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サイファ ~少年と舞い降りた天使~  作者: 冴條玲
第一章 舞い降りた天使
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第25話 悪役令嬢はクライスとティニーを救う【後編】

【ご案内】アルファポリス様で完結済のシリーズ本編『悪役令嬢と十三霊の神々』の方に、『新春お年玉企画』についてのご案内を掲載しています。

https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/971438146/episode/4696612

「私には、ティニー様の病を癒す力があります。クライス様がトランスサタニアン帝国の第二皇子ネプチューンを帝位に就けることに協力して下さるなら、ティニー様を今日、癒すつもりで参りました」


 ガタンと、クライス様が椅子を蹴立てた。


「なぜ、私がネプチューンに招へいされていると知っている……!? 公家も知っているのか!?」


 しょうへい?

 しょうへいって、何だろう。

 どうしよう、ちゃんと聞いてるのに、全然、わからない。

 何か聞かれたら答えられるように、話は聞いてないといけないって、デゼルに言われたんだけど。


「いいえ。すべて、闇の神からの神託です。まだ、誰にも話してはいません」

「闇巫女とやら、うさん臭いと思っていたが。なるほど、公家が囲い込むだけのことはある……か。ネプチューンから帝位を望む意向は示されていないが?」

「三年後に、示されます」

「ふむ……」


 困ったな、聞いてるけどわからなかったら、聞いてないのと同じだよね……。

 何か、わからないことを聞かれて、聞いてなかったのかって叱られるのが怖くて、泣きたくなってきた。

 しんたくとか、かこいこむとか、いこうとか、短い会話の中に、わからない言葉がたくさん出てくるから、もう全然、何の話をしてるのか、わからないんだ。


 クライス様は部屋の中を行ったり来たりしながら、随分、考えてた。


「ついて来たまえ」


 クライス様について行くと、可愛らしい、女の子の部屋に通された。

 わぁ、お姫様ベットだ。

 デゼルの寝室のより、フリルとかリボンとか、スパンコールとかがたくさん飾られて、色もピンクで可愛い。

 デゼルのお姫様ベットは白いカーテンにコバルトの布がそえてあって、可愛いというより、涼しげで綺麗な感じだからね。


 クライス様がレースのカーテンを開けて、デゼルを手招いた。

 お姫様ベットの中では、四つか五つくらいの土気色の顔をした女の子が、息も絶え絶えに、苦しそうに眠っていたんだ。


「おまえの力は『目に見えて』回復させることができるものか?」

「――おそらく」

「おそらく、か。回復したのかしないのか、わからないような気休めだった時には、先ほどの取引に応じる保証はしない」

「わかりました。――かけます」


 そっか。

 病気の女の子を癒してあげに来たみたい。

 そういうことなら、デゼルに任せるのが一番いいと思いますって、クライス様を励ましたいけど、僕から声をかけたらいけないんだよね?


生命の水(ウンディーネ)【Lv8】――水神の御名によりて命ずる、ティニーを癒したまえ」


 デゼルがティニーに触れた指先から幻のような水があふれて、ティニーの体をくるくると取り巻いた。

 それは、ほんの短い時間のことで、すべての流水が消えると、ティニーの呼吸が静かになったんだ。そして。

 ぱちりと目を開けたティニーが、明るい空色の瞳でクライス様を見た。


「パパ?」

「ティニー!」


 ティニーの土気色だった肌が、少女らしい輝きを取り戻して、もう、どこからどう見ても、病人には見えない。


「わぁ、きれいなおねえちゃん」


 デゼルがニッコリ笑ってみせると、ティニーはすごく喜んだ。

 ふふ、嬉しいよね。

 僕も、デゼルに笑いかけてもらえると、すごく嬉しい気持ちになるんだ。


「デゼル様だよ、ティニーの命の恩人だ。ああ、ティニー、よく元気になってくれた……!!」


 ずっと、気難しくて不愛想だったクライス様が、別人のように泣き崩れて、ティニーをぎゅっと抱き締めた。


「生命の水【Lv3】――水神の御名によりて命ずる、クライスを癒したまえ」

「おわっ!?」


 クライス様を驚かせて、デゼルがくすっと笑った。


「お疲れのようでしたので」

「……デゼル様、公子様に水神の加護が降りたと聞きましたが、貴女様でしたか」

「公子様ということに、して頂きたいのです。私の都合で」

「そうですか、貴女様のご都合であるならお安い御用。専門書へのご助力も、これまで、ありがとうございました」


 ……。

 クライス様とデゼルが話し始めたら、また、あっという間にわからなくなって、僕、なんだか頭が痛くなってきた……。

 頭って、使い過ぎると痛くなるんだ。

 クライス様とデゼルの会話は、僕の頭を使い過ぎてみても、さっぱり、わからないんだけど。

 聞いてなくちゃ駄目? 聞いてる意味、あるのかな……。


「今後、このクライスの力が必要な時にはいつでもお声がけを」

「お心遣いに感謝いたします。そして、こちらこそ。ただ、先ほど、ティニー様を癒した奥義だけは、私の生涯のうちに三度しか使えないものです。おそらく、二度とは奥義で癒すことかないませんので、ご理解下さい」


 ひとつだけ、わかったかもしれない。

 ユリシーズの火傷を癒す約束の、たった三度しか使えない奥義を、デゼルはたぶん、ティニーのために使ったんだね。

 そうだよね、酷い火傷のユリシーズも可哀相だけど、まだ小さなティニーが重い病で六日後には死んでしまう予定なら、僕がデゼルでも、ティニーを優先しないわけにはいかない。



 クライス様はデゼルにすごく感謝したみたいで、あんまり、美味しくない夕食の席に招待してくれたんだ。

 ティニーに「ぱぱぁ、これ、おいしくないよ~? でぜるさまも、きっと、おいしくないよ?」とか言われて困ってた。

 ティニーになら、僕も話しかけてもいいよね。


「だいじょうぶ、クライス様とティニー様が元気になってくれたのが嬉しいから、おいしいよ」


 僕がそう言ったら、デゼルもにっこり笑ってうなずいてくれた。

 でも、今度があったら、夕食は僕がつくってあげようかな?

 だって僕、クライス様よりは、美味しくつくれる自信があるから。



  **――*――**



 この日の僕は知らなかったんだけど、クライス様は別に貴族じゃないから、話しかけてもよかったんだって。

 僕、すごく懲りた。

 今度からは絶対、出かける前に、何をしに行くのかデゼルにきちんと聞くよ。

 お話も、先に聞いておかないと、その場で聞こうとしたって、全然わからないってわかったから。



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 闇主サイファは新スキル『予習』を獲得しました。

 闇主サイファの知力が1上がりました。

 闇主サイファの精神力が1上がりました。

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