第12話 町人Jはこぶしで語りたい
放課後の校舎裏まで、僕とデゼルがジャイロについて行くと、汚い木箱に腰かけて、ジャイロが口を開いた。
「サイファ、なんで、デゼルに泥をかぶらせたんだ。返答次第じゃ、ただじゃおかねぇぞ!」
僕、びっくりしてしまって。
なんだか、嬉しくなっちゃった。
ジャイロ、デゼルのこと心配して、怒ってたんだ。
僕だって、そのことは納得行かないんだから。
やっぱりヘンだよ、デゼルのせいになってるの。
「先生に、なんて聞いたの? サイファは関係ない、私が勝手なことをしただけよ」
「デゼルは黙ってろ! 俺がサイファだったら、他のヤツがやったの知ってて黙ってねぇっつってんだよ!」
ぱきっ、ぽきっと指を鳴らしながら、ジャイロが僕に詰め寄ってきた。
先生には僕からも、デゼルじゃなくて僕がやりましたって、言ってあるんだよ。
だけど、机に『まじょのどれい』なんて書かれる僕がデゼルを庇っても、誰も、デゼルを信じてはくれないだろうし。
「サイファ、ジャイロを殴って」
「デゼル!?」
ジャイロが面白そうにデゼルを見た。
「デゼル、サイファなんかに俺を殴れると思ってんのか? 腰抜けなんだよ、サイファなんて、スニールも殴れない弱虫だ。デゼルの闇主にはふさわしくねぇよ」
「弱いのはジャイロよ。サイファは強いから、自分より弱い者に手を上げたりはしないの。サイファにとって、ジャイロを殴るのは、弱い者いじめだからできないだけよ」
どきんとして、僕は息を呑んでデゼルを見たんだ。
デゼルって、僕が一人だけ年長なの知ってるのかな。
「はぁあ? デゼル、正気かよ。サイファの偽善者面に反吐が出るぜ!」
「サイファにどうしても殴られたいなら、闇魔法は使わないから、私を殴ればいい。そこの池にでも落とせばいい」
僕はたまらず、顔色を変えて叫んでた。
「デゼル!」
「サイファ、ジャイロは馬鹿なの。殴れるか、殴れないか、それだけでしか物事を判断できないの。ジャイロが殴られたいんだから、殴ってあげればいいのよ。サイファが降参しないジャイロを殴るのは、暴力じゃない」
デゼルは何を言ってるの!?
殴れるか、殴れないかに何の意味があるの!?
ぶはっと、ジャイロが爆笑した。
「言ってくれるぜ、デゼル。だけど、正解だぜ? ゴタクはいいんだよ、殴れるか、殴れないか、やってみせろよ」
――えぇ!?
ジャイロって、殴れるか、殴れないか、ほんとにそれだけで物事を判断してるの?
ジャイロは殴られたいんだからってデゼルが言ったのも、まさか、ほんとに?
そんなの、とても信じられないよ。
僕が途惑っていたら、ジャイロがチッと舌打ちした。
「オレはデゼルを殴りたかねぇんだよ! けどなぁ、サイファ! おまえが、そうしないとオレを殴れねぇってんなら、殴ってやるよ、デゼルを力いっぱいな!」
「やめろ!」
「デゼルを殴られたくなけりゃ止めてみな!」
ジャイロがまるで猛獣みたいにデゼルに殴りかかるのを見たら、考えるよりも先に体が動いて、気がついたらジャイロの頬を力いっぱい殴ってたんだ。
そうしたら、ジャイロが目を疑うように僕を見た。
びっくりして、手加減できなかったんだ。
ジャイロ、怪我してないといいんだけど。
「この……!」
デゼルを殴るのはやめたらしいジャイロが、嬉々として僕に殴りかかってきた。
よかった、デゼルを殴るのはやめてくれて。怪我もないみたいだし。
デゼルの闇主になって、神殿で戦闘訓練も受けるようになってたから、ジャイロの攻撃くらいは難なくいなせた。







