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天使式の看護師さん

改行数の調整をしました。

 そこには天使がいた。

「大丈夫です、ゆっくりでいいですから、ご飯をしっかりよくかんで食べて下さい」

 その背中に漆黒の羽を生やした青年は、にっこりと微笑む。

「は、はい…」

 その声は人を安心させる声。

 しかし、皆わかっている。知っている。

 この男は殺人鬼だと。



 シャリアはそこにつくまで時間がかかってしまった。ニワワの件のせいで、ネルフの案内が遅れたためである。

「お仕事開始!」

 そこに、管理人室で元気よくそう言った途端、その部屋のイスで寝ていた男が起きてこちらをにらむ。

「あ…ごめんなさい…」

「いや、問題はない、ただ…今もう昼だよな…?」

 そんな質問をふっかけられた。

「え?あ、はい」

「あぁ…やべぇな…」

 どうやら寝過ぎたらしい。しかし毛布を取り出すばかりか枕まで用意していた。熟睡する気しかなさそうである。

「というか彼が来たんですね」

「ああ、だから仮眠をとったらこのざまだ」

 どう見ても仮眠ではないのだが、気にしないことにする。ネルフが苦笑ではなく微笑む様子からするに、普段は仕事をきっちりしていそうである。しかし。

「また濃い人がいるの…?」

 シャリアはそう困惑していた。考えても仕方がないのでとりあえず、彼、と言われていた人にに会いに行く。

 一つの病室でゴタゴタを解決しつつ、6つ目の病室へ。

「ここが14号室です」

「ネルフか、久しぶりだね」

「うん!」

 ネルフのとてもうれしそうな顔と彼の無邪気な笑顔で何となく二人の関係を察した。

「あ、この人はネジェル」

「はは…よろしくね」

 その他己紹介に彼――ネジェルは苦笑しつつお辞儀をする。シャリアも返す。

「ニワワのもらい物、便利だね」

「ん?」

「人の精神状態を見極めるんだってさ…君たち、誰だい?」

 またすぐコーキの存在を悟られた(今回はばれてるが)二人。もはやコーキについてはばれるものだとシャリアは覚えた。

「まーたー?変わるのはなしでいいかなぁもう」

「一応今日だけは繰り返してもらえると…見た感じなら副作用なさそうですし…」

 どうしても初対面でコーキを紹介するとなると、入れ替わりが頻繁に起こってしまう。

 コーキもシャリアの領域を侵すことが少なくなり(主に思考するに際して)、シャリアの魂も成熟していったことから問題は確かにないのだが。

「いいよ、代わる」

 そもそも前者は特に誰も自覚していない。

 ネルフをじーっと見て、やはりかすかに顔をしかめる。

「へぇ、殺霊の卵か」

「ぬわっ!?あっと、コーキです」

 交代したのを見抜かれて驚くコーキ。内心は特に何も考えていないが。

 少し、思考が溶ける。

「悪意で人を殺したけどな、それでも資格があるのか?」

 完全に素で語る。彼以外は背丈の差から、その堂々とした様子に違和感を感じる。

「そこには善意があったように感じるけれど?」

「善意ほどひでぇものもねぇよ……まぁ、大丈夫なんだな」

 叢那に悪意があるのなら、スターにはならなかっただろうと思う。

「そうだね。善意の害悪さは確かにあるが、全てにおいてそうとは限らない」

「少なくとも、自分のことに対してそう考えてはいられないがな」

 彼自身はそもそも善意で動いた訳ではないのだが。

 だんだん瞳に違和感を感じる。

「まぁそれも正しいか。でも、そもそも君は彼女のことを考えても後悔しないだろう?」

「まぁ、な」

 彼女とは、彼の知らない聖奈のことなのか、目の前のシャリアのことなのか。

 だんだん左腕に違和感を感じる。

 話しについて行けないネルフは食器を片づけていった。

