第7話 告白して
【現実】
メイビーが男だと分かって以後、宿屋での部屋割りは、エビさん、メイビー、小十郎で一部屋。
それとは別に僕と凛とで一部屋使っている。
「現実で幼馴染なんだから問題無し」って、エビさんは言う。
確かに問題は無いけどね。
「ねえ翔ちゃん、森に山菜を採りに行きたい」
GOFでは実名で呼ぶなって言ってるのに、凛は僕を〝翔ちゃん〟って呼ぶ。
まぁ、二人きりの時だからいいけど。
「分かったよ。またボディガードすればいいんだろ」
「うん♪」
宿屋の部屋で、凛は嬉しそうに出かける支度を始める。
山菜を入れるバスケットとお気に入りのピンクのレザーブーツ。
日焼け防止の麦わら帽。
可愛いと言えば可愛い。
「早く行こー」
僕の腕に手を回して凛は引っ張る。
引きずられながら表に出た。
宿屋の前の広場になっている場所で小十郎が刀の素振りをしていた。
少し汗ばんで上気した顔。
真剣な眼差し。
やっぱり小十郎は剣道マンって感じだな。
鶴見先輩と似ていて、僕は嫌いじゃない。
「どこか出かけるのか?」
「森まで山菜を採りにいくんだよ♪」
凛は楽しそうにバスケットをクルクル回す。
「ふーん。二人でか」
小十郎はムスッとした顔に成った。
「ドッグには現実で好きな人がいるんじゃなかったか?」
おいおい小十郎、そういうのは男同士の内緒話で済ますもんだろ。
「なにそれ! 私そんなの聞いてないよ!」
凛が焦ってる。
面倒な話になったな。
でも、こうなるのは遅かれ早かれだ。
「うん、片想いだけどね。それに凛はただの近所の子だし。関係ないよ」
「ただの近所の子!? 関係ない!?」
怒り心頭の凛がバスケットを投げつけてきた。
クリティカルしたバスケットはクルクル回って僕の頭に乗っかる。
「もう翔ちゃんなんて知らない! 勝手にすればいいよ!」
凛はそのままドスドス歩いて宿屋の奥に引っ込んだ。
山菜採りは中止だな。
「小十郎言うなよ。話がややこしくなるだろ?」
バスケットを被ったまま困り顔の僕に、小十郎は刀の切っ先を突き付けてきた。
「凛ちゃんはキミの事が好きだな。見ていれば分かる。現実でもそうなんだろう?」
「え、うん、まあ。そうかな」
なんか小十郎が怒ってる。
どうしたんだろう。
「優柔不断な態度が相手の心を傷付ける事もある。覚えておくんだな」
やばいな、怒られてる。
小十郎に先輩の話しをしたのは失敗だったかも。
でも、小十郎は正々堂々としたヤツだ。
今の状況が優柔不断からくる二股に見えたのかもしれない。
怒られても仕方ない気がする。
でもまあ、僕が先輩と付き合うなんて無理だろうけどね。
「大丈夫だよ。現実で好きな人の事はホントに片想い。憧れてるだけだから」
「憧れてるだけ? 告白とか、しないのか」
「まさか! 絶対フラれるし」
「最初から諦めているということか」
「うん、遠くから見ていられればそれでいいんだよ。だいたいその人とは緊張してまともに口も利けないんだから」
「相手は期待して待っているのかも知れないぞ」
「そんな事ないさ。小十郎もその人に会えば分かるよ。あんな綺麗な人に僕なんかが相手にされるワケない。そもそも高嶺の花なんだよ」
小十郎の剣が弧を描いて、僕の頭の上のバスケットを斬り裂いた。
「やらずに後悔するより、やって後悔するべきだろう。男らしくないヤツは好かん」
クルリと刀を回して鞘に戻し、小十郎も宿屋の奥に引っ込んでしまった。
僕は破けたバスケットを首元に着けたまましばらく考えていた。
これはつまり、勇気を出して告白してみろって小十郎は言いたかったんだろうな。
告白。
そんな勇気が僕にあるんだろうか。
【現実】
「頼まれていたイラストです」
部活が終わった放課後。
僕は学校帰りの道の途中で先輩に声をかけて、オカメインコのイラストを手渡す。
「ありがと」
普段は笑顔を見せてくれる先輩が今日は何故か沈んでいる。
どうしたんだろう。
でも僕は今日、一大決心をして先輩を呼び止めたんだ。
「聞いてもらいたい事があります。少し時間いいですか」
先輩に頼んで、並んで一緒に歩いた。
僕らは無言だった。
川面に反射する夕焼けが綺麗だった。
学校からしばらく歩いた片品川に架かる橋の真ん中で僕は先輩を振り返った。
