どうしようもない老人
デックとともに、またムラナの元にいくつもりなのだけれど、戻ってこないのである。
この辺の事情を王に説明するの手間だった。
そして数日。
数日!
そんなに流れてしまえばさすがに王――承転王だそうだ――もおこである。妥当。
「デックまだぁ!?問答無用でいくとばれるよね!?うぅ~~~」
というか私も怒りを態度に出してる。内心そんなに怒ってないけど。
じゃあなぜそんな振る舞いかというと。
「あの人間、昔から好き勝手してくれる……!」
隣から周りが慄くほどの殺気が迸っている。これをやめてほしいから。怒りで同調して穏便な会話をしよう。愚痴ともいう。
「というかいつからの付き合いなの?あの無礼者」
「やつが幼い頃からだな、その頃から失礼千万であり、そしておぬしのように強かった」
「はえー、というかあの人どのぐらい強いの?」
これ割と珍しく深くつっつけるやつでは。よし話し込もう。彼の機嫌もよくなることだし文句ないよね。
「竜王ではない若い半神級ならば五体まで同時に相手していたな、それも涼しい顔で」
「うわぁ……身一つででしょ?怖っ」
「おまえは鎖を使えば倍いてもどうとでもなりそうだがな」
「倍はどうだろうね…」
この相変わらず謎な剣もあれば相手できそうなものだけど。あ、でも涼しい顔は無理かも。すごく焦る。いつも顔に出てるか知らないからなんとも言えないのだけど。
「そういえばこの剣、未だによくわかってないな」
「知らんのか。こちらが聞きたかったのだが。ふむ、そうだな…。神が作ったにしては妙だと思っていてな。基本的に神なら器を作らぬ。器に注ぐのが神の魔力だからな」
そういいながら魔力を抜いた状態の剣を持ち上げるが、その両手は震えている。というかビル並みの巨大な体なのに両手使ってもそれってどれだけ重いんだ。
「私みたいなのには貴重、ってこともなさそうだけど」
「というより使える人は概ね脅威になるのだから、脅威はみな注ぎ込めば使える器など作らん」
あ、そっか。神の魔力を詰め込んでようやくな代物だものね。
それにしても、混沌と創造しか反応しなかったんだけど、もしかして…。
「とはいってもこれに使える属性限られてるけど、適性の問題かな?」
「そうであろう」
さて、さすがにあれだな。
(シャリアちゃんはここや私の行く先に来ちゃだめだよ。メンマちゃんはまだばれてない。直接壁の中に向かわせるから。そっちはまだばれようがないからね%.:~#=)
さっきからムラナが主にお兄ちゃんとしていたやりとりかのだけど、急にノイズが入った。何かあった様子。
「もう息子連れて戻って来ちゃったよ」
「あいつは毎度毎度よくもここまでこけにしてくれる……」
「ん?なんだ?」
「「なんだとはなんだ!!遅い!!」」
おこだよおこ。
「早く一時帰還させて」
「かしこまりました」
さて、そこからは会話をするまでもなく、つきました。
「私は行く」
「それで大丈夫。もう一人でいい」
「ではな」
ここは教会の敷地内です。もう夜になったのは今どっか行った人のせい。
とりあえずあの人の元に転移するためのマーカー代わりに剣を渡したのでなんとかなる。これを王に提案したら置いてどっか去るとかやったら足に刺せ、といっていた。さすがにやらない。
「ただいま~」
「おかえり、シャリ姉」
「うん!ところでエリ姉、前のお祭りリブと一緒に回った日があるじゃない?その前の日のお客さんとまた会うつもりなんだけど、もういる?」
「確かにいたよね。覚えてないけどまだ来てないよ、今来客いないし」
とりあえずソルトの治療をして待つ。
治療中ちょっと変わった景色を見たけど、正直何が何だかまるで理解できそうもないので気にしないでおく。
強いていうなら赤と黒。
そしてメンマちゃんが軽く拳を出してきたので鎖で受け止める。
「やっほー」
「あれ、いつ後ろに?」
「え、防いでおいてそれなの?」
そうなんだけどわからないものはわからないって。
「それよりもうついたの?」
「うん、私だし地下通ってもすぐつくよ。でもシャリアちゃん、あなたもう私より強いよね。怖いけど、頼むよ」
抱きついてくる。元が元だからかわかりずらいけどその心臓は確かに早く浅く鼓動しているだろうことがわかるし、体が震えている。
「すっご…」
「さすがに普通の人間かを疑ったほうがいいぜ」
ソルトとブレイザの会話。うん、ぷっくー。
「魔龍人と言えばわかるかな?」
「一度だけ聞いたことがあるな。元魔龍かそれと人の子供か」
「元魔龍の方だよ。子供から育ち直しと同時に、親である以上この胸よ。揉む?」
「やめておく」
ブレイザが割ときれいに受け流した。
「そういうのはちょっと…」
ソルトはまぁそうだろうね。
「下に息子待たせてるけどちょっとぐらい」
「止めてね…?」
止めようか、これ。お兄ちゃんにやったようなことしそうだし。そうとなればすぐ終わるとは思えない。あのとき体が寝てなかったもん。
「はーい、シャリアちゃんに止められるならしょうがないね」
さて、下に降りればなんか変わった少年がいる。
「初めまして、教皇さん……だっけ?僕はノイド・マンガーンです」
独特な雰囲気の子だ。
「そうだよ。私はシャリア・オーディー。よろしくね」
「はい、とはいえ序列が低すぎて僕には何もできませんが…」
「それは私もだから。ということなので任せるね、シャリアちゃんに」
人は例外なのかね。あるいは、もはや私が神に近づいてるから?
(「実際どれぐらい神に近づいたんだろう」)
(「知らん。人から神にどうやって変化するかわからないからな。能力的にはもう神と変わらないだろ」)
「結局そこに行き着くよね」
どちらの返答としても同じになってしまった。
さて……またデックを待たないといけないか。それとももう突撃するか…。




