第33話 悪役令嬢は町人Sと二人で出国はしなかったけど【後編】
ジャイロにとっては、まるで永遠かのようだった、長い長い三日間の船旅がようやく終わって。
僕たちは無事に、トランスサタニアン帝国の港に辿り着いた。
おえぇえええってなってるジャイロの背中を、せめてと思って、さすってあげたんだけど。
げっそりしたジャイロが痛々しかった。
この三日間、ジャイロはほとんど食べてないんだ。食べても吐いちゃって。
それにしても、この国ってなんだか――
空も、海も、街並みも灰色に見えるのは、どうしてだろう?
よく見たら、海は実際に濁ってて、汚い泡やゴミが浮かんでた。
空にも、真っ黒な煙をもうもうと吐き出す煙突が何本も見えたから、きっと、灰色に見えるのは気のせいじゃないんだ。
港の隅に、クライス様のお屋敷の庭園にあったのと同じようなオブジェがあって、それに手をかざしたデゼルが、僕達のところにてててって、可愛らしく駆け戻ってくる。
わ、デゼル、転びそう。
ヒヤヒヤしたけど、なんとか、転ばなかった。
デゼル、よく転ぶから、いつもは僕が手をつないであげるんだけど、僕、ジャイロの背中をさすってあげてたから。
「ジャイロ、つらそうね。今回はここまでにして、いったん、帰ろうか」
「えっ」
僕も驚いたけど、それより、ジャイロの顔がゾンビみたいな、土気色になった。
ようやく降りたのに、またすぐ、船に戻れとか拷問だよね……。
「クロノスで帰るから、二人とも、手をつないでね?」
「あ、そうか。今度からはいつでも、ここまで魔法で来られるようになったんだ?」
「うん」
「ジャイロ、よかったね。帰りはもう、船に乗らなくていいんだって」
「……マジか……」
喜ぶと思ったのに、ジャイロはげんなりした顔。
「だったらなぁ、最初から、二人でいったんここまで来いよ……」
「でも、ガゼル様が二人だけで来たらダメって」
「それ、大人と行けって意味だったんじゃねぇ? 今さらだから、いーけどよ……」
「そうね。ジャイロが船酔いするって知ってたら、クレイに頼めばよかったかも」
デゼルが申し訳なさそうに言って差し出した手を、壊さないか心配してるみたいな顔で、おっかなびっくり、ジャイロが取った。
その頬に、少し、赤みがさしてて。
ふふ、夢みたいに可愛いデゼルと手をつなげるの、役得だよね。
ジャイロ、そうでなくても、女の子と手をつなぐのなんて、初めてじゃないのかな。
「時空【Lv1】」
時の神殿から帰還した時みたいに、視界がぐにゃりとゆがんだ。







