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手羽先式のドクターさん

改行数の調整をしました。

「えっと、鳥さんいじめて返り討ち…でいいのかな?」

 目の前に白目をむいて倒れている黒い肌の緑髪の男を見ていっているシャリアの顔は完全に引きつっていた。

 呆れているセリーナの様子にその鳥少女が肩をすくめる。

 この謎すぎる状況の経緯を語るとしよう。



 診察室にあるいくつかの薬。

 どう見ても()学技術の産物である。

 その中にある筋弛緩剤。

 その蓋を開けて、大量の摂取を―――

「ばっかやろーー!」

 ずばぁーん!!と大きな音を立て頭がかっ飛ばされる。

 とはいえ微動だにしていないが。

 なんせ叩いたのは羽である。

「なぜ死ぬ!!なぜ生きぬ!!ぬなのに意味の合うという不思議を簡潔に答えよ」

「片方否定、もう片方は反例として使われている、なぜ生きる、いや、当然死ぬだろう、と言うことだな」

「逆だろ馬鹿たれがぁ!!!!!」

 片方は青い目の黒い肌の男。もう片方は腕に羽毛がはえている黄色い髪の少女。

 正確には、ぱっと見少女、だが。

「全くよお、テメェの息子見た餓鬼がここに来たんだ、あいつぁ生きてたぞ!もう完治しているんだからおめぇも生きろ!」

 それを聞いてがばっ、という擬音が聞こえるほどに早く振り向いて掴みかかる。

 力が強すぎて服が音を立てて破れ、下着がのぞく。

「それは本当か!」

「ああ、だかその前に…」

 その男は首をかしげた。

「このケダモノがぁふざけんなよぉおぉ!?!!」

 当たり前の怒りにも気づかないほどの焦りのせいで力尽きた。

 ちなみにその前にと言って一拍おいていたが、そのときに謝れば許すつもりであったそうである。結果としてはこのざまだが。



 そしてそこに来たシャリアが、一分たってやっと言った一言があれである。

「いじめてってか、ねぇ?」

「……だな。おい、お前さ、俺の息子見なかったか?俺ほどじゃねぇほど黒い肌のお前と同じくらいの年のだ」

 それに心当たりがないので、首をかしげる。やっとまともに会話を始めた。

「あの、多分昔なんですよ」

 鳥子が補足する。

(「…。」)

(「その反応、覚えてるね?」)

 不審な反応に対してたずねたシャリアに返ってきた言葉はその質問に対しての返答でこそなかった。

(「………………その男、超警戒」)

「「え?」」

 しかしその重大で不確かな言葉にメルシャンが反応し、限界まで周囲を警戒しだしたからか、異様なまでにピリピリし出した。

(「俺の知る限り、そいつはろくでもない何かをやらかした」)

「君、一応いっておくよ?そいつ自殺願望持ちだから適当だけはいうんじゃあないよ?真実のせいで死ぬならまだし…」

「ニワワ、後でお仕置き」

「ひぇ」

 思い出したように言った一言に怯える鳥人間ことニワワ。

「コーキ、ニワワが結構察したよ?」

(「まじかよ、面倒だな」)

「…?」

 精神疾患を担当するらしいニワワだが、多重人格を見抜くのはほかの疾患も知っている身としては容易ではないらしく、未だ完全に把握できていない。

(「なぁおい、代われるか?」)

(「えー、いいけど?」)

 そうして代わった後すぐ、顔をしかめる。

「どうしたの?」

「こっちは人を思いっきし悪意もって殺したからな、この子のが響くんだよ」

「…んー?そりゃ変な話だ、聖人が拭うその汚れは魂依存だ、魂が二つあったらクラウスになるだけだろう」

 真顔になったその子(子じゃなくてその方と言うべき?)は、ふざけた雰囲気がなくなり、瞳は眠たげだったが、それでも鋭い半目を向けてきた。

「そもそもそれにしてはどちらも幼すぎ、何をしたの?」

「知らん、何かしたならあの実行犯どもか、…いや、あの(ピー)アマはないな」

「おいこら子供の口できたねぇこと喋んじゃねぇ」

「おれ享年12、この子と生きてきた時間含めても17なんだが」

「………自分で言っといて忘れてたわ」

 鳥だから鳥頭な訳では…なさそうだが、少し頭に血が上ったのだろう。

 それがただの言い訳に過ぎないことに気づくのは今夜のことである。

(「意味分かんないなぁ…気にしたらだめなんだろうなぁ…爆弾が見えたもんなぁ…」)

