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サイファ ~少年と舞い降りた天使~  作者: 冴條玲
第一章 舞い降りた天使
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第11話 まじょのどれい

「サイファ様」

「ん……」

「おはよう」


 なんだか、すごく、抱き心地のいい抱き枕。

 僕、こんなの持ってたっけ。

 優しくて、やわらかくて、とってもいい肌触り。


「…デゼ……」


 目が覚めたら、デゼルがいて。

 僕はたちまち真っ赤になって、顔を覆ってた。


 そんな、たいしたことしたわけじゃないけど――

 それとも、僕がしたことって、たいしたことなのかな。


「あ……えっと……」


 デゼルが微笑んで僕の胸に頭をもたせてきたから。

 可愛いなと思って、ぎゅっと抱き締めた。


「おはよう、デゼル」



  **――*――**



 昨日の今日で、教室はさすがにピリピリして、一部始終を『見ていなかった』クラスメイトがデゼルをきつい目で睨むのが、僕にはすごくつらかった。

 どうしたら、みんなにどう話したら、デゼルは何にも悪くないんだよって、わかってもらえるだろう。


「ジャイロ、ちょっと」


 始業の前に先生がジャイロを呼んで、しばらくして戻ってきたジャイロが、表情を強張らせてデゼルを見た。

 先生、何の話だったのかな。


「デゼル、大丈夫? その……」


 一部始終を『見ていた』クラスメイトが心配そうにデゼルの席に集まってくるのを見て、僕は少しだけ、ほっとした。

 それで、雑巾を借りてくるために、少しの間、席を外したんだ。

 僕の机に大きく、汚い字で『まじょのどれい』って、書いてあったから。

 戻った僕が机を拭いていたら、見にきたデゼルが泣きそうな顔になって、立ち尽くした。


「デゼル、デゼルのせいじゃないから。これくらいのことは、前からあったんだ。デゼルのおかげで、最近はなかったけど」


 ほんとだよ。

 こんなの、別にたいしたことじゃないんだから。


「大丈夫だよ、綺麗にするから」

「……うん」


 デゼルが泣く必要なんて、全然、ないのに。

 肩を震わせて、声を殺してデゼルが泣くんだ。


「デゼル、泣かないで。こんなこと、本当になんでもないんだから」


 デゼルがしゃくり上げながら涙を拭うのを見て、ジャイロが腹立たし気に自分の机を蹴り上げた。

 すごい音がしたから、僕もみんなも、驚いてジャイロを見た。


「おい、誰がやった。サイファはオレが殴る、手ぇ出すんじゃねぇよ。オレとサイファのケンカだ!」


 えぇっ。

 何だろう。

 よく、わからないけど、ジャイロの怒りが僕に向いてる感じは、不思議としなかった。


「すごいや、デゼルの言った通りだね。ジャイロと友達になれるって、言われた時には、信じられなかったけど……」


 こんなこと言われて、友達になれそうと思う僕って、どうかしてるのかな。


「おい、デゼル。放課後、話がある」


 自分の席の机に足を乗せたまま、ジャイロが大きな声でデゼルに言った。

 僕がデゼルを庇うように前に立ったら、ジャイロがニヤっと笑って、デゼルに続けて言った。


「――心配するなよ、サイファも一緒でいいぜ? 殴るつもりだけどな」

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