リザルト・ハピネスな公園
そして5月になり、少しずつ暑くなり出す頃。
「冬の終わりどころか春の終わりね、これじゃあ」
花がそんなに多くないが、幾年か前に訪れていた公園は、整備されておらず、まさに自然といったところだった。
「お庭とは訳が違うかしらね」
如何せんその範囲が広いために(なにしろほぼ全域を草が覆っているのだ)、ソルトは困惑しているばかり。
「こりゃすげぇな、つくつくしがまだ生えてやがる」
どう見てもつくしである。ブレイザはそれを美味しそうに眺める。
まぁ確かにつくしは食べられるけれども。
それと、こう言うのを聞くと文学語は省略形なのではないかと感じる。
つくつくしと書くのが面倒だからつくしと書いておきながら、つくつくほうしはつくほうしとは書かないのだろうが…。
これからは固有の名称も適当に解釈しとこうか。
(「文学語と俺が話してた日本語、微妙に違いがあるのがやっかいだな」)
(「本当、そうだよね」)
この前の会話で、方言レベルの差があるような気がしたのだ。
あの人は不慣れなのだから、たどたどしくなることはあっても、癖が混じることは少ないだろう。なら、あちらを標準と考えても問題ないと考えていた。
「でも大したことじゃないよ、今ツタが絡まってることほど」
「ごめんね?」
アリカはツタに絡まってしまっていた。駆けつけてメルシャンとほどき始める。
二分くらいかけてなんとか腕を外せた。
それにしても、どうやったら絡まるのか不思議なくらいめちゃくちゃに絡まっている。
「くるまってるねぇ」
「えっ?」
「からまってる、だよ」(「からまってる、だぞ」)
「あれれ?」
噛んだわけでもないのになぜか言い間違えたシャリアに対して、二つも指摘が飛ぶ。
くるまるでもそんなに間違っていないような(?)
……。いや、何でもないです。
「そういえばさ、あそこにいる小鳥は一体?」
そう言われてアリカが示した方を見ると、確かに小鳥がいた。
(「エリシアと戯れているのか」)
緑色の小鳥がエリシアのそばにとまっている。
それらが優しく飛び、そして彼女が指の上に止まらせている様子は幻想的である。
絵画の中のよう、といえばいいのか。
「ことりさん…?」
リブが眠たげに見ている。
どうやら最近、夜行性のリブは昼夜逆転して昼に活動しているらしい。
そして誰も咎めようがない。そもそもこの状況でどうしろというのだ。これが正常か異常かもわからないというのに。
「ねむねむ」
ぴよぴよ、と音がリブの頭の上から鳴る。しかし鳥はいない。
「よっしゃ捕まえたぁ!」
びくっ、とみんなが驚く。
チューンが捕まえたらしきものは、一匹の蛇。
「ぃやあ!?何これ怖い!??」
シャリアがメルシャンに抱きつく。相当怖かったらしく、ぷるぷると震えている。
そんなに怖かったか…。
(「俺もヘビは苦手だが、さすがに…」)
「いや、あれは苦手とか以前にやばいよね?」
その全長は恐らく3mほどはある。完璧に仕留められているらしきものの、子供ぐらいなら殺すどころか丸呑みさえ出来そうだ。
「それより私の胸の感触は」
(「女の子の感触」)
「それだけ…?」
(「そもそも何を期待しているんだ」)
「まぁ、うん…」
「メル姉?何を言ってるの?えっちなの?」
「ちがっ…!」
アリカに対するメルシャンの抵抗むなしくしばらくえっちえっちとからかわれることになる。
さて、この蛇をどうするつもりなのか。
「さてと、こいつは土に埋めるか」
「なぜ仕留めた?」
「ん…お前か、危ないから仕留めただけだよ」
「ああ、納得」
コーキが急に表に出たりするのももう日常茶飯事になりつつある。
「出られる頻度がだんだん落ちてきたな…」
しかし、ここ数日は特に、出られないタイミングが現れるようになりつつある。
「それ大丈夫か…?」
「大丈夫だろ、メルシャンやシャリアを通じればどうにかコミュニケーションとれる」
悪影響の類ではないことはわかるので、深く気にとめなくてもいいだろう。
それより。そんなことより。
今、害悪が近づいている方が問題だ。
「なんだ…?」
地面が盛り上がる。
「っ!?」
それに比例し、ソルトが顔を青ざめる。
「光よ、主の威光となれ」
アリカが光の魔法で動きを止めにかかるよう。
「陰よ、御方の身を守り給え」
ブレイザが全員にヴェールのようなものを纏わせる。
「正義よ、尊厳を守るため敵を貫く剣たれ」
シャリアはこの魔法が気に入ったご様子。
そして出てきたのは…。
[もぐもぐー」
……謎のモグラだった。
[けっぷぅー……おー人間か、丁度いい。地底連合よりお願いがある」
「聞きましょう」
セリーナさんがみんなを下がらせて、モグラと会話を始めた。
「僕の魔法はもういい?」
「多分、私ももういいかな?」
ブレイザとシャリアはそれぞれ魔法を解く。
「確かに緊急ね…でもそれ何年前の話?」
[たしか四年前から斥候の黒虎が現れておる。そして白虎が七匹派遣されたが…二匹、水連と雷華が討たれてな」
どうやら、虎たちがやってきているらしい。それに加え、四年前と聞いて、セリーナは驚いたような反応を示した。どうやら予想外に近い話か遠い話のようである。おそらく前者。
気の長い種族なのか、どこかに情報伝達が遅くなりがちな事情があるのか。どちらだろうか。
[水連は女好きだが最も狡猾に獲物を狙う、雷華は臆病だがその分、策略と罠を用いて狩る」
「水連は兎に角、雷華は狩るのどころか、直接合うのも厳しそうね」
[然り。しかし水連の方も、死体が剥ぎ取られておった。それはつまり、解体して得るものがある程度の傷で狩れたということ…誰がやったか知らんが、奴らは全力で来るぞ」
そしてこの話だ。
解体。白い虎。心当たりしかない。記憶には少し近い。あのセイントキャンプとやらで絡まれたあの虎だろう。
だとするなら、部外者とは到底言えない。
「……なぁ」
「そうね…どんなからくり?」
「魔法を無効化する魔法を使っていて、それの弱点がおそらくは火。……とかか?」
思い出して考えると、水使いに普通火属性使うか?
あの時なんとなく火で絡め取ってみたが、それはおかしいと思った。
[ふむ…先入観というやつか」
「恐ろしいもんだよね」
しかし、それはいいんだ。もう一匹というのがどうにも引っかかる。
[さて、このモグラの出番はもうないことだし、帰るとしますかね」
「じゃあな」
[うむ」
そうしてそのモグラは去った。
虎たちの進軍は今もなお行われている。
もう平穏が近づいている…と思いたいですね。
第27誤字報告について
魔物など、欠落のある生物の鍵かっこを[」とし、正常な生物と区別しています。
意図的なものと明記していなかったことを謝罪申し上げます。
また、報告いただき心から感謝しております。