 地雷ならぬ爆弾を見てしまったということでもあるのだろうが。

 それを読んだメルシャンは違和感を感じていたのも無理はないが、これが初めてでもないのもまた事実。

「で、この子らのお仕事は?」

「むん?今はないぞ?リハビリ組が帰ってきてからだな」

「あれメルシャンいるよな?」

 この状況下でリハビリのための運動場に行ってきたメルシャンがいることに疑問を覚える。

「ああ、先抜けてきた、案の定、ってやつ。殺してぇ」

「メルシャンも大概殺意やばいな」

 何かはあったのだろうが、詳細を聞き出すべきか。

「うん、まぁ…ね?何であんな変態ばっか…」

 メルシャンの赤い髪が心なしか逆立って見えて、まるで燃えているようだなとのんきに思う。

 かなり問題なのも分かっていても思ってしまう。

「本当に来たくなかったんだな…」

「そいやシェリーナ…んんっ、セリーナはなんで連れてきたの?おい待て、これは仕事だぞ」

 どうも知っているらしいニワワが引きずっていこうとするネルフを止める。

 しかしおかしなことに、足一本で踏ん張るだけで抵抗しきっている。かぎ爪が生えているわけでもないのにどうなっているのやら。

「よくわかってなかっただけよ、一応反省はしているつもり」

「あそーけ、まぁいいけど?そんなヘマ何回も許さんからな?……あ、ネルフ?お手柔らかにね?」

 そんな感じで、二面性のあるニワワとの会話であった。

(「あ!!わかった!」)

 さて、色々考えてたシャリア。

(「どうした?」)

(「心の病気って精心魔法の出番だよね?ここの人たち使えないんじゃない?」)

(「……聞いてみれば?そろそろ戻りたいし」)

(「うん、そうする!」)

 そうして戻ったわけだが、コーキは結局何がしたかったのか誰にもよくわからないままであった。おかけで後にこの男を敵に回さずにすむのだが。

「……あいつの話」

「あー、家の地下で会ったよ?」

 この話にようやく入るという、ひどい放置ぶり。

「地下水路付近ですね、廃棄された3代目セイントキャンプ」

「まじか…」

「あそこ、魔物いたりしたしお家っぽくはなかったし、あそこで人が暮らすのって無理があるような…」

 セイントキャンプと呼ばれるものが気になるがコーキとメルシャンのやりとりは、どちらも知らないというだけの結論に終わる。

「それで?」

「あの子、なんか変な感じしたんだ、まるでお兄ちゃんみたいに見えたけど、明らかに違う」

 遠くを見るような目で集中しだした矢先、コーキに話しかけられる。

(「えぇ…あ、シャリア?あまり語りすぎないでくれ」)

「え、あ、うん」

「どうした?」

「口止めされた、あの子もお兄ちゃんもなんかよ怯えてたのかな?なんかそんな感じ。まぁ元気だよ?多分」

「……なら、いいのか?」

「さぁ?」

 印象を語り尽くした。

 シャリアは一つの言葉を思い出す。

 ――「ずるいんだ」――

 その言葉の意味は知る由もない。

 彼女に嫉妬の理解は難しいだろう。なんせ何かを羨んだことはまだないのだから。

 目標こそあれど、それに対する情熱などない。コーキの知る情熱は憎悪も含んでいるため、自力で学び取り理解してもらうのがいいのだろう。

 というか今世ではこれまで情熱(ぞうお)を抱く相手も理由も特になかったのは幸いである。

「さて、あの変態どものところにも一応いかないとね」

「あー、こいつ連れて行くのか?」

「うん、それも一応。あ、手術室来て…ね?」

「あ、あは、はいいいぃ」

 そんなこんなで移動する。ニワワは無事で済むのだろうか…。

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