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NPCs  作者: 米川 米三
6/18

第6話 プレイスタイル

【現実】

 夜。

 僕が自室で勉強していたら凛が勝手に入って来て、ベッドにゴロンって横になって、マンガを読み始めた。

 父さんから家の鍵を渡されてるから凛は時々勝手に入って来る。

 困ったもんだ。


「ねえ翔ちゃん、この単行本の続きは?」


「それが最新刊だからそこまでだよ。って言うか、お前も受験勉強しろよ」


「今は休憩中だもん」


 家族と言うか、妹みたいなノリなんだよな。

 実際小学生までは僕の事『お兄ちゃん』って呼んでたし。

 マンガを読み終わったと思ったら、今度はテレビを点けてゴロゴロし始めた。

 遊ぶのはGOFの中だけで充分だろうに。

 勉強の邪魔してくれるなよ。

 それにさっきからミニスカートがめくれてパンツが見えてる。


「凛」


「んー?」


「パンツ見えてる」


「んー」


 ボリボリって、パンツの上からお尻を搔いてる。

 フツーは『きゃあっ、エッチ!』とかいってポカポカ殴ってきたり、頬を赤くして慌てて逃げ出すところだろ。

 恥じらいも何も無い。

 ここまで来るともう家族だ。

 僕は溜息をついて、また数学の参考書に目を落とした。

 テレビでは、月を発った月面基地の職員たちが無事に地球へ帰還した事を伝えている。


「良かったね~」


 凛は嬉しそうだ。

 職員の属する各国も喜びに沸いている。

 でも報道では更に、無人に成ったはずの月面基地が未だに稼働しているのではないかという情報が取り扱われていた。

 誰もいなくなったはずの基地で発電機が動き、内部で機器類が動作しているらしい。

 おそらくソーラーパネルが未だ生きていて、生命維持装置が自動的に立ち上がったのだろうと言う専門家の見解が披露されている。

 でも何となく得体が知れなくて不気味だ。

 次に報道されたのは、日本に敵対している国が核ミサイルを準備してるって事だった。


「核ミサイル、ホントに飛んで来るのかな」


 僕と凛は先週一緒に『核の脅威』のドキュメンタリー映画を観たばかりだった。

 だから特に恐く感じたんだろう。

 あそこまでキツイ映像をよく地上波で放送したもんだ。


「大丈夫だろ。自衛隊もアメリカもいるし」


「うん……」


 よっぽど不安だったみたいで、凛は僕の腕にしがみついてきた。


「もしも核ミサイルが来たら、翔ちゃんがそばにいてくれる?」


 中学生は特に多感だし、凛は恐がりだから、言ってあげないと眠れなくなりそうだな。


「分かったよ。ずっと一緒にいるよ」


 そう言って頭を撫でてあげると、凛は安心した時に見せる微笑みを浮かべる。

 僕の頭に自分の頭を付けてきた。


「絶対だよ。約束だよ」


 頬を重ね、しばらくそのままでいた。

 僕にとって凛は完全に妹だなって、そう思った。




【G・O・F】

 GOFからメイビーが消えた。

 オカメインコはいきなり四人パーティに成ってしまった。

 確認したら、キャラクターそのものが消去されたらしい。

 ギルドの待機所でテーブルを囲み、僕ら四人は困り顔。

 昼食時だったから、取りあえず頼んだ串焼きのオードブルとハチミツジュースに手を伸ばしていた。


「あれだけ恥をかいたんだ、仕方ないかもな。微妙な年頃だし」


 エビさんはヤレヤレって顔で腕を組んだ。

 魔法使いスキルは育成に時間がかかるから希少価値だったのに。

 また新しくメンバー探さなきゃダメみたいだ。


「凛、魔法使いスキル覚えてみないか?」


「難しそうだし。自信ないよ」


「そうか」


 凛は性格的に戦闘に向いていない。

 無理強いは酷だな。

 これからどうしようかとみんなで思案してたら、初対面のクセに見慣れた雰囲気の何者かが現れた。


「そこの君たち、お困りのようね。魔法使いをお探し?」


 僕らが振り返ると、銀髪ツインテールの可愛いキャラが立っている。

 魔法使いLV1で、今日生成されたてホヤホヤのハーフエルフ少女。


「せっかく魔法使いLV6まで育ってたのに。なんでリセットするんだ? メイビー」


 僕の問いかけにこいつは焦り出す。


「メイビーって誰の事かしら。ワタシの名前はパーハプス。女の子よ」


「うん、分かったから。さっさと登録し直してきなよ、メイビー」


「ボクはパーハプスだってば!」


 往生際が悪いってこの事だなって思った。


「どっちでもいい。こっちへ来て食べな。豚串好きだろ」


 エビさんがメイビーに目の前の食事を勧める。

 ちょっとためらってから、メイビーは言われるまま豚串を手に取って、プリプリした顔のまま食べ始めた。


「いっぱい食べて大きく成れよ」


「ふん!」


 タレを口の周りに付けながら怒って見せたメイビーは、そのままギルドカウンターへパーティ加入登録しに向かった。

 彼のその姿をエビさんは愛おし気に見ている。


「エビさん、メイビーの扱いが手慣れてますね」


「んー、そうだな」


 エビさんはポリポリと頭を搔きながら自分も串焼きを手に取った。


「息子と同じ歳なんだ」


 そう言うエビさんの顔は、父親の暖かい顔に見えた。




 今日は西の街近辺に出没するトロール退治に出かけた。

 川沿いに続く森道を五人で歩き続ける。


「もう少し金が溜まったら、全員分の馬か馬車を買いたいな。移動が楽になる」


 エビさんはすっかりパーティリーダーに成ってて、お金の使い道も無駄が無いように細かく管理してくれている。

 ありがたい存在だ。

 最近僕は戦士LV7斥候LV2に成った。

 もう近隣の強敵となら互角以上に戦えるレベルだ。

 みんなの強さも同様に上がってきている。

 でもオカメインコメンバー内では特に小十郎の戦闘力が群を抜いている。

 いいヤツだし頼りになるからありがたいんだけど、最近ちょっとやりづらい。

 かなり強いせいで小十郎は他のパーティから引き抜きを受ける事がある。

 おまけに美形の剣士キャラで、ゲーム内でも女の子の扱いが上手くて、他の女性MBNPCから告白された事だってある。

 モテモテだ。

 でも仮想現実で美形でも現実でもそうとは限らないし、小十郎の主人格がどんな男かなんて、誰も分からないのに。

 案外、薄暗い部屋の中でモンモンと過ごしてるネトゲ廃人なのかも知れない。

 あれ?もしかして僕は小十郎に嫉妬してるのか?

 道中、僕は隣を歩く小十郎をそんな風に意識して見ていた。

 一人の男として、この内心のモヤモヤは情けない気がする。

 そんな内心を掻き消したかったから、僕はあえて小十郎に話しかけるようにしていた。


「小十郎は剣士LV5か、でも実力はそれ以上だよな」


 こいつは今の時点でLV30以上の戦闘能力がある気がする。


「ドッグもフリーモーションでやってみたらどうだ? 面白いぞ」


「それはちょっと。難しそうだからなぁ」


 僕がためらってたら、エビさんが