初陣はラストバトルです! ~その1~
*** 召喚 ***
「お前たちには、準備が整い次第、魔王城の制圧に向かってもらう」
その言葉は、目の前にいる男性、初老で冠をかぶり、玉座と思しき場所にいる人からのもので・・・。
いわゆる国王からの勅命であり、従うことは絶対である。
――――五分前――――
「夏休みだぁぁぁ!」
「どっか行きてぇぇ!」
「ゲームしまくるぞぉぉぉぉ!」
「宿題たりぃんですけどぉ」
「お前らあんまりハメ外しすぎんなよぉ」
一学期が終わった学校の、どこにでもよくある風景と、よくあるやり取り。
皆が少しずつ下校していく中、日直の僕は学級日誌を書いていた。
教室の中が残り数名になった頃、時計の針が十二時を指そうとしていた。
その時―――
急に周りが真っ白になり、強い光に目を開けていられない程になった。
目を開けると、立派な椅子に座っている男性と、その護衛と思われる兵士の姿があった。
辺りを見回すと、僕の左側に五人のクラスメイトが立っている。
僕と同じで、何が起きているのか分からないといった様子だ。
最初に口を開いたのは、すぐ隣にいるオタクの卓だ。
「これはあれか、ラノベで言うところの『異世界召喚』というやつか」
卓が話し終える前に、兵士の声が響いた。
「国王様の面前であるぞ!言葉を慎め!」
皆がビクッとなる中、国王がゆっくりと口を開いた。
「よい。急に呼び出したこちらにも非がある」
国王の穏やかな口調に安堵の息が漏れる中、学級委員長の正義が一歩前に出て国王に問いかけた。
「私たちを呼び出した理由を教えていただけますか?」
正義の問いに対し、国王が穏やかに、それでいて威厳を持って答える。
「お前たちには、準備が整い次第、魔王城の制圧に向かってもらう」
国王のその言葉に、オタクたちは小躍りし、委員長は覚悟を決め、ヤンキーたちは面倒そうな顔をし、僕はただポカンとしていた。
僕たちの異世界体験が始まろうとしていた。
*** 戦う術 ***
「国王様、僕たちには戦う術がありません!」
「魔法は?魔法はあるんですか?」
少し興奮した様子で尋ねるのは、二人のオタク、卓と陽芽だ。
無理もない。
異世界といえば『魔法』である。
そんなファンタジーの代名詞とも言える力が使えるかもしれないとなれば、ワクワクして目がキラキラするのも頷ける。
国王は、何やら残念な人でも見るかのような目をして、それから重々しく口を開いた。
「魔法は、その、あるにはある」
卓と陽芽の目が一層輝く。
そんな二人を見て、国王は少し申し訳なさそうな顔をし、軽く咳払いをしてから言葉を続けた。
「だが、使う資質があるのは魔王の眷属に限られておるのだ」
キラキラと目を輝かせていた二人の表情が、一転してショボンである。
けれど、問題はそこではない。
人間は魔法を一切使えないものの、相手側から見れば『魔法で無双』状態なのである。
『勝ち目のない戦いに強制徴収された』
そんな思いが皆の頭をよぎり、ヤンキーの剛がたまらず叫ぶ。
「俺たちは捨て駒かよ!」
剛は冷静さを欠いていた。
国王に暴言を吐くということは、その場で首を撥ねられても文句は言えないことを分かっていなかった。
激昂した兵士は義憤に駆られ、剣を抜いて向かってくる。
―――剛の首を撥ねようとして。
誰もが剛の死を覚悟したが、国王が「控えよ!」と兵士を一括し、最悪の事態は逃れた。
力無くへたり込む剛を見て、国王は優しく声をかけてきた。
「その気持ちは分からなくもないが、まだこちらの説明は終わっておらぬ」
そう言うと国王は立ち上がり、このタイミングを待っていたと言わんばかりのドヤ顔で続けた。
「お前たちに、それぞれに見合う武器と称号を授ける!」
*** クラス ***
称号と武器の授与は、国王直々に行われることになった。
「委員長・正義、其方に『ヒーロー』の称号と『破魔の太刀』を授ける!」
委員長に相応しいであろう王道の武器である。
本人も満更でもない感じだ。
「ヤンキー・剛、其方に『ナイト』の称号と『バトルアックス』を授ける!」
力技で押し切る、ヤンキーらしい武器だろう。
似合うのは木刀とか釘バットかもしれないけど。
「ヤンキー・真弓、其方に『アーチャー』の称号と『ライトニングアロー』を授ける!」
確か真弓は弓道部だったはずだ。
ヤンキーなのに冷静沈着とか、ギャップがありすぎる。
「オタク・陽芽、其方に『ガンナー』の称号と『シルバーブレッド』を授ける!」
卓によると「陽芽はシューティングゲームでハイスコアを出す腕前」らしい。
オタクは不思議な所に才能があるようだ。
「オタク・卓、其方に『ランサー』の称号と『ホーリーランス』を授ける!」
卓は嬉しいような少し残念なような複雑な顔をしていた。
小さな声で「ゲイボルグじゃなかった」と呟いていたのは聞かなかったことにする。
さて、皆の称号と武器が決まり、最後に僕の番が来た。
と言っても、残る武器には何があるだろう?