周りには誰もいない。
僕らしかいない。
先輩が僕をじっと見てる。
真剣な顔をしてる。
やばい、緊張する。
でも決めたんだ。
やらずに後悔するより、やって後悔する。
小十郎に背中を押してもらったから、勇気を出そうと思ったんだ。
「つ、鶴見楓さん」
「はい」
「ぼ、ぼ、僕は。あ、あ、あなたの事が……」
夕焼けに染まった先輩が黙って僕を見てる。
クリッとした綺麗な瞳で僕を見てる。
「好きです」
言ってしまった。
時間が固まる。
胸が苦しい。
間がもたない。
フラれるならフラれるで早く終わってくれ。
「ん、分かった」
先輩は伏し目がちに、ちょっと笑った。
「だったら逃げないで、また私の絵、描いてくれる?」
奇跡が起きた。
その日から先輩は、僕の彼女に成った。
優柔不断は相手を傷付ける。
小十郎の言った事はもっともだと思う。
だから僕は凛の家を訪ねて直接会って伝えた。
鶴見先輩に告白して付き合う事に成ったってハッキリ言った。
凛は泣いていた。
もう僕の顔なんか見たくないって言った。
でも仕方ない。
二股かけるなんて最低だし、僕は先輩を失いたくない。
時間が要るだろうけど、いつか許してもらえるんじゃないかって、そう思ってた。
次の日にログインしたら、凛のMBNPCは消去されていた。
【G・O・F】
今日は南の谷でオーガーを倒した。
凛が抜けて四人パーティだったけど戦力的にはほとんど影響がない。
困りはしない。
戦いの後に美味しい手料理が食べられなくなった事以外は。
オーガーの体から金目の物をはぎ取って、近くの草原で保存食の干し肉とワインで軽い食事を済ませる。
凛がいてくれれば羊肉のステーキとか、豚肉のニンニクソテーとか食べていられたはずだった。
硬めの干し肉を何とか噛みちぎりながら、エビさんは僕の肩をポンポンって叩く。
「どうしたドッグ、元気が無いな。また恋の悩みか?」
流石は人生の先輩エビさん。当たらずしも遠からず。
「現実で何かイヤな事でもあったのか?」
小十郎とメイビーも隣で聞いてる。
仮想現実だけど、僕はオカメインコの仲間たちに心を許していた。
いっそ悩みを聞いてもらった方が気持ちが楽になるかな。
「実は、現実で好きな人に告白して……」
「フラれたのか」
エビさんが珍しく外れ。
「いえ、OKもらったんです」
「だったらなんで落ち込む?」
「その代わり、凛がいなくなったでしょ」
「ああ、凛ちゃんがいなくなったのはそのせいか」
エビさんは得心した様子だ。
「え~っ。やっぱり凛ちゃんもう来ないのぉ? ボクもうこのパーティ抜けよっかなぁ」
メイビーがふて腐れて口を尖らせる。
「まぁそう言うな。また新しく仲間を見つけるから。イチゴ飴食べるか?」
エビさんに諭されたメイビーはムスッとしつつも、飴玉を口に入れた。
「では、凛ちゃんに伝えたという事だな? その人と付き合うと」
小十郎は真剣な表情だ。きっと凛の事を心配してるんだろうな。
「うん。だから今へこんでる。凛を傷付けたから」
「そうか。だが仕方ない事ではないのか?」
「そうだけど」
「態度をハッキリさせたんだな。見直したぞ、ドッグ」
小十郎はちょっと嬉しそうにしている。
他人事だと思ってるな。
いい気なもんだ。
「凛ちゃんは可愛いから、きっと素敵な人と出会えるだろう」
「うん、まあそうだろうね」
「もう落ち込むのはやめろ。これから先の事を考えるべきだろう」
小十郎の言う事も一理ある。
「これから先か」
「そうだとも」
確かにそうだな。
僕にはこれからバラ色の日々が待っているんだから。
「分かったよ小十郎。よし! 先ずは彼女をデートに誘おう」
「そうか、デートな」
「それから手をつなぐ」
「ああ、手な」
「そして、キスをする!」
「キ、キスか」
「それから……」
「もっ、もういいっ! 口に出さないで!」
「あ、うん。そうだな。なんか僕、先走った」
興奮して妄想を口にしてしまった。
「ここにいるのが全員男だからつい油断した。気を付けるよ」
「そ、そうか。ホドホドにな」
小十郎は顔を赤くして僕から目線を外す。
ちょっと恋話しただけなのに照れ屋なヤツだ。
僕と同じで、きっと童貞に違いない。




