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サイファ ~少年と舞い降りた天使~  作者: 冴條玲
第一章 舞い降りた天使
21/72

第21話 悪役令嬢は町人Sを割とSだと思いました

 キノコ狩りの日みたいに、デゼルが眠るまで傍についててあげるつもりだったのに。

 僕だけ寝台に寝転がって、なかなかやすまない、水晶球とのにらめっこを続けるデゼルを眺めてるだけ。

 僕また、何の役にも立ってない。


「ねぇ、デゼル。何してるの? まだ、寝ないの?」

「うん、もう少し――」


 すごく疲れてるはずなのに、デゼルは手元のノートに占ったことを書き出していくんだ。やすまないと駄目だよって、どう言ったら、わかってくれるだろう。

 今夜のデゼルは、ちっとも、僕の言うことを聞いてくれない。

 僕がむくれてデゼルを眺めていたら、ふと目が合った。


「サイファ様……」


 あ。

 デゼルがふらふら、僕のとなりに潜り込んできた。

 よかった、ようやく、やすんでくれるみたい。

 僕が微笑んで抱き寄せたら、デゼルも心地好さそうに、僕の胸に頭をすり寄せてきたんだ。すごく、可愛い。

 しばらく、そのまま、優しく抱いていたんだけど。


 契るってどうしたら――

 いつの間にか、僕はまたそのことを真剣に考えていて。

 見詰めたデゼルの額に、耳元に、唇に、優しくキスを降らせてた。


「――デゼル、抱いてもいい?」


 怖いのか、腕の中のデゼルが緊張したのがわかった。


「サイファ様なら、いいよ。――闇主にはなれないけど」

「そう――」


 十歳と七歳じゃ、やっぱり、まだ、契れないのかな。


「どうしたら、デゼルを守れるんだろう」


 僕にできることは、してるつもりなんだ。

 デゼルに生活の仕方を教えた後、戦闘訓練も受けて、闇魔法の練習もして、学校の宿題だって、きちんとしてる。

 帰りの遅い母さんのために、夕飯の支度もしないとならない。

 時間は全然、足りなくて。 


「私ね、明日にも、クライス様に会いに行きたいの。それから、時の神殿を訪ねて、時の精霊を探して回りたいの。誰とも戦ったりはしないはずだから、私が迷子にならないように、サイファ様が地図を読んで道案内してくれたら、守れると思う」

 

 虚を突かれるって、こういうことなのかな。

 緊張の連続だったからか、ふだんのデゼルを思い出したら、つい、吹き出しちゃった。


「そういえばデゼルって、一本道でも迷うもんね」

「そうよ。だから、サイファ様がついてきてくれないと、目的地にたどり着けないんだよ。デゼルはまじめに言ってるんだよ」


 デゼル、すごい地図を書けるのに、自分で書いた地図を読めないみたいなんだ。

 分かれ道の度、地図をぐるぐる、ぐるぐる回しながら見て、こっちかな? こっちだと思う? って、頼りなさそうに僕に聞くんだもん。

 ちょっと転んで、落とし物を拾ったら、たった今、どっちから歩いてきたのか、もう、わからなくなるみたいなんだ。前を見て、後ろを見て、「どっちから来たか、サイファ様、覚えてる?」って、涙ぐんで僕に聞くんだもん。

 デゼルって、すごく頭がいいのに、すごく不思議。

 つないだ僕の手に、デゼルがそっとキスしてくれた。


 今夜の僕は、何の役にも立たなかったけど。

 ふだんのデゼルが、僕を頼りにしてくれてるのは間違いないのに、どうしてかな、すっかり忘れてたみたい。


「サイファ様も、きっと、三年後までには闇主になれると思う。すぐには無理だけど。だから、ジャイロが死鬼になってくれて、よかったかもしれないと思うの。危ない所には、ジャイロと三人で行こう?」

「……それって、僕が行ったら、足手まといになるんじゃないのかな」


 地図ならきっと、ジャイロにだって読めるから。

 僕を庇ったデゼルが見る間に血に染まったのを思い出すと、胸に黒い感情がわだかまるんだ。


「サイファ様は、足手まといなんかじゃないよ。サイファ様にしか頼めないことがたくさんあるもの。ジャイロにしか頼めないこともあるし、私が頑張るしかないこともある」

「――こうして抱いていたら、少しは、力になれるの?」


 ほんとかなって、デゼルを疑ってしまって。

 初めて会った頃から、デゼル、割とだっこして欲しがったから。

 だっこ好きなのかなと思ってたんだけど、小学校に通うようになってからも、デゼル、だっこは僕にしか頼まなかったから。

 優しくだっこしてあげたら、耳まで桜色に染めたデゼルが、こくんとうなずいた。


「ふふ、可愛い」


 僕が可愛いって言ったら、桜色だったデゼルの頬がどんどん紅潮して。

 デゼルがそれを隠そうとするしぐさがすごく可愛くて。

 胸にわだかまったはずの黒い感情があっさり消えて、それよりも、デゼルがこんなに可愛いの、もっと見たいなと思ったんだ。

 だから、今夜、僕の言うことを何にも聞いてくれなかったおしおきに、デゼルの手を隠せないようにつかんで、真っ直ぐに瞳を見詰めたら、ますます可愛らしく、デゼルが頬を紅潮させた。


「や、サイファ様」


 涙ぐんだデゼルが僕の手を振りほどこうとしたけど、全然、力が足りなくて振りほどけない。

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