今のところ、前衛と後衛のバランスがいいから、どちらも可能性はある。
五人の誰かと同じになるかもしれない。
防御系が誰もいないからそれかな?
・・・っていうか、王様、まだですか?
汗すごくない?
すごく目が泳いでるし?
何か言いにくい武器なの?
もしかして爆弾抱えて飛び込めとか、そんな感じ?
死ぬかもしれないんだね?
いいよ、覚悟決めるよ、言っちゃって?
国王が困った顔をしながら口を開いた。
「日直・倫理、其方に『村人』の称号と『レターセット』を授ける!」
*** 番外編・クラス(裏話) ***
国王は溜息をついた。
「やれやれ、焦ったぞ。なあ、セバス」
その言葉に、執事セバスチャンも頷く。
「はい、まさか武器よりも多い人数が召喚されるとは思いませんでした」
「しかし、メイドが間違えて買ってきたレターセットが役に立つとはな」
国王の言葉に、セバスチャンは苦い顔をした。
「よろしかったのですか?レターセットを渡すなど、戦力外通告のようなものですが」
「『ようなもの』ではない。事実、戦力外なのだ」
そう言って国王は首を横に振った。
SSR『委員長・正義』、SSR『破魔の太刀』
SR『ヤンキー・剛』、R『バトルアックス』
SR『ヤンキー・真弓』、SR『ライトニングアロー』
R『オタク・陽芽』、SSR『シルバーブレッド』
R『オタク・卓』、SR『ホーリーランス』
N『日直・倫理』、国王の私物『レターセット』
以上、十一連ガチャ(一回三千円)の結果である。
*** 番外編・レターセット ***
カランカランとドアベルが鳴ると、メイド姿の女性が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
店主はそう言うと、彼女に近づいた。
「何かお探しでしょうか?」
彼女はにっこりと微笑んでから答えてくれた。
「えっと~、王様が~、『レターセットを買ってこい』って言ってたんだけど~、オススメありますか~?」
彼女は王宮の下っ端メイド、『アイ』である。
格式高い王宮の勤めでありながら、街娘の『ギャル』という生き方をモットーにしている、少々風変わりなメイドである。
「こちらは如何でしょうか?いつもご利用いただいているものですが」
そう、貴族や国王という身分であれば、シンプルで格式高いものを使うのが無難なのである。
だが、ここにいるのは『ギャル』という存在である。
「堅苦しい~、つまんな~い」
速攻で却下されてしまった。
アイが頬を膨らませて脇を見たかと思ったら、急に目がキラキラし始めた。
「これチョーカワイー」
アイが見つけたのは、街娘からの人気ナンバーワンの商品、猫をモチーフにしたマスコットが描かれたものだった。
流石にそれを国王が使うのはいかがなものだろうか。
そんな事を考えもしたが、アイの行動の方が早かった。
「お会計お願いしま~す」
まともな商品をオススメした。
それを蹴って決めたのはアイだ。
メイド長に怒られるかもしれないが、それでアイが成長することに期待しよう。
店を出たアイは、帰り道で気が付いた。
「領収書貰い忘れた~」
どうしようかと一瞬考えたが、王宮はもう目の前である。
「レシートあるし、いっか~」
テキトーでマイペースなアイがメイド長にスピード出世するのは、数日後のことである。
レシートでは経費は落なかった。
「さげぽよ~」
続き掲載未定です。
見てくださる方が多ければ書きます。