一緒に眠るのは初めてなので、子供なりに緊張して枕を抱いて現れたデゼるん。
ふだんは淡々としたさいふぁ様がほんのり頬を染める様子の可愛らしさに、緊張していた分まで、笑顔がこぼれて仕方ないデゼるん。
安心してとなりに座って、まだ体がつらいから、さいふぁ様に寄りかかるデゼるん。
さいふぁ様が優しくて、ほっとするデゼるん。
憎悪や怒気を向けられると深刻なダメージを受けてしまうデゼるん、優しいさいふぁ様のだっこに、心癒される夜なのでした。







