よくある通過点?
死ぬのは怖いさ、誰だって。殺すことを学ぶなんてまねをしていたから、俺はよく怖がってた記憶はある。問題は…その経験は、今おびえているこの子に生かせるのか、だ。
あぁ、今は、アリカにことのいきさつを聞いたところだ。
それを言い残して、眠いらしく寝たアリカ。多分いつもより長く起きてたせいだろう。普段より眠りが深い。
(「お疲れ様、アリカ」)
「……そうだね」
部屋を出て、とぼとぼと歩くシャリア。
なんて言葉をかけてやればいいだろう。
「シャリア?」
ブレイザが近寄り、顔をのぞき込む。
「どうしたんだよ?」
多分泣きそうな顔をしてるのを見たからだろう。不安げな顔をしている。
シャリアは無言で抱きついた。
「お、おい?なぁ、だいじょうぶなの…か…?」
珍しく顔を赤らめて動揺しているように見えるブレイザ。耳が赤くなった。
「私はいる」
「あ、ああ、そうだな?」
自分に訴えかけるようにいった言葉に困惑しながら同意する。
「君もいる」
「うーん、なにかあった?」
その声に心配の色が強くなる。
「怖い。死ぬのが怖い。私を助けて?嫌だよ、嫌だ!」
「っ……。怖い、かぁ」
あまり馴染みのない感情のようで。
「安心しろ、そうそう死にはしねぇって」
「うん…うん…!」
泣き出すシャリアを、ブレイザは静かに抱き返した。
「zzz…」
「泣き疲れたか?」
ブレイザは動けないままである。なんとか座ることはできたが。
(「あったかいなぁ…」)
(「この通り体だけだがな」)
「みたいだね」
泣き疲れたシャリアだが、体しか眠りにつけなかった。どうも二人とも乖離してしまったらしい。珍しいことだ。
(「なぁ、俺の前世の記憶思い出せるか?」)
(「一応、できる」)
諭すのは、落ち着かせるのは無理だ。多分俺には難しい。前にも言った気がしないでもないな。
(「俺の死んだ瞬間の記憶、思い出してみろ、別に怖くはないぞ、痛いけど」)
(「………」)
死んだら感じる恐怖もないからなぁ。
(「そう、かもしれないけど」ゆ
(「死んだらずっと一緒だ、そう…だろう?」)
それは違いない。
(「うん…そうかも」)
それくらいしか言えないや。あ、もう一つあったわ。
(「温もりが恋しかったらまた抱きつけばいいさ」)
(「…そうだね!」)
「っっ、くっ…」
笑い出すメルシャン。うん、そりゃあね。またブレイザが急な抱き付きを受ける羽目になるんだよね!
(「はっはっは」)
「なんかすっげー文句言わなきゃな気がする」
うむ、確かそうだな。はっはっは。……はぁ。いつか殴られそうな気がする。
「それを言うのも良くないから、こらえようね?」
「はーい」
(「はーい。俺も気をつける」)
「あ、うん、気をつけてね?」
時々こんな会話をしているのです。
「さて、朝ご飯食べようか?」
(「まだ寝てるよ?」)
「そうだわ。えー、あそうだ!そういえばそもそも何が原因だったの?」
違う話題に移されたのは問題ないが、これを聞かれるのかぁ。
(「死が急に怖くなったらしい」)
「あぁ、昨夜のことと関係ある?」
(「多分な。昨夜は俺完全に寝てたし、アリカほどよく分からないが」)
アリカもそんなにわかってなさそう。そりゃあ、個人の感情の話だし、難しい。
「あの子に聞くのもねぇ…」
(「見たんだったか」)
血まみれの光景を見たってだけでも問題だな、と急に思い至った。
「そういうことよ、アリカは問題がないことを一目で把握できてたみたいだけど」
(「どうやって?本当に…訳がわからん」)
「それをいつも味わうみんなの気持ちがわかる…!」
二人が(片方は腕など動かしてないが)頭を抱える。
「おはよー…ふぁあ」
「はやいな」
「まぁ、泣き疲れただけだもん」
シャリアが起きたところで、朝ご飯を食べに集まる。
死の恐怖はこれで終わらないのは当然なのだが、どうなるだろうな。どんな劇的なことが起こってもさほど驚かない自信があるけれど、それでこの子が落ち込んだり、罪に苛まれたりするのは怖いな。




