中編 セブン戦闘
さて、町を出て地図の通りにやって来たは良いが、そもそも私は“ラズール草”を知らない。植物には詳しくないので、正直どの草も同じに見える。
そう思ってジッと草を見ていたら
『スキル【植物鑑定】を使用します』
という音声と共に、全部一緒に見えていた草の上に四角で囲われた名称が出てきた。
「これは便利」
これが【スキル】ってやつか。私は感心しながら『ラズール草』を摘んで行く。摘んだ端から消えて驚いたが、これは所持アイテムと認識されたので持っている鞄に移動したという事らしい。
ウエストバッグを開くと、中は真っ暗だが手を突っ込んで欲しい物を頭に浮かべると出てくる。体積も重量も関係無いみたいだ。確かにゲームを現実に変換すると、こういう事になるのかと思いつつも、いちいち驚いてしまう。
あとスキルにもレベルがあるみたいで、今の所私では植物の名前しか分からない。
でも他の名前の付いている草も使えそうなので、出来るだけ摘んでおく。
「…ん?」
この辺りで使えそうな草は大体摘んで他に行こうと思い立ち上がった時、視界の端に何かが横切った。
目を凝らすと、ゼリー状の物がプルプルと震えながらこちらを窺っている様だ。
これはもしや、噂に聞く『スライム』という物ではないのか?そして『スライム』ならば、魔物…敵扱いで良いのかな。
私の心が読めたかの様に、それまでただ震えていたスライムが飛び上がってこちらに向かって来た。
「っ!」
間一髪避けるが、腕に掠ってダメージ認定を受けた。
痛みは現実の10分の1にも満たない気がするが、HPが減っている。
ゲーム世界での初めての戦闘だ。
ギルドに登録してすぐ町を出た私は、装備品も揃えていない。
初期装備は一応ジョブごとに配布されるらしいが、【道化師】で【木工】の私の装備はカラフルな上着とミニスカートとニーハイソックスにブーツといった軽装だ。動きやすくて良いのだが、武器になりそうな物は無い。かろうじて、鞄に入っていたカード…カードは武器ではないだろう。
そうなっては、これしかないな、と私は覚悟を決めてスライムに向き直った。
スライムが再び跳んで来たのを避けながら、腕を振る。
パンッ!
私の拳が当たった拍子に、スライムの体が左に歪んだ。
「そこか…」
スライムの上に表示されているゲージが少しだけ赤くなった。あそこが全部赤くなると倒したって事になるのだろう。
少しずつこの体を動かすのにも慣れてきたし、リアルとは違うが、こちらはこちらで特化されているものがある。
私は続けざまに腕を突き出し、スライムが庇う様にうねる箇所を集中的に狙う。赤いゲージの伸びが増えた。
『スライム(青)を倒した!
EX5取得!3G取得!スキル【見切】を入手しました』
「ん?」
無事ゲージが真っ赤になったスライムはそのまま溶けて無くなり、上記のアナウンスが脳内に流れた。
スキル?スキルはポイントを消費して手に入れるんじゃなかったっけか?
ああ、そういえば行動によって自動入手のスキルもあるとか書いていた様な…。
【見切】というと、急所を突けたからか。
しかしVRMMOというのはすごいなと改めて感じた。
攻撃を受けた時の急所の庇い方まで再現していた。初期魔物だから分かりやすかったんだろうけど、これならこのままでもいけそうだと感じた私は、日が暮れるまで散策を続けた。
『Lvが上がりました。スキルポイントを入手しました。解放されたスキルは以下です。』
セブン Lv.5(4↑)
SP:6
【道化師】Lv.4【木工】Lv.1
HP 85/178
MP 0/30
STR:12(2↑)
VIT:14(1↑)
INT:18(6↑)
MND:12(2↑)
AGI:15(3↑)
DEX:15(2↑)
LUK:23(8↑)
スキル
【手品】Lv.2(1↑) 【採取】Lv.2(1↑) 【植物鑑定】Lv.3(2↑)
【見切】Lv.4(New) 【命中】Lv.2(New) 【会心】Lv.2(New)
解放スキル(一律2P消費)
【魔物鑑定】【体術】【正拳突き】【足払い】【踵落とし】【上段蹴り】
…これは素手で魔物を倒した結果だろうか?
