聞いたのに忘れるはた迷惑
フクシュウ。
ワレラ、パスヒモアトモ。
結局、あいつはなんなんだろうか。
「……とりあえず来たが、これでいいのかどうなのか、だな」
前に入った円卓の間の近くに転移してしまったのだが、よく考えたら機械の認証を受けて入るべきだったかもしれない。
とりあえず、人が通りかかるのを待つことにする。
「いないかー?」
「誰だ?」
ギャラルが部屋から出て来た。そう来たか。
「俺だ。何も考えず転移で来たからどうしようかなと思ってな。まぁまぁ久しぶりだな、ギャラル」
「……お前は今、外出するのは危険だろうからな。無難な対応だろう」
「そういってもらえて助かる。実際俺だけが分離した状態とはいえ、接敵したからな。ただそれでも、髪留めが壊れる前に予備をもらいたくてな」
「わかった、持ってこさせよう。ついでだし聖女の方にも頼みたいことがあるんだ。奴らに殺されかけた少女がいてな」
なんと?奴にか。
シャリアが表に出る。すぐ戻れるようにはしておこう。
「わかったよ。あなたについては話を前に聞いてるけど、他の商兆といて大丈夫なのかな?」
「二人いるが、元々穏便なやつしか今入れられない状態だから心配するな。…今代の教皇とは話をつけられていないが、問題ないだろ」
「わかった、なら入るね。ちなみに教皇は私です、じゃ」
「は?おい待てぇ!?」
「え?」
(「当たり前だろ……」)
シャリアは本当に何も考えずに今の発言したのか……。
言っちゃ悪いけど、馬鹿か?
「あー、そりゃ隠すわー。聖戦に動いてるとなれば、殺霊総選抜をする羽目になるしな。普通なら、だが」
「……お兄ちゃんがいるからいいのか」
「ま、そういうことで頼むわ」
引きずり出すなよと。めんどくさい内定しちまってくれと。
「うん」
「選抜したところでそいつになる気がするんだ。やっても無駄だろうからさ………にしても、はぁ~~~~~まじかぁ~~~」
長いため息をついて、考え込むギャラル。
すまんな。
なんとか思考をまとめたみたいで、彼は目線を合わせて口を開く。
「ほかにも文句は山ほどあるが、口にしてもどうにもならんな…」
「ごめんね?」
軽く謝って、入ることにする。
「ひぁっ!?ぁ」
悲鳴を上げた口元を押さえる女の子。聖女じゃない。巻き込まれた子なのか。そもそも聖女なら私のことをよく知らないで部屋に入れようとはしないか。
「あ、おばあさん久しぶりです」
「君が表というのも珍しい。久しぶりだね。逃亡者がいて少し困っている」
あまり語る暇もない。しかし、自分で逃げ出したときましたか。
「この状態、治療する?」
「ふむ、うむ…………どうしような?」
全身がひっかいたような傷だらけ。おそらく、自分でつけた傷かな。ほとんどは風魔法のそれだね。瞳は固く閉じられているけれど、周りの傷からして多分手でえぐった。いや、これはえぐられた可能性もなくはないけど、逃げたというからにはそれは考えにくいよね。
「とりあえず、目だけでも復元するね」
どう傷ついてるかは、聖女の力で共有すればわかる。こんな使い方は初めてだけど、ソルトの時とそんなに変わらないし楽勝。
「よし」
彼女は瞳を開ける。極彩色の、めちゃくちゃに色の変わる瞳。
「……いない?」
「うむ、そもそも男自体が先ほどから一人いたりいなかったりだ」
「それはいたんだ」
「女声作ってたからな、わからないのも不思議ではない」
そんなことしてたのか…。
とりあえず、本人に確認しようか。
「ね、その傷も治しちゃっていい?」
「うん、おねがいします」
「わかった」
全身を治す。ふむ。肌色がブルー以外ではあまり見ない褐色だ。この子、珍しい声なら喉潰してたかもね。
(「お兄ちゃん、出て聞く?」)
(「とりあえずやめておこうか」)
何か理由があったら出るつもりらしい。
「とりあえず、そいつらの一人とお兄ちゃんが会ったみたいでね、何人ぐらいで、何部隊ぐらいを想定できる?」
「ふむ……少なくとも6名、3部隊。一人で動くそやつと4人隊、それ以外も一部隊はいる」
(現地の味方を除けば、最大5名)
「………つまり、現地の味方一人以上は確定」
「?」
あ、ムラナのこと知らないかも。
「今、私達を眷属にした女から現地除いて最大5名との言及」
「なるほどな、二人となると混沌だな?」
「うん」
さて、聞きたいことを聞けたから私からは本題に戻る方向で。
「こちらに出来ることはないから、聞くこともないか……どう思う、レイディエラ」
「同意しますわ」
おばあさんの隣に来た人は、仮面をつけて変声機越しに話す女の人。そういえば部屋にもう一人いたんだったね。
ギャラルが入ってきて、髪留めを手渡された。
「こいつが新品だ。手元のやつは任せる」
「うん、ありがとう。……おぉ~、新品こんな感じなんだ」
貰ってまじまじと観察する。新品のやつは初めて見たかも…?これについては記憶混ざってる感もないからなー。
「あの、さっきから色々と変だよ…?」
「あぁ、やや複雑な事情のある子だからな。だがこの子はわざわざ口調を作る必要もない聖女だ。心配するな」
「いや、でも話しづらい…」
「いえ、多少の失言では記憶が飛ばないお方ですわ」
あ、私聖女だもんね。彼女には聖女の同年代の知り合いがいたのかな?そうなら襲われた理由もわかるが。
「……せっかくだし、交代しちゃう?今更交代しても問題ないんだよね。だから新品ほしかったんだけど」
「うむ、そう使わんと思って軽くしか魔法込めてなかったものでな」
とりあえず交代するけど、彼女から視線をあまり外さないようにしたいな。
「俺がどうなっていくか、自分でもよくわからなかったからな……っと、視線そらすなってか?無言の圧力とは珍しい」
(「いつも口にしちゃうからねー」)
さて、情報ください。
……思ったより精神に負担がかかってなさそうか?
