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サイファ ~少年と舞い降りた天使~  作者: 冴條玲
第二章 白馬の王子様
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第49話 悪役令嬢は町人Sから誕生日の贈り物をもらう

「デゼル、お誕生日おめでとう」


 九月七日の夜。

 いつものように枕を抱えて、僕の寝室を訪ねてくれたデゼルに、僕は可愛くラッピングしてもらったイヤリングの包みを手渡した。


「サイファ様、座って♪」


 いつになく、はしゃいだ様子のデゼルが、僕を寝台に座らせた。

 そうかと思えば、にっこにこの笑顔で、僕にくっついてとなりに座った。

 嬉しそうに、小さな贈り物の包みを掲げてみたり、転がしてみたり。

 だけど、可愛い白と桜色のリボンをといて、中身を取り出したデゼルは、どうしたのか、目を見開いて息をのんだんだ。

 彫金されたメッセージを確かめると、デゼルはイヤリングを見詰めたまま、微動だにしなくなってしまって。

 本当に、どうしたんだろう。

 僕が心配していたら、イヤリングを胸に抱き締めたデゼルが、涙をぽろぽろ(こぼ)して嗚咽(おえつ)を漏らした。


「サイファ様、ありがとう。一生の宝物にする」

「デゼル、どうしたの」

「嬉しいの。でも、私、なくしてしまうかもしれない。なくしたら、悲しすぎて、生きていけないよ……」


 えぇえ!?

 デゼルって心配性だとは思ってたけど、嬉しいと思ったら、たちまち、なくしたらどうしようって、泣くほど心配になっちゃうんだね。

 可愛くって、おかしくって。

 そんなに気に入ってもらえて、とっても嬉しい。

 しゃくりあげるデゼルをぎゅっと抱き締めて、なだめるために、頬をすり寄せた。


「なくしてしまったら、また、次の誕生日に贈ってあげるから。大丈夫だよ」


 泣き続けるデゼルを抱きながら、僕を選んだことをデゼルが後悔するはずないって、僕は自然にわかって。

 デゼルの耳元に、そっとささやいた。


「デゼル、今夜、契りたい。デゼルが嫌でなければ」


 華奢なデゼルが、僕の腕の中でびくんと震えた。

 僕の腕をつかんだ手も、壊れそうなくらい震えてた。


「嫌じゃ、ないよ……私、サイファ様なら……」


 僕を見詰めたデゼルの目の端から、まだ残っていた涙がもう一滴、零れ落ちた。


「サイファ様、私がどんなに泣いても、抵抗しても、やめないで」

「デゼル?」

「怖いの。でも、嫌じゃない。サイファ様、愛してる。私も、サイファ様となら契りたい」


 そう――

 微笑んでデゼルの両腕をつかむと、僕はいつもするように、デゼルの髪に、頬に、唇に、キスを降らせた。

 いつもなら、心地好さそうに呼吸をやわらかくするデゼルが、今夜は恐怖が上回るのか、息遣いを乱した。

 何だろう、この感じ。

 僕、心地好さそうなデゼルを見るのが大好きなつもりだったけど、怖がって、苦しがって、僕にされて泣くデゼルを見るのも、すごく好きなんだ。知らなかった。

 もっと、泣かせたくなるなんて。


「んっ――! …ぁあっ……」


 綺麗な声。綺麗な涙。

 こういうの、すごくいい。

 僕に押し倒されて、恐怖に潤んだ瞳で僕を見詰めたデゼルが、震える手で、先に僕のパジャマを脱がせてから、クロノスを宣言した。


時空(クロノス)【Lv6】――ターゲット・サイファ、十八歳」


 それから、デゼルは自分のネグリジェの(ひも)を解こうとしたけど、手が震えてうまく解けないみたいだったから。

 僕が解いてあげて、涙ぐむデゼルの手の甲に、羽根のように軽く、ふれるだけのキスを落とした。


時空(クロノス)【Lv6】――ターゲット・デゼル、十六歳」

★☆ ―――――――― ☆★

 【ご感想】羽海様より

★☆ ―――――――― ☆★


第8話 悪役令嬢は町人Jにケンカを売る

https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4477233


デゼルが雪乃ではないただのデゼルだったらこんなふうに闇魔法と悪知恵を駆使することはなかったのか、それとも未来の悪役令嬢としてのデゼルの本質がこうさせるのか、どちらなのでしょう。

でもどちらにせよ、サイファはデゼルがデゼルである限り、デゼルが邪悪な存在になったとしても好きでい続けるのではないかなと感じられました。


サイファはデゼルに庇われたことに不甲斐ない思いをしたのでしょうけれど、デゼルを安心させてあげられるのはサイファなので、お互い様なのだと気付いてほしいですね…!

デゼルが身を張っている間、サイファがどれほどの不安に見舞われているのかも知ることができました。


☆ 返信 ☆


どちらなのか、お答えしましょう✨(`・∀・)9

シナリオ通りのデゼルだったら、外伝『シナリオが始まる前に滅んだ国の物語』になります。七歳の頃には闇神殿で『ガゼル様、会いに来て下さらないかな』って、おとなしく待っています。

なので、サイファを選んだデゼルの立ち回りは雪乃ならではです。


それと、『デゼルがデゼルである』ということは『邪悪な存在ではない』ということなので、『デゼルが邪悪な存在になったとしても』は『誰もがデゼルを邪悪な存在と断じたとしても』と感じて下さったのかなと思ったのですが、どうでしょう。

そうであれば、羽海様が感じて下さった通りです(*´∇`*)


デゼルの『邪悪にさえ見える微笑み』をサイファが『すごく綺麗』と感じて、魅せられさえしたのは、邪悪な仮面に隠された、デゼルの魂を感じ取っているから。

このシーン、デゼルはサイファを庇っただけでなく、枝を折ったのはデゼルではないのに、デゼルが折ったことにして、ジャイロもスニールも庇っています。

本当のことを先生に話したら、サイファがスニールに逆恨みされてしまう。

他人のせいにするクセのある弱い子の恨みがどこに向かうか、デゼルはよく知っていて。この場で嘘を暴かれたりしたら、スニールは耐えられる子ではないこともわかっていて。だから、闇巫女の権力で不都合をもみ消せるデゼルが、いったん、場を預かりました。

良い子ぶるのが自分のためなら、悪い子ぶるのは他人のためなんだって、生まれて初めて目の当たりにしたサイファは、デゼルがみんなを守るためにかぶった邪悪な仮面の美しさに感動さえしたけど、サイファには自分が何に感動したのかわからなくて。だからただ、初めて見たデゼルの表情に魅せられました。

そのすぐ後、デゼルが軽々と場を収めているわけではないこと、すごく怖い思いをしながら勇気を出して行動していること、その心の負担は高熱を出すほど重かったこと――

いろいろなことが次々とわかってきて、まだ幼いデゼルがこんなにまで頑張ってくれたのに、僕には何もできなかったって、情けなかったり、デゼルが死んでしまわないか怖くなったり。


あまり語る機会のない、深度のある解説ができるので、頂ける丁寧なご感想には、いつも、心より感謝しています。

ありがとうございます✨(*´∇`*)

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