第4話 闇巫女と闇主
デゼルの甘くてやわらかな唇が、僕の唇にふれた。
たぶん、一瞬のことだったけど、体が甘さに痺れたように動かなくて。
デゼルの声が、まるで、夢の中から聞こえてくる声みたいに、現実感なく響いた。
“ サイファ様、デゼルの闇主になって下さいませんか。みんなを守るなら、時間がないの ”
――闇主って、なに?
僕が聞いたら、デゼルが教えてくれた。
闇巫女は、契った相手に闇の魔力を分け与えることができるんだって。
闇の魔力と言っても、闇巫女が司るのは安らぎの闇。
――つまり、僕でもヒーラーになれるっていうこと?
それも聞いてみたら、デゼルが月の妖精みたいに可愛らしく微笑んで、うなずいてくれた。
闇主の務めは闇巫女を守ること。
だから、回復役というよりは守護役みたいなんだけど、癒術くらいなら使えるようになるって。
わぁ。
それって、手を当てたら神様みたいに、怪我や病気で苦しむ人達を癒してあげられるっていうこと?
すごいや。
“ ありがとう、サイファ様 ”
あれ、なんで僕がお礼を言われてるんだろう。
なんで様がついたのかも、わからないままだけど。
“ これで少しだけ闇魔法が使えるようになったはずですから、一緒に練習しましょうね ”
もしかしたら、僕、やっぱり死んじゃったんだっけ?
こんなことが起きたらいいなって、ずっと、夢見てたことを、死んじゃう間際の、本物の夢に見てるとか――
僕、『マッチ売りの少女』のクライマックスを迎えてる?
だけど、夢だとしても、ほんとうに、いい夢。
“ サイファ様、デゼルを残して死なないで ”
そう言われたら、すごく、デゼルが愛しくなって――
つい、デゼルをぎゅっと抱き締めて、僕の方からも、キス、返してしまって。
夢なら覚めてしまうところだけど、甘くて、優しくて、あたたかかった。
よかったのかな。
僕には、まだ一度も、デゼルに言えてないことがあるのに。
だけど、まるで雪解けのせせらぎみたいな、優しくて清らかで、心地好い冷たさの力が僕の中から湧いてきて。
これが闇の魔力?
意識を集中してみたら、あえかな聖光が僕の手の平から立ち昇った。
わぁ。
闇の神様が、見守っていて下さったんだ。
僕の願い、叶えて下さったんだ。
涙がこぼれそうになるのを懸命にこらえて、デゼルをぎゅっと抱き締めた。