「それで十分だろうからね、殺人は罪なことは罪なんだら。そもそも善悪の本当の基準は己の中にしかない。それを信じればいいものだろう?」

 それは持論として認められる意見だと感じるとともに、いわなくてはいけないことだと感じる。

 そして彼はようやく自覚して、目に強い違和感を感じる。視覚は正常であるが。

「果たしてそうかな?己の審判を過信して身を滅ぼしたものを知っている身としては疑わざるを得ないがね」

「……それはまた。君は、その存在から何を学んだ?」

 そして魔力の高鳴りを感じ取った。今更に、魔力ってなんぞ?と疑問を持ったコーキ。

 この部屋の患者の一人がむせたので背中をさすってあげる。

「あー、特にいうことはない、かな?その存在が親なんだ、何を学んだかなんてわかる訳がない」

 そしてもう大丈夫そうだと安堵した頃やっと気がつく。雰囲気に呑まれて言わされていた(・・・・・・・)ことに。

「で、それを話させて何のつもりだ?」

「…よくわかったね、もう、終わりです」

 その言葉だけで、自分を飲み込んでいた空気が落ち着いた。

「ふぅん?威圧で言わせて処分する、ってのが常套手段な訳か」

「元々口が減らないんだね君」

 当たり前だ、と思いながらむせた人を観察すると、あることに気がつく。

「歯、弱ってるんじゃない?」

「むぐ…」

「ああ、そうみたいだね。どうにも黒レンコンが好きなようでね」

 黒レンコンとはなんぞや、と質問する。結果として普通にレンコンのことだった。ねはりけのある里芋類(自然薯とか)は白レンコンと呼ばれているらしい。

「だから誤魔化してたと」

「好みのものを食べられないのは苦痛だからね」

「つってもなぁ…歯の処理ぐらいはしとけよ?これ詰め物とかできるか…?」

 現代知識フル活用である。まぁ前世では小学生だったのでほとんど医学の知識はないが。

「それがだね、この辺でその技術を持っていた人が病気がちでね、隣の部屋にいるんだけど、あと一月はほしいかな」

「これなぁ……なんかやばい菌があるような気がするんだが」

「魔法で処理しよう、滅べ小さき命よ、それは大きな命のために」

 コーキはそれ以上は放棄し、それでいいのかは専門の人に任せようと考えた。

 滅べ、という詠唱は邪滅のものだろうか。

「ちなみに君達の魔法はどんな流派のもの?」

「流派?」

「うーん、ほら、色々唱えれば色々使えるけどさ、属性の指定の仕方っていろいろなんだよね」

「それを言われても…」

 強いていうなら、と考える。

(「難しい本」)

 そのアドバイスで、昔、本を読んだときのことをなんとなく思い出す。

 確か名前は…

「デルウィ、って人の本を読んだことがある。俺はそれで魔法の体型を知った」

 あのとき、図書館で読んだ本の著者。

「ふむ……彼か、なかなか君は根気強いね?彼の本は読みにくいからね」

 そうか。

「君は期待できる。殺霊の威厳で何とかなるときはネジェル・トリックの名を使ってもいい」

 その発言はなんか引っかかるな、と感じた。

「わかった」

 頷いておく。

(「さて、シャリア、あとの仕事よろしく」)

(「はーい」)

 そして交代。

 患者何人いるのか知らないが、大変なんだろうなとだけ思っておく。

「あと、それは流派の参考にはならないんだが」

「そうなの?」

「…そうなの。あ、代わったのか」

「そうなの」

「そもそもどっちが本性…?」

「私かなー」

「あ、今ので通じた…」

 困惑して額に汗が流れるネジェル。

「子供扱いしなくていいか…」

「問題ないかな、って思う。あ、ネジェル!それよりこっちヘルプ!」

「わかったよ、残りも下げておいてもらえるかい?」

「わかったー!」

 その会話の後ネジェルとはち合うことはなく、お仕事に没頭していた。

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