2話:異世界でこういうの【悲報】って言うらしいんですけど。
チュンチュンと魔物が囀る声で目を覚ました。
「うーん……よく寝た」
「ベーコン焼けたぞ」
「食べる!」
ガバッと飛び起きた私。
リオンはニヤニヤ笑いながらパンとベーコンを渡してくる。
「…何かついてるか?」
「いや?昨日の夜の事思い出して」
「まさか、何かしたのか変態」
「寝てたら寒いのか擦り寄ってきたのお前だろ」
「えっ!?」
「俺の腕の中に強引に陣取っていびきかくからどうしようかなぁって。」
「そ、それはすまん…」
「まあ昨日はたしかに寒かったし。」
「すまん。」
そのままモサモサと朝食を食べ終わってガサガサと荷造りしているととんでもないことに気付いた。
「…帰れない…」
「は?」
「…魔王城、入れない…」
「マジ?」
「この大陸の地上から魔王城に入るには空中要塞で魔族都市のリーデルを通らねばならない。リーデルから更に特殊な手順を踏まねばならんがな。リーデルに入るためにはとある聖杖、聖槍、妖刀、魔剣とそれら全てに対応する転移鍵と呼ばれる特別な呪符が必要なんだが…」
「まさか…」
「勇者どもにくすねられた。…クソッ、薄汚い泥棒風情のような真似など…!」
「部下とかが入れてくれたりしないのか?」
「四天王のバカ達も持っていない。というか4つの神器自体ダンジョンに隠した。」
「何してんの」
「…私は王だ。臣下を戦火に晒さないためどんな勇者でもその命が尽きるぐらい面倒な仕掛けを作った。まあ、私がいればダンジョンはどうとでもなる。ただ、鍵だけはアイツらから奪い返さねばならん。」
「えぇ…」
「私が地上に来たのも、強そうな勇者がリーデルを荒らす事なく魔王城に向かう手伝いの為だ。」
「は?殺さないの?」
「…魔王城で脳だけ抜き取ってゾンビにして門番でもさせようと思っていた。」
「ヤバ…」
「あと、御伽噺によくある最序盤の味方が実はラスボスでした展開がしたかった。」
「馬鹿?」
「勇者コレクション楽しいんだよな。部下にも1人昔の勇者がいるんだ。」
「え…」
「引くな。…どうもエルフらしいんだが、人間の仲間といざこざがあったらしくてな。狂戦士と成り下がったそいつにリーデルも魔王城も荒らされたから強化したんだ」
「やべーじゃん…」
「もう正気だがな。…さて、まずは北のダンジョンに行くか」
「いやそんな…え?俺大事に巻き込まれてね?」
「荷物持ちの男がいるとは安心だ。さ、行くぞ」
「嘘でしょ?」
「バカ勇者に先を越される訳には行かん。」
「俺この旅抜けていい?」
「残念だな、サキュバスに好かれる方法をポロッと溢したかもしれないのに」
「ついて行かせて下さい。」
…土下座された。ハジメも似たような話に食いついたしな。……男ってきっしょいな…。
「ふふ、良い良い。…しかし、一応回復術士が欲しいな。」
「ギルド行く?」
というわけでギルドにやってきた。
ダンジョンのための冒険者同士のマッチングはよくある事。しかし、最難関の北のダンジョン、通称『死神の洞窟』に行きたがる人間はいないらしい。
「収穫無しだな」
「次の街行くか」
次、回復術士はおらず。
次、騙されかけモンスターに2人で仲良く襲われる。
次、次、次………。
「このギルドにいなかったらどうする?」
「諦めて2人で入る。
「え………いやそれは嫌だけど……」
幸いにも魔法錬金術師、という仰々しい名前の職業の男がマッチング希望を出していたらしい。
助かった………。リオン1人だと道行く女全員ナンパしてたから……。
「お前らが剣士と狙撃手?」
「うわっ、偉そう………」
「血のように真っ赤な目と髪…………いや勿論思ってないですよ、魔王みたいだななんて。」
「喧嘩売ってんのかクソアマ。……チッ、期待して損した。」
「あ、あの!私元勇者パーティーですよ!腕は立ちます!」
「へぇー、イチャイチャするダシに使おうとしているように見えるけどなァ?」
こいつすっげえウゼえ!
「そもそもこんなチチナシに興味ねえよ」
リオンは後で処しておこう。ついこの前アオカンされかけたぞ。
「どうやったらパーティー組んでくれるんですか、貴方は」
「俺が興味持ったら、とか。」
「最低ですねホント。大人気ない。」
「うぜえガキだな。」
腹たった。
「…………まあ、ポーション作る以外する事ねえなら俺は帰るからな」
「え?組んでくれるのか?」
「たりめぇだろ。アルケミストなら垂涎モノの魔物がボスなんだよここは。勇者とかいう偉っそうなクソガキに取られそうで焦ってるんだ。」
「性格悪いですね貴方…まあいいや。私はキルシュです。」
「俺リオン」
「アルス。姓は………ねぇ。」
隠してるだろこいつ!