第37話 フォステイルの夜明け【後編】
「あの……このお金、これまでの借金を返すのに使っても?」
「もちろん、そのために使ってもらわないと困りますぞ」
どうしてだろう。
僕、何にも悲しくないのに、涙がこぼれた。
「あの、利息がないって、今月中に返せなくても、増えない、とか……? 返したら、返しただけ減る、とか……?」
マリベル様が吹き出した。
「もちろん」
どうしよう、涙が止まらない。
僕、つらくも悲しくもないのに。
顔を上げたら、母さんも両手で顔を覆って泣いてた。
「ガゼル公子のご厚意で、フォステイルの債務整理をするようにと」
「さいむ……せいり……?」
「利息が高くなりすぎて返せなくなった借金を、いったん、闇神殿が立て替えて返済することで利息をなくし、無利息で少しずつ返せるように整理する――という説明で、わかりますかな?」
少し難しかったけど、利息がつかないから、少しずつでも返せば、いつかは返せるんだっていうことはわかった。
だから、僕はこくんとうなずいた。
「……あの、月々どれだけ返したら……?」
「そうですな、闇主の月々の報酬が金貨三十枚。そのうち、どれだけ返してくれますかな?」
僕も母さんもびっくりして、顔を見合わせた。
だって、おとなの母さんが働いても、月に金貨十五枚しかもらえてないのに。
「サイ、ファ、どれ、くらい……?」
母さんの声が震えてる。
「えっと、ええと、半分……十五枚?」
残りの十五枚をどうしたいのか、考えがあったわけじゃないんだ。
だけど、半分くらいは、僕、もらってもいい?
「よろしいでしょう」
僕、驚いてマリベル様を見てた。
今までみたいに、もらったお金、全部、渡さないと叱られるかと思ったのに。
半分は、僕がもらえるんだ。
どうしよう。
また、涙が出てきた。僕、嬉しいのかな。
だって、もう、増えないんだよ。
もう、僕のお金、丸ごと持っていかれたりしないんだよ。
そう思ってたら、母さんがしゃくり上げて泣きながら、僕を抱き締めてきた。
母さんも、本当に怖かったんだ。
母さん、これからは病気になれる。
もう、熱があるのに仕事に行ったりしなくていいんだ。
もう、借金の取り立てに怯えなくていいんだ。
そうだ、僕、残りの十五枚から、デゼルが許してくれたら母さんに仕送りしてあげたい。
闇主は闇神殿に住み込みで、食事も着替えも用意してもらえるから、暮らしていくだけならお金はかからないんだ。
「この後、ガゼル公子にご挨拶に行くように」
僕は喉の奥が詰まって言葉にならなくて、ただ、うなずいた。
この感謝を、どうしたら返せるだろう。どうしたら伝えられるだろう。
夜明けの公子と呼ばれるガゼル様が助けてくれたんだ。
誰よりも立派で優しいガゼル様が、明けない夜を彷徨っていた僕と母さんに夜明けをくれた。
僕も、母さんも、もう、死ななくていいんだ。







