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サイファ ~少年と舞い降りた天使~  作者: 冴條玲
第一章 舞い降りた天使
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第2話 PROPOSAL ~きっと、大人にはなれないけれど~

 父さんが帰って来なくなってから、二年が過ぎた。

 つらいこと、苦しいこと、悲しいこと、たくさんあった。

 だけど、嬉しいこと、楽しいことも、たくさんあった。

 胸が躍るような素敵なことは、すべて、僕を追いかけてくれるデゼルと過ごした、優しい時の中に。


 学校では孤立したまま、身に覚えのないことで先生に叱られることが増えていた。

 だけど、ゆっくり叱られている時間はないから。

 学校が終わったらすぐに帰って仕事を探して、暗くなる前に夕飯の食材を探して、夕飯の支度をして、お風呂をわかして、宿題もしなくちゃいけないんだ。

 だから、最初はそんなことしていませんって言ってみたりもしたけど、信じてはもらえなかったし、今ではもう、先生が僕を叱ろうとしたら、手短に聞いて、謝って、長くなりそうなら、先生をふりきって帰るようになった。


 そうしたら、先生が母さんに手紙を書いて寄越すようになって。

 こんなの読んだら、母さんが心配する。

 だから、帰りの遅い母さんより先に僕がその手紙を見つけて、隠してた。

 だって、母さんにだって、面談のために学校に行くような時間も余裕もないんだ。

 母さん、病気になっても仕事を休めないくらいなのに。

 これ以上、母さんにつらくなって欲しくなかった。


 だけど――


 僕が八歳の時に、母さんが病気で死にそうだった時に、どうしても、足りなくて借りた金貨三十枚の借金が、もうすぐ三百枚になってしまうって、母さん、泣いてた。

 どうしたらいいのって、帰ってこない父さんの名前を呼びながら、肩を震わせて泣いてた。

 こうりがしには、借りたらいけなかったみたいなんだ。


 ごめんね、母さん。

 守ってあげられなくて。

 せいいっぱい、頑張ったんだけど。


 この前、母さんの荒れてしまった白い手が、僕の首にかかって、母さんは泣いてて、母さん、僕のこと殺そうとしてる? って、思った。


 ごめんね、母さん。

 どうしてあげたらいいのか、わからなくて。

 助けてあげられなくて。


 そう(ささや)いた、僕のこめかみからも涙が伝い落ちたら、僕の首を絞めようとしてた母さんの腕が、力を失った。

 母さんは寝室に駆け込んで、泣き崩れてた。

 僕にはどうしてあげることも、できなくて。

 せめてと思って、デゼルと採ってきた木の実や野草を入れたスープをつくって、質素な寝台の脇の机に、置いておいたけど。

 

