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孫武式のタケダさん

其の疾きこと風の如く

其の徐かなること林の如く

侵掠すること火の如く

動かざること山の如し

知り難きこと陰の如く

動くこと雷霆の如し


以上、風林火山。とその他(続きともいう)にございます。

「動かないのか動くのかどっちなの?」

「動かないときは山のようにどっしりと構える、動くときは雷霆のように……、とにかく動くときはこう、動かないときはこう、ってだけ」

ちなみに正解は雷霆のように激しく、です。

 どうやら僕は一日おきに人格が入れ替わっているらしい。

 考えることはそれだけ。

 ま、だって、ほかにやることないし。

(よりにもよって空色の目かよ…!)

 何かの言葉が聞こえたように感じて、あたりを見渡す。

「(おはよー)」

「…?」

 知らない女の子に話しかけられた。珍しい。というか昨日来たのかな?

「(昨日のことは覚えていないんだっけ?)」

「…(うん)」

 小声で話す。今気づいたけど、修道服ってことは、ここでお仕事をしているってことだ。

 こんな朝早くから来るなんてすごいなぁ。

「(できるなら気をつけてほしいです)」

「(よく分かんないけど、あやまるべきかな)」

「(あぁ、大丈夫大丈夫。そんな迷惑じゃなかったから。本人には謝らせるけど…ね?)」

 そして、怖いなぁ。

「(あはは)…」

「(ごめんごめん、朝ご飯もう食べるー?)」

「(うん、お願い)」

「(はーい)」

 ささーっと静かに去っていった。

 ……いなぁ…。



 少し遡って昨夜のこと。

 帰り道。

「ふぁ…犯人捕まってさぁ安心、だったかなぁ…正直何人とか覚えてないしなぁ…」

「色々あるさ、覚えてなくても気にすることはない」

「……そうね」

 メルシャンとシャリア達と先導する男で帰り道である。

「で、なんで知ってるのか、と聞くべきか?」

「聞く必要はないよ、答えないし」

 先導するネジェルに質問するだけ無駄である。

「ネルフの心配はしなくていいのか?」

「警備の人もいるからね、そもそも毎日いるわけじゃあないからそこまで心配しきれない」

 心配するに足る特別な(・・・)理由があると認めたようなものだが、別に気にする様子はない。

 気にする必要がないのか、そもそも気づいていないのか。

 というか他にも放置していることがある。

「つーか後ろにいんのは誰だ?」

 後ろを見ると、生気の感じない男の子がいる。

 この男の子の目は、僻みがかなり強い。

「クーシャ?」

「だからヨリヨシだっつってんだよ…!雷鳴よ!槍となり我が手中にて無双せよ!」

 紫の雷が空から落ちて、槍の形となってヨリヨシと名乗るクーシャという少年の前に現れる。

「さて、お仲間はいらねぇ、殺すか」

 そして構える。肉体は子供でこそあれ、その構えは不自然なまでに武術に精通したもののそれ。

「見た目通りの年齢…じゃなさそう?」

「そうだね、君の力なら、やれると思うけど…僕は手を出せない気がする、フォローはするから、頼めるかい?」

「えっ、と…」

 この分では子供でも容赦ないだろうな、とコーキは他人事のように考えている。

「私がやりますよ、じゃあ!」

 自棄(ヤケ)になったのか、決意キメたのかは知らないがその気になった。

「正義よ、尊厳を守るため敵を貫く剣たれ」

 聖癒の直剣を作り出す。

「悪よ、意思を貫くため牙を曲げる刃たれ」

 そして邪滅の曲剣を作り出す。

 見た目だけならそれっぽい、戦い。

 しかし魔法の出力と、武道の技術においてそれぞれ隔絶した差が存在する。

 ヨリヨシの全力の刺突をシャリアは正面から曲剣で斬る。

「っ、あぶねぇ!」

 とっさに身を引き完全に破壊されることは免れたものの、刃先の構成は一時的に壊れている。

 そのため、崩れて放電している先端で牽制してシャリアを近寄らせないようにする。

 そうして構成し直す途中を狙い直剣で攻めかかる。

「いっ」

 放電を軽く食らってしまう。

「正義よ、我に癒やしの祝福を」

 直剣に癒やしの力を込め、いわゆる「装備時体力回復」効果をつけた。

 シャリアの隙はすべて邪滅のナイフを投げるネジェルによって潰されていく。

 そしてヨリヨシの隙はわずかなのでシャリアには攻めきれない。

 まぁ、その気になれば魔法どっごんで周りごと破壊できそうな気はしているが。

 魔法で隔絶した力を持ちうるシャリアと、武術に精通したヨリヨシは一定の条件の元戦い合っていた。

「っー!」

 埒があかないので曲剣を投擲する。

 それを弾いたとき、大きな隙ができた。それを見てシャリアは突撃する。

「そおら!火よ、とぐろを巻き我が側にて守り抜け!」

 誘っていることに気づかずに。

(「闇よ!!火を誘い食い散らせ!」)

 仕方がなし、と補助をする。

「ようやく現れたか!待ってたぜ?」

 闇を食いちぎり燃え広がる炎を捨て置き、歓喜の声を上げる。

 その言葉の意味はまだわからなかったが。

 一閃。

 どこからともなく禍々しい刃がシャリアの心臓に向けて撃ちこまれる。

「あ、あぐぅ、~!!」

(「今すぐ俺を出せ!痛覚を切れ!」)

 早口でまくし立てる。なんとか反応していう通りにする。

「お前は誰だ?」

「言っただろ、朝影頼義だ。moning、shadow、trust、justice。っつーか、武田の姓をここでは名乗るべきか?」

「………え?」

 文学語を利用した会話。それをするのはごくわずか。

「つうか、お前は何だ?」

「どいつもこいつも多重人格だ物扱いだ……ふざけんな!」

「あー、それは悪い。でも逆に確信した、お仲間ってことはむしろ物ってことだから」

 こいつもクラウスで同郷だろう。

 そうと決まれば急ごう。肩の傷で済んでいるとはいえ、痛いものは痛い。

「よし、しばく!闇よ!悪よ!火よ!心よ!我が悪夢を照らし出し発狂とともに魂ごとぶち抜けんでぶち壊せやゴラァァ!」

 なんかよくわからないカラフルでおぞましく感じる、何かの形を成していない物(物かも怪しい)が現れて彼に向かう。

 それは問答無用で精神を汚染して気絶させる。

「がぶっ!?」

 しかし抵抗として槍を投げられ、腹に刺された。

「……その気になれば、魔力で押し潰せるのな」

(「正義よ!」)

「否、あやつの魂が肉体に慣れていなかっただけ。そうでなくば気絶する前に心臓を打ち抜かれて死に至ろう、愚か者めが」

 もっともな発言で責め立てるネジェル。口調は仕事中のそれだろうか?

(「癒やせ!」)

「舐めるな!!」

 それに答える寸前に完治する。ちなみに槍はすでに消えていた。

「心臓がぶち抜かれてもすぐに脳が止まるわけじゃねぇ、治癒を希うくらいできるわ」

「その激痛で?」

「シャリア、今痛覚感じてない、魔法使える、OK?」

「うわぁーすごいねそれ」

「どの口で言うのか…」

 禍々しい刃にシャリアは反応できなかったし、それはコーキも同じである。それでも今のも心臓に当たるはずだったことくらい気づける。

 あの槍を逸らしたのは彼に他ならない。「何もしなければ心臓を打ち抜くはずの槍」が肩に当たる程度にしか逸らせないような鋭い一撃であったことも。

 それでも十分おかしくないだろうか、それによく咄嗟に対処できるよな、と関心というか、呆れというか、何かを感じる。

「銀色…時空の適正か?」

 目は何色だったやら、黄色ではなかったような。そんなことをうだうだ考えて、質問してみる。

「なぁ、雷の適正って、こいつにあったのか?」

 答えは返ってこなかった。



「あの子、多重人格とは違うの?」

(「さぁ?でも、何かが気になるんだよなぁ」)

 クラウスと言ってはみたが、自分のような変な状態なのか、クーシャが15になったことで目覚めた結果があれなのか。

「情報を求む、なの?」

(「そうなの」)

「じゃあお兄ちゃん頑張ってね」

(「応」)

 不安はない。

 どちらが事実なのか、確信するのはあと少し。

朝影という名字に他意はないです。そもそもそう名乗るものが戦国にいるのか、どういう一族なのかは知らないので…。調べればいいだけなので気が向いたら調べます。

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