表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイファ ~少年と舞い降りた天使~  作者: 冴條玲
第二章 白馬の王子様
54/72

第45話 それでも町人Sの答えは変わらない【後編】

「デゼル、ラクになった?」


 デゼルがこくんとうなずいた。


「サイファ様、あの……」

「気分のいいものじゃないけど、仕方がないよ。デゼルが初めて、僕にキスしてくれた日のことを覚えてる?」


 うなずいた後、デゼルがようやく、顔を上げて僕を見てくれたから。

 不思議だね。

 それだけで、僕はデゼルに優しく笑いかける気持ちになれた。

 ううん、それだけなんて、ささやかなことじゃないのかもしれない。

 デゼルの瞳はそれでも、ガゼル様じゃなくて僕を追ったんだ。


「僕が選んだんだ、逃げずに、公国を滅ぼされないように闘おうって。ガゼル様に忠誠を誓ったのも、その場(しの)ぎのことではないよ。あの方のすることなら、必ず、意味があると感じるんだ。実際、ガゼル様は闇の神オプスキュリテをデゼルに降ろされた。そして、公国が滅亡する運命を知られた。それを間違いだと、僕は思わないよ。デゼルに触れて欲しくは、なかったけど」

「サイファ様……」


 デゼル、ガゼル様に淀みなく答えてた。

 僕とガゼル様が視たより、もっと、デゼルは知っていたのかもしれない。

 これまで、あの華奢な肩にひとりで背負い込んできたのなら――

 どんなに、重かっただろう。

 デゼルがぎゅっと、僕にしがみついてきたから、僕ももう、遠慮しないで抱き締めた。


「デゼル、僕とガゼル様だけが、公国の運命を見たようなんだ。さっき、ガゼル様が聞いたこと、僕もデゼルに聞きたかった。公国が三年後に滅ぶとは聞いていたけど――デゼルがどんな目に遭わされるかまでは、聞いていなかった」

「……」

「デゼル、知っているって、本当なんだね?」


 デゼルがささやくような小さな声で、うん、と答えたから。

 僕はたまらなくなって、渾身の力でデゼルを抱き締めてた。

 僕は――

 僕はなんてかんたんに、逃げずに闘おうなんて言ったんだろう。

 デゼルはどうして、できないって、怖いって、言わなかったんだろう。


 デゼルが公国を見捨てて逃げ出すような闇巫女様だったら――

 闇の神様(オプスキュリテ)の加護さえなくした公国は、なすすべなく、滅ぶしかなかったんだ。

 闇主の顔は見えなかった。

 きっと、ガゼル様がデゼルの闇主になるはずだったのに、僕が運命に割り込んでしまったから――


「ごめん、デゼル。僕にとって、一番、大切なのはデゼルだよ。それでも僕は――デゼルと僕だけが助かればいいとは思えないんだ。運命を変えられなかった時に、デゼルがあんな(むご)い目に遭うなんて知らなくて、一緒に闘おうなんて綺麗事を言って。でも、知っても僕の答えは変わらないんだ」


 できないなんて、怖いなんて、逃げ出したいなんて。

 デゼルに言えるはずがなかったんだ。

 僕やジャイロやスニールみたいな、取るに足らない公民の一人一人にまで、デゼルは優しいんだから。

 運命を変えられなかった時、デゼルがどれほど残酷な目に遭わされるのか。

 知っていて、デゼルが誰のために、何のために――

 デゼルは怖がりなのに、最初からずっと、震える小さな手で、僕の手を握り締めて闘ってくれてたんだ。

 それを思い出したら、もう、たまらなかった。

 泣いても何にもならないのに、後から後から涙がこぼれた。


「サイファ様、私、逃げたいなんて思ってないよ。私もサイファ様と同じだよ。クライス様とティニーの運命は変えられたもの。みんなで助かろうね。私、サイファ様に一緒に闘って欲しい。最後まで、私の傍にいて欲しい」


 デゼルだって泣いてて、声だって震えてるのに。

 まだ、こんなこと言うんだ。


「必ずいる、最後まで、デゼルの傍に。僕がデゼルを守るよ」


 嬉しそうに、頬をすり寄せてくるデゼルが愛しくて。

 僕はもう、手加減もできずに渾身の力でデゼルを抱き締めてた。

 守ってあげたい。

 闇の神様(オプスキュリテ)に視せられたような目には、絶対にデゼルを遭わせたくない。

 あんなふうには、絶対にデゼルを死なせたくない。

★☆ ―――――――― ☆★

 【ご感想】羽海様より

★☆ ―――――――― ☆★


第4話 闇巫女と闇主

https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4488169


サイファのデゼルの形容がどれもとても詩的で素敵なんですよね…べた惚れしていることが伝わってきます。

サイファにもデゼルにも、癒術の魔法は似合うなと思います。献身的に人を救おうとする二人にぴったりです。

闇主には色々と宿命がまとわりついてくるので、私だったらデゼルに闇主になるよう頼まれても即決できるかどうか分かりませんが、サイファにとっては、一生をかけてデゼルを守れるのは天職みたいですね。

大好きな子を守る仕事は、男の子にとっては憧れであり理想なのかも。


☆ 返信 ☆


素敵なご感想をありがとうございます✨(*´∇`*)


同じ第4話までで、『サイファのデゼルの形容が可愛い一辺倒』『もっと言葉を尽くして表現して欲しいし、見た目ばかり褒められても嬉しくない』とのご感想も頂いているのですが、あまりにも真逆で吹きました。

私としては、羽海様に同感です。

わずか十歳のサイファがこれ以上、言葉を尽くしたら、ガゼル公子まがいの神童になってしまいます。

そもそも、サイファがデゼルの見た目を褒めてるシーン、ここまでにはないんだけどな…。

(とっても綺麗で可愛いと思ってるだけで、口にしてない)


二人ともヒーラー向きとのこと、ありがとうございます♪(*´∇`*)

私もそう思っていたのですが、診断してみたら、デゼルは賢者向きと出てしまって。それもそうかもと思ったりもして。


闇主の定めについては、サイファはもちろん、まだ、デゼルも知らなかったりします。知っていたら、デゼルの性格では闇主になって欲しいとは頼めなかったでしょうね…。

知らなかったおかげで世界が救われたとは、なんともはや。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