初陣はラストバトルです! ~その4~
これまでのあらすじ
ケーキは高かった。
*** 珍客 ***
街で買ったケーキを持って、王宮‥‥の向かい側にある魔王の城へ。
まぁ、行っても殺されるだけかもしれないけど、訓練して突撃したところで変わらなさそうだから、話ができればいいかなと。
あ、国王様には内緒だよ、勿論。確執は結構根深いものがあるみたいだから、どうせ言っても許可されないだろうし。
門に近づいたら、二人の門番に槍を突きつけられたよ。うん、そうだよね。
「ユグド王国により異世界から召喚された者で、倫理と申します。魔王様にお目通りさせていただきたいのですが」
あ、『ユグド王国』っていうのが昨日召喚された国の名前ね。執事さんに聞いたよ。
門番が何やら話して、結論が出たらしい。
「貴様は怪しいが、我々には決定権がない。なので貴様を魔王様のもとへ連行する!」
人間と魔者という立場の違いがあるから、『謁見』ではなく『連行』ですか。
まぁ、会って話ができるならどっちでもいいんだけどね。
*** 魔王という人 ***
連れてこられたのは謁見の間。‥‥‥和式の。
畳だよ、めっちゃ畳だよ。
正面に高座があって、左右には家来たちがずら~っと並んでるの。
しかも家来たち、全員黒服だよ。どう見てもヤクザの総本山だよ!
魔王。
日々悪を行い、人間の悲痛な声を聞くことを悦びとする。
その見た目は闘牛のような角、蝙蝠のような羽と牙、龍のような目と爪と尻尾を持つ。
‥‥‥というのは、地球の御伽噺に見られる姿。
実際に目の前に現れたのは、凛とした姿の(ちょっと‥‥いや、かなり目付きが悪いだけの)普通の女性であった。
「人間側から間諜目的で来たというのは其方か」
「はっ。ただ、間諜ではございません。私はユグドの王に一方的に召喚されましたが、話を聞いて矛盾を感じました故に、事の真相を確かめに参った次第であります」
目的が間諜だということになれば即刻死罪の可能性もある。倫理は自分の生死にはあまり関心はなかったが、疑問に思った事だけは聞いておきたいと思っていた。
魔王はすぐに柔らかな顔になった。
「よかろう、何なりと聞くがよい。今、茶を準備させる。そう緊張するな、其方に危害は加えん」
ヤクザに囲まれて『緊張するな』と言われても困ります。
*** 魔王という人・舞台裏 ***
魔王という名称が悪の権化のような印象を与えるが、実際は魔法が使える人間を統べ、これを取り締まる役目に過ぎない。
だが、立場上、力や威厳、印象というものが重要になってしまうため、私の口調や目付きはどうにも厳しいものになってしまうようだ。
最近は隣国が召喚した異世界の人間達が私を殺しに来るので、どうにかならないものかと悩む日々だ。
決して苦戦を強いられるわけではない。寧ろ、こちらが力加減を間違えてうっかり殺してしまうのではないかと心配になるのだ。
今日もまた人間が来たようだが、どうもいつもとは違うらしい。村人であるらしいし、どうやらこの私と話がしたいとか。
しかも、ご丁寧に手土産まで持ってきている。
‥‥‥実は私は甘いものには目がないのだ。
これでは無下にできないではないか。今ならこちらのトップシークレットですら話してしまうかもしれない。
この戸を開ければ客人がいる。‥‥実に楽しみだ。
「魔王様、ヨダレ出てます」