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サイファ ~少年と舞い降りた天使~  作者: 冴條玲
第一章 舞い降りた天使
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第3話 闇巫女の予言

 奇跡が起きたのは、五日後のことだった。


「サイファ!」


 いつもの公園に夕飯のおかずを採りに行ったら、満面の笑顔で手をふりながら、デゼルが大きな声で僕を呼んだんだ。


「おとなになったら、デゼルを迎えて下さるって、デゼルは意味がわかりました! でも、今すぐに迎えてほしいの」

「デゼル?」


 その日に会ったデゼルは、まるで、五日前とは別人みたいで――

 ううん、デゼルはデゼルなんだ。

 目を閉じてもわかる、その存在感。

 デゼルがまとうオーラはとても澄んでいて、綺麗で、少しだけ冷たい。

 まるで、雪みたいに。

 他にいない、その優しいオーラは間違いなくデゼルのもので。

 ただ、なんだか急におとなになってしまったみたいに、デゼルはまだ七歳なのに、あどけなさがどこかへ行ってしまって。

 これって、デゼルが言ってた洗礼の影響なのかな。

 三日前、デゼルは闇巫女として覚醒するための洗礼を受けたんだ。


 ――そうか、まだ話していなかったっけ。


 ここは、闇の神を信仰する小さくて平和なオプスキュリテ公国。

 闇の神オプスキュリテは死と安らぎを司る女神様で、公国の闇神殿を統べるのが、闇の神の依り代となって、闇の神をその身に降ろすこともできる闇巫女様。それが、僕のデゼルなんだ。

 闇の神から『安らぎ』を司る力を授けられた聖女様なんだって。

 闇の神の御使いにはもう一人、闇幽鬼(スペクター)と呼ばれる鬼女様がいるんだけど、こちらは闇の神から『死』を司る力を授けられ、罪を重ねる者に死の裁きを下す審判様なんだって。

 今はいないって聞いてるけど、闇幽鬼様も、闇の神の片翼として、公国を守って下さる尊い方なんだ。

 闇幽鬼様を恐れるのは、悪い子だけだって、小学校で習ったよ。

 闇の神に顔向けできないようなことをしていないなら、闇幽鬼様を恐れる必要はないんだって。


「サイファ、デゼルは洗礼を受けて闇巫女としての魔力が目覚めたの。それで、この国が滅ぼされる未来を知ってしまったの」

「えぇ!?」


 今、なんて!?


「デゼルは公国を救いたい。サイファにも助けて欲しいの。だけど、私達はまだ子供だから、無理かもしれない。どうしよう、サイファはどう思う? 二人で逃げた方がいいのかな」


 えっ。

 えっ。

 僕はとにかく、デゼルを公園の芝生(しばふ)に座らせた。


 デゼルに詳しい話を聞いてみると、三年後、海の向こうの大きな国から軍隊が攻め込んできて、僕たちの公国はあっという間に滅ぼされてしまうんだって。

 デゼルはその大きな国の皇帝や皇太子の名前も知っていた。


 三年後じゃ、僕、生きていても十三歳だ。

 明日の見えない僕が、三年後の心配をしても仕方ないんだけど。


「三年後じゃ、僕はまだデゼルを守れない。だから、デゼルのためには、一緒に逃げるのがいいんだと思う――」


 僕は優しくデゼルの手を取って、でもねと続けた。


「きっと、うまく行かないと思うけど、それでも、デゼルが命を懸けてもいいと思ってくれるなら――僕はデゼルと一緒に、公国を救う努力をしてみたい」


 だって、僕もデゼルも、公国のみんなも、まだ、生きてるんだ。

 こんな、できっこないこと言ったんじゃ、デゼルにも嫌われてしまうかもしれないけど――

 僕は死にたくないし、デゼルのことも、誰のことも死なせたくない。

 この命が尽きるその時まで、諦めたくないんだ。


「ありがとう、サイファ様」

「サイファ様って」


 デゼルの瞳がキラキラと輝いて、僕、すごく驚いた。

 なんで様がついたんだろう?

 だけど、途惑う僕にデゼルがぎゅっと抱きついてきて、もっと、驚いたんだ。

 ふわっと、甘くて優しい花のような香り。

 やわらかくて華奢なデゼルの体が僕の腕の中に飛び込んできて、僕の視界を、夢のように綺麗な銀の綾が流れた。


「そうだ、サイファ様、デゼルの家庭教師になって頂けませんか?」

「えっ」


 僕、こんな時なのに、期待に胸が高鳴ってしまって。

 闇神殿からもらえる仕事って、その、お給金が高めなんだ。

 聖職者の人達だから、子供を殴ったり蹴ったりなんてなさらないし。

 休学していた頃、午前中は闇神殿の近くの広い公園のゴミ拾いと水やり、草むしりをずっと任せてもらえていて。

 その仕事が、朝8時から正午までの4時間で銀貨2枚。

 子供でもできる仕事の中では、一番、割がよかったんだ。


 ――三年後には公国が滅んでしまうかもしれない話をしている時に、明日の銀貨1枚が気になる僕って、あさましくてカッコ悪いのかな。


「それと――」


 意を決したようなデゼルの瞳が、僕の目を真っ直ぐに見詰めた。

 蒼穹を映す湖のように、綺麗に澄んだ蒼の瞳が、僕の魂を貫くかと思ったんだ。



挿絵(By みてみん)【挿絵】なかいのぶ様

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