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サイファ ~少年と舞い降りた天使~  作者: 冴條玲
第一章 舞い降りた天使
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第12話 町人Jはこぶしで語りたい

 放課後の校舎裏まで、僕とデゼルがジャイロについて行くと、汚い木箱に腰かけて、ジャイロが口を開いた。


「サイファ、なんで、デゼルに泥をかぶらせたんだ。返答次第じゃ、ただじゃおかねぇぞ!」


 僕、びっくりしてしまって。

 なんだか、嬉しくなっちゃった。

 ジャイロ、デゼルのこと心配して、怒ってたんだ。

 僕だって、そのことは納得行かないんだから。

 やっぱりヘンだよ、デゼルのせいになってるの。


「先生に、なんて聞いたの? サイファは関係ない、私が勝手なことをしただけよ」

「デゼルは黙ってろ! 俺がサイファだったら、他のヤツがやったの知ってて黙ってねぇっつってんだよ!」


 ぱきっ、ぽきっと指を鳴らしながら、ジャイロが僕に詰め寄ってきた。

 先生には僕からも、デゼルじゃなくて僕がやりましたって、言ってあるんだよ。

 だけど、机に『まじょのどれい』なんて書かれる僕がデゼルを庇っても、誰も、デゼルを信じてはくれないだろうし。


「サイファ、ジャイロを殴って」

「デゼル!?」


 ジャイロが面白そうにデゼルを見た。


「デゼル、サイファなんかに俺を殴れると思ってんのか? 腰抜けなんだよ、サイファなんて、スニールも殴れない弱虫だ。デゼルの闇主にはふさわしくねぇよ」

「弱いのはジャイロよ。サイファは強いから、自分より弱い者に手を上げたりはしないの。サイファにとって、ジャイロを殴るのは、弱い者いじめだからできないだけよ」


 どきんとして、僕は息を呑んでデゼルを見たんだ。

 デゼルって、僕が一人だけ年長なの知ってるのかな。


「はぁあ? デゼル、正気かよ。サイファの偽善者面に反吐(へど)が出るぜ!」

「サイファにどうしても殴られたいなら、闇魔法は使わないから、私を殴ればいい。そこの池にでも落とせばいい」


 僕はたまらず、顔色を変えて叫んでた。


「デゼル!」

「サイファ、ジャイロは馬鹿なの。殴れるか、殴れないか、それだけでしか物事を判断できないの。ジャイロが殴られたいんだから、殴ってあげればいいのよ。サイファが降参しないジャイロを殴るのは、暴力じゃない」


 デゼルは何を言ってるの!?

 殴れるか、殴れないかに何の意味があるの!?


 ぶはっと、ジャイロが爆笑した。


「言ってくれるぜ、デゼル。だけど、正解だぜ? ゴタクはいいんだよ、殴れるか、殴れないか、やってみせろよ」


 ――えぇ!?


 ジャイロって、殴れるか、殴れないか、ほんとにそれだけで物事を判断してるの?

 ジャイロは殴られたいんだからってデゼルが言ったのも、まさか、ほんとに?

 そんなの、とても信じられないよ。


 僕が途惑っていたら、ジャイロがチッと舌打ちした。


「オレはデゼルを殴りたかねぇんだよ! けどなぁ、サイファ! おまえが、そうしないとオレを殴れねぇってんなら、殴ってやるよ、デゼルを力いっぱいな!」

「やめろ!」

「デゼルを殴られたくなけりゃ止めてみな!」


 ジャイロがまるで猛獣みたいにデゼルに殴りかかるのを見たら、考えるよりも先に体が動いて、気がついたらジャイロの頬を力いっぱい殴ってたんだ。

 そうしたら、ジャイロが目を疑うように僕を見た。

 びっくりして、手加減できなかったんだ。

 ジャイロ、怪我してないといいんだけど。


「この……!」


 デゼルを殴るのはやめたらしいジャイロが、嬉々として僕に殴りかかってきた。

 よかった、デゼルを殴るのはやめてくれて。怪我もないみたいだし。

 デゼルの闇主になって、神殿で戦闘訓練も受けるようになってたから、ジャイロの攻撃くらいは難なくいなせた。

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