 ――時間の問題なんだって、わかった。

 七月の十一歳の誕生日を迎えることは、僕にはきっと、できないんだ。


 僕にはもう、わずかな時間しか、残されていないんだって、わかった。



  **――*――**



 闇神殿の近くで薬草や夕飯の食材を探していると、たまに、デゼルに会えた。

 僕を見つけると、デゼルはいつも、花が綻ぶような、満面の愛らしい笑顔で、嬉しそうに駆け寄ってきてくれたから。

 デゼルがそんなだから、どんなにつらくても、デゼルに初めて会ったあの日から、僕は叶うなら、生きていたかった。

 だって、生きていたら会えるんだ。

 デゼルだけは、僕に笑いかけてくれるんだ。


「サイファ、あそぼ!」


 デゼルはずっと、僕を大好きでいてくれて、抱き上げれば楽しそうに笑った。

 遊ぶと言ったって、いつも、最初の日と同じ。

 夕飯の食材を集めるのにつきあわせているだけなんだけど。

 最近は、デゼルもだいぶ、食べられる野草や薬草がわかるようになってきたみたいで、「あったぁ!」って、得意そうな顔で僕に駆け寄ってくるのが、とっても可愛い。

 公園の近くの小川で魚を一緒に獲ったのも、すごく、楽しかった。

 デゼル、川の浅瀬で座り込んだりしていたから、衣装が水浸しになって、神殿の人達がびっくりしてた。

 デゼルが蜂に刺されて、白い手が痛々しく腫れ上がったこともあった。

 デゼル、痛いのと怖いのと驚いたのでぎゃんぎゃん泣いて、泣きながら自分でヒールして。

 僕がだっこして背中を叩いてあげるうちに、落ち着いてきたみたいだった。

 デゼルにはすごく痛い記憶になったと思うけど、僕には、すごく甘い記憶になった。

 泣きじゃくってたデゼルが僕の腕の中で落ち着いていくのが、すごく不思議で、すごく嬉しかったんだ。

 ああ、デゼルには僕がいるんだって。

 僕が抱いててあげれば、デゼルは何があっても、最後には笑ってくれるんだって。


 僕が笑いかけてあげると、いつも、デゼルが目をまんまるにして、すごいものを見てる顔で、瞬きすら忘れて見詰めてくれたから。

 そんなデゼルを見てると、僕が生きてここにいることに、なんだかすごい意味が、奇跡みたいな意味がある気がして、世界がとても確かなものに感じられたんだ。


 デゼルと過ごす優しい時を、もっと、いつまでも重ねていたいのに、いつも、驚くほどあっという間に日が落ちてしまう。


「デゼル、おとなになったら、あなたをお迎えに上がってもかまいませんか?」


 あの日、僕はどうしても、デゼルに想いを伝えてみたかった。


 僕に時間があったなら。

 僕もおとなになることができたなら。

 デゼルと一緒になれた?


 デゼルはすごく身分の高い闇巫女様で、闇に零れる月の光を束ねたような銀の髪も、世にも稀な美貌も、僕とは住む世界が違う人のものだって、子供心にもわかっていたけど。

 母さんが、デゼル様と一緒になるのは無理なのよって言うのがどうしてか、まるで、わからなかったわけじゃないけど。


 デゼルを誰よりも愛しく感じる僕の想いが、僕だけのものだなんて、僕には思えなかったんだ。

 同じ想いがデゼルの中にないなんてこと、あるのかな。

 ねぇ。

 僕の想いを伝えるだけなら、いいよね?

 デゼルが僕の手を取らない時には、困らせたりしないから。


 僕の言葉を聞いたデゼルは、満面の笑顔になって、そうかと思えば、可愛らしく地団太を踏んで僕を見た。


「サイファ、おとなになるまでなんて待てません! あしたも、あさっても、迎えにきて下さるでしょう?」


 ああ、あたりまえだけど、わかってもらえなかった。

 僕は嬉しくって、おかしくって、くすぐったさに、笑顔がこぼれて仕方なかった。


「よろこんで」


 わぁいって、嬉しそうに跳ねるデゼルが愛しくて、ぎゅっと抱き締めた。

 デゼルに会えてよかった。


「……サイファ?」


 明日はないかもしれない。

 帰ったら、今度こそ、母さんに絞め殺されるのかもしれない。

 会えるのは、これが最後かもしれないデゼルを離したくなかった。

 僕はデゼルを抱いたまま、涙を落としてしまっていたから、デゼルが僕の顔をのぞき込めないように強く抱き締めて、もう少しって、囁いた。


 どうか、もう少し――

 この場所が闇の神オプスキュリテ様の庭で、神様が見ていて下さるというのが本当なら。

 僕にせめて、明日と明後日、ここでデゼルを待つ約束を、守らせて下さいますように――

☆ 挿絵 ☆ カゴ様

https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/781509349/episode/4470654


★☆ 応援ありがとうございます ☆★

おお、☆だ!?(; ・`д・´)

わぁ、第1話から、☆ありがとうございます!

嬉しいです、テンション上がります!

はむ、頑張ります!(`・ω・´)ゞ

さいふぁ様にはじゃんがりあんはむすたークラスのささやかな脳みそしかないけど、はむは負けないよ!

はむが生まれ育ったのは『乙女ゲームの世界』。

物語も佳境に入ると、はむ以外の登場人物が片っ端からイケメンばかりになる怪奇現象が起きるけど、はむは別にイケメン怖くないから大丈夫。はむ最強。はむ無双。

お約束のさくら色の髪の超美少女も出てくるよ。

光のテンセイシャらしいけど、はむ、魅力がカンストしてるはむのデゼるんを見慣れてたから、光のテンセイシャが美少女だって気がつかなかった。頑張って美少女してたのにごめんね。でも、やっぱり、はむのデゼるんの方が可愛いと思うんだ。(はむ談)

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