第40話 夏休みの帝国探検
「サイファ、行ったぞ!」
「暗幕!」
夏休みの間に、デゼルを時の精霊と契約させるため、トランスサタニアン帝国の色々な領地を冒険した。
交戦中でも冷戦中でも何でもないんだけど、帝国はとにかく治安が悪くて、僕達がみんな子供な上に、デゼルがすごく綺麗だからか、半日も探検すれば、悪い人達に襲われないことがなかった。
ジャイロが端からのしてくれたけど、ジャイロに任せると賊を返り討ちにしたり、再起不能にしたりするんだ。
僕はそこまではしたくなかったけど、刃物を持って襲ってくる大人を相手に、殺し合いはやめようなんて、本当に、説得していられない。綺麗事じゃ、すまないんだ。
相手は一人じゃないことが多かったから、僕はデゼルを守るだけで、デゼルは敵のかく乱とジャイロの補助だけで手一杯。
ううん、デゼルは本当はもっと戦えるんだと思う。
ただ、殺すのが怖いんだ。
私も殺した方がいいのかなって、ジャイロに真っ青な顔で震えながら聞いてたことがあるから。
ジャイロはそんなデゼルの顔色を見たら、不敵に笑って断った。
「いらねぇよ。俺、バスタードなんだから、デゼルは前に出てくんなよな。思うように振り回せねぇや。敵につかまんないよう、サイファの後ろに隠れてろよ。お姫様は足手まといになんなきゃそれでいいんだからよ。わかってんだろうなァ、サイファ! お姫様を人質に取られるようなヘマだけはすんなよ!」
ジャイロだって、言うほどの余裕はないはずなのに、デゼルのための、強がってるなんて感じさせない立ち居振る舞い。
すごく、カッコイイと思った。
ジャイロの方が強いんだから仕方ないんだけど、年少のジャイロに命を懸けさせて、後ろで役に立たない闇主ごっこしてるみたいな自分が、すごく、いやだった。
一日も早く、僕自身の力でデゼルを守れる闇主になりたい。
「俺、ちょっとわかってきたわ。悪党の気配ってやつ?」
三人組の賊をのしたジャイロがデゼルに言った。
「ここ、たぶん、やべぇぞ。すぐにこいつらの仲間がくるだろうから、急ぎじゃねぇなら、いったん戻って仕切り直そうぜ」
「どうして仲間がくるって?」
「こいつら多分、四人組だ。連絡役っぽいのを取り逃がしたからよ。――ああ、ほら、来やがった。向こうから来んの、たぶん、こいつらの仲間だぜ?」
デゼルが迷わず僕とジャイロの手を取って、宣言した。
「時空【Lv1】!」
その日に契約しようとしたアスタール邸は、帝国でも一番、治安のよくない領地にあって、だからこそ、重要なんだってデゼルが言ってた。
三年後、帝国の第二皇子が『闇の十二使徒』と呼ばれる手勢を率いて公国に攻め込んでくるのを、デゼルは二つの方法で阻止しようとしてるんだ。
一つ目の方法は、第二皇子の説得。
第二皇子は皇太子の命令で攻め込んでくるだけで、そんなに悪い人じゃないはずなんだって。
皇帝と皇太子が優秀な第二皇子をけむたがって、魔の海域と呼ばれるオプト海を戦艦で越えての侵略戦争を命じて、そのどさくさに紛れて第二皇子を暗殺しようとしているのが、公国滅亡の真相。
それなら、僕達と第二皇子の利害は一致しているから、なるべく、話し合いで解決したいって。
公国にしてみれば、とんでもないとばっちり。
二つ目の方法は、闇の十二使徒を助けて回ること。
話し合いを成功させるためにも、失敗に備えるためにも、闇の十二使徒が一人でも多く公国に味方する状況にしておきたいんだって。
闇の十二使徒って、第二皇子にとって友達みたいなものだよね?
友達みんなに反対されたら、第二皇子本人だって乗り気じゃない戦争なんて、きっと、しないよね。
僕だったら、たぶん、一つ目の方法しか思いつかなくて、うまくいかなくて、立ち往生してしまうだけなんだ。
だけど、デゼルの考えを聞いてみれば、話し合いを成功させるためにも、失敗に備えるためにも、そして、闇の十二使徒のためにも、一石三鳥の本当にいい方法。
こういうのを、布石とか根回しとか言うんだね。僕はまだ、全然、そこまで頭が回らないけど。
――そう、闇の十二使徒のためにも。
放っておいても第二皇子が助けてくれるんだけど、みんな、第二皇子の助け方では本当の意味では救われないんだ。







