歩くドクロ
今日は七夕らしいですねぇ…。彦星も織姫も、いくら逢瀬を見られたくないからってあんな大雨降らせなくてもいいじゃないですか…。
また怒られますよ…?
今回短いですが引き延ばすものもないのでこのままでお許しください。
五代目第六セイントキャンプにて。
五匹の虎が集まっていた。
[……よじ、まだごびぎばげんざいだな」(よし、まだ五匹は健在だな)
……以下は適切に濁点を抜いたものとする。
まず口を開いたのは、純白の衣をまとった虎。下は返り血を浴びたのか斑な赤である。
呼び名は火峰。
[ひどい傷を負わされたけどな」
金色の模様が入っている白い虎。
名は光亡。これでも光使い。
[zzz…」
寝ている紫に光る白い虎。
名は心献。
[しんケん、ねてる」
頭の悪そうな感じにふらつく白い虎。
名を地天。
[お前らのせいで眠い」
寝転がる青白い目の白い虎。
名は氷煮。
この虎たちは本隊へ帰還する準備を整えたところだった。
[くるぞ!」
寝ている心音すら身構える。寝ているままだが。
やってきた子供はドクロを持っていた。同じ五歳程度の子供の虎と思われるそれを、彼らの目の前で踏み砕いた。
その目は充血しきり、その髪は鮮血に塗れ、その血混じりの口は固く結ばれていた。
その右腕は触手のようなものが生え、その足はかぎ爪のようなものをカチカチと鳴らし、その背中には巨大すぎる羽が生え空を飛ぶ。
そして、左腕は。
砕けたのではない。千切れたのではない。折れたのではない。失われたのではない。
そこに在る。機能はしていない。動かしている。形は保っていない。
それには命をむしり取る爪がある。それには全てに絡みつく指がある。それには己の物を持つ手がある。それには立ち塞がるものに振るう腕がある。
しかしそれは、本当に人間のものなのだろうか?それすら…理解できない。
数分の抵抗の後、虎たちは深淵へと落ちた。
「……欲しい」
彼らを貪りながら、ぽつりとつぶやいた。
「くれるかな…」
人からしかもらえないものを求めて、少年はまた貪欲に目の前のものを求める。
[逃げ切れた?」
生きていたのは眠るのをやめて我武者羅に逃げた心献だけだった。
火峰は七匹をまとめるに足る指揮力と状況把握能力、そして火の魔法で作られた軍勢を率いる術があった。それらは無双する化け物の前では全く意味を成さず、囮とすら、なれなかった。
光亡は誰よりも判断が早く、誰よりも動きが速かった。しかし荒れ狂う攻撃の嵐の中には、逃げ間は殆どなかった。それでも逃げられるという希望は、徹底した狙いの前に潰えた。
氷煮は属性と効果を逆にする技術があったが、火属性で凍らせられようと、氷属性で沸騰させられようと、絶対者を前にはろくに効果も発揮することもなく切り刻まれるのみ。
地天はそんな絶対者に怯えることなく、自分さえも顧みることもないが、まともな知能が残されてないがため、なんとか時間だけを稼いだが、攻撃一つ許されなかった。
彼女も攪乱して、死者の記憶を利用して、魔法によらぬトリックには弱いようで、全力を尽くし、なお仲間がいなければ、逃げ惑うことはできなかった。
死者の記憶は更新されていないことを失念していたが。
他でもない雷華の記憶を頼りに罠の多い地帯を進んでいた彼女は、後ろの子供が加速していることにほくそ笑み、そして絶望した。
罠などはじめからないかの如く、自分より早く突き進む。
彼女たちは知らない。
彼は、全ての罠を以前にそれを殺したときに破壊していたことを。
雷華すら、知る間がなかった。
彼女たちは知らない。
彼が雷華を殺していたことを。
雷華は、彼を視界の端にも入れられなかった。
絶望。絶望。絶望。
[なぜ、幸せは続かないのかな?」
「どうやって!」
ぼやいた言葉は、彼を激昂させた。
「どうやったら得られるんだ!」
彼女にとって、その子供は、死神であり、……その子供は、死んでいるように見えた。
心が、生まれてすらいないのだ。
「その幸せは!愛情は!!」
そしてほかより残虐な最後なのだろうな、と悟って、死を受け入れた。
悟れて、受け入れられたことは、自分に取って、まだ幸せな方だろうということにした。
白。蜜柑。絹のごとく。
黒。紅玉。銀色の世界。
二つ。混ざり。別れ、結び、解け、まるで神のごとく。
「幸せ、ほしいよぉ」
少し、感じた感情。そのなんたるかを、彼は知らない。
それが歪んでゆくことも、彼は知らない。
こんな事態とは露知らず、ここへと虎たちは進軍を続けている。
第27誤字報告について
魔物など、欠落のある生物の鍵かっこを[」とし、正常な生物と区別しています。
意図的なものと明記していなかったことを謝罪申し上げます。
また、報告いただき心から感謝しております。