ステータスは攻撃力のSTRはほとんど上がってないにも関わらず、後半敵のHPの減りが早かったのは、【会心】【命中】のおかげだったのか。
【手品】は敵の気を引いて隙を作るのに意外と重宝出来た。Lvが上がってカードを出すのもスムーズになったし、カード以外のアイテムも扱える様になってきたので、もう少し練習してみようと思う。
【体術】と【魔物鑑定】を取得し、2Pは予備に残しておいた。
ひとまず、ギルドが閉まってはいけないので町に帰るとしよう。
「はい、ラズール草10束ですね。確かに。報酬の250Gです」
聞けばギルドは24時間営業だったらしく、もう少し狩ってても良かったなと思いつつも、報酬を受け取る。
『チュートリアルクエスト③ 装備品を変えよう』
あ、そうだ忘れていた。
表示されたクエストに、受付の人に武器屋防具を売っている場所を聞いてギルドを出た。
と言っても、ギルドと違ってそう言った店は日が沈むと同時に店じまいが多いらしい。
夜にログインする人はどうするのかと思ったけど、そういえばリアルとは時間の流れが違った。
そう言えば私も始めて結構時間が経っている。念の為ここで一旦休憩を入れる。
レベルが上がったからHPなどが結構減っているので、宿に行こう。
回復は回復薬を飲む、治癒魔法を掛けてもらう、宿屋などで休むで行う。
一泊夕食付で300G。スライム100匹分でなかなかの値段だったが、このゲームは空腹ゲージもあり、それが切れるとHPが減っていくので食事は大事だ。
ちゃんと味もして美味しい食事を食べ、ゲームの中で眠りにつく。妙な気分だ。
ゲーム内の朝までは休憩時間に当てようと、相変わらず人の気配の薄い家の中で一息ついた。
トイレに行ってコーヒーを淹れる。
ネットで【木工】スキルについて調べてみたら、当たり前だが道具が必要な事に気付いた。
1時間後、再びログインをする。
宿屋で起き上がると、外は明るくなっていた。
ゲーム内での昨日ギルドの人に聞いた、初心者向けの武器屋と防具屋。それからレンタルの作業場を教えてもらう。
100Gで3時間、初期道具も完備された作業場で、地道に木を削ったり切ったりをしてレベル上げをしてみた。
ついつい取ってしまった【木工】だけど、ゲーム内での作業というのも面白い。
思わず延長してしまい、【木工】レベルが4と【道化師】に追いついた。ついでに出た【彫刻】スキルも残しておいたスキルポイントを使って取っておいた。木工で彫刻が出来ないのは意味が無いからな。
寝るのと食事はお金がいるので、冒険者ギルドで任務を受けに行った。
既に名前を見た事がある薬草の採取クエストを受けて、町の外へ。見渡すと、今日は私の他にも数人、プレイヤーらしき人がいる。
マルチは発売して既に3年近くが経っているゲームである。
未だその人気に陰りは見せないが、既に結構な年数をプレイしている人が多い。
また、人気すぎて新規プレイヤーは、既存プレイヤーから招待されないと始められないのだ。その為、私の様な新人プレイヤーはなかなかいない。
「ねぇ、君。君だよ、君」
一通り薬草採取が終わったので、【木工】のレベル上げに使えそうな素材を探しがてら森で魔物退治をしていたら、見知らぬプレイヤーに話しかけられた。
「…誰、ですか?」
手を止めて声の主をジッと見てみるが、『浮雲』という名前しか分からない。
水色の短い髪に、着物の様な服を着た少しタレ目気味な、にこやかな人族の男だ。
私はこのゲーム内では、私を招待したプレイヤー以外は知り合いはいないはずなので、首を傾げた。そもそもリアルの知り合いだからって、見て分かるものではないし。
「ああ、ゴメンね。ナンパじゃないんだよ。
道化師の初期装備の女の子が、レベルの高いモンスターもいる森に入って行ったから、危ないよって忠告しようと思ったんだけど…」
何だ、ただの良い人だった。
「君…【道化師】…なんだよね?」
「はい。メインジョブは【道化師】です」
「何で【道化師】のご新規さんが、ワイルドベアーに馬乗りになってタコ殴りにしてるの?」
ワイルドベアーとは、私が跨っている熊型の魔物の事だ。
熊と恐れる事無かれ。通常の熊より大分小さい。そしてなぜ馬乗りになっているかと言うと、この熊の弱点が鼻だったからだ。
セブン Lv.6(1↑)
SP:2
【道化師】Lv.5【木工】Lv.4
HP 125/190
MP 30/35
STR:13(1↑)
VIT:14
INT:19(1↑)
MND:12
AGI:15
DEX:16(1↑)
LUK:25(2↑)
スキル
【手品】Lv.3(1↑) 【採取】Lv.3(1↑) 【植物鑑定】Lv.4(2↑)
【見切】Lv.6(2↑) 【命中】Lv.4(2↑) 【会心】Lv.3(1↑)
【彫刻】Lv.2(New) 【魔物鑑定】Lv.2(New) 【体術】Lv.3(New)
3000文字位が読みやすいかと心掛けているのですが、ステータスのせいですぐ文字数来ちゃう。
これは、3話完結…しないかも…。