それにしても無言の圧力というか、目の操作ができはするけど、勝手に流れていく。今はシャリアの方が操作権が強いとはいえ、こう言う意思表示は新鮮。
っと、考え込みすぎた。
「で、だ。輩を倒すために攻撃手段を知りたい。可能な限り、人相と使用した魔法を教えてくれるか?」
「うん、でも、あの……」
「一人、相当強烈な外道がいるとのことだ」
「(暗紅色の瞳、ハデスの極致の使用者だそうですわ)」
「なるほど、そいつ以外でいい。そいつには対面したから大体わかる。他でもいやだと思ったらそこで終わってくれていい」
「うん……ありがとう。えっとね?」
とりあえず……手に入れた。
結果からいうと、そのときには奴らの戦闘能力など忘れた上、必要などなかったのだが。
それもこれも、あからさまに極致など使いようもなさそうな奴らなのが悪い。そのくせ好き勝手やってくれやがる。くそったれ。
さて、と。脅威ではなさそうだが、警戒は必要だな。
「まさか空翻ばっかりとはな」
本人以外は転移可能じゃねぇの…。
「逃げられたの奇跡だな?これ」
「うむ、幸せだと言えよう」
ただそれ以外がバラバラだし、少なくとも…。
「壁を砕いて徒歩で侵入してるとの話でしたわね。ならその程度ではあるのでしょうけど…」
「でも時空適性が高いのなら、特別な保護がない限り自分が転移するぐらいは歩くのと変わらねぇだろう」
あれ使えるならまず試すのがテレポートでどこでも行けるのか、だと思う。
「一応壁の中と外での転移はしづらくしてあるんそうですよ?」
「えっ」
「なんだ?すまん、情報を受信した」
にしても、なにか聞くことあったか。多分もうないと思うんだけど。
「なぁ、異端さえいればいいのかもしれないとは思ってるんだが、それにしても異端がわからないうちに殺してるような気もするよな?」
「それは、確かに思いますね。条件など私たちも知りませんし…」
異端じゃない確信をどこかで得たのか………ん?
「いや、ごめん間違えたな。シャリアが異端なのは知ってたなあいつ……つまり、異端じゃない奴らの共通点を探してた?」
「他の該当者を探してた可能性もありますわね」
この人、ぼんやりとした目で魔法を編んでいるが、なにげに神魔力である。
「む?荒天国の近郊にキメラが?コロニーを作った?」
「……………やっべ、それ忘れてた!!??」
いたなそんなの!さすが殺りにいくか………。
「行かなきゃ!」
シャリアが動こうとしだしたんですが。なんで一人で行くんだよ。
少女はわからんだろうからおいといて、ほら他の二人ものすごい動揺してるし。こいつらからしたらそんな行かせるわけにはいかねーだろ!というか動揺しすぎて魔法失敗してるよ!
(「さすがに待て?まず場所どこだ?一人で行くのか?」)
(「……そういえば前に戦ったところ、気づいたらいたんだよね」)
(「はぁ~!?」)
(私が案内するよ、ほら、来て)
おっと、呼ばれた。
(場所を知らなかったのだけは私のせいだね)
なんか、すまん。とりあえず戻れたので一言。
「主神に呼ばれたから行ってくる。ありがとなー」
さて、キメラとやらはどうなっているのやら。
「っと、主神からこの件は伝えさせるから安心しろよー」
ちょっと悪い気もするが、押しつけちまえ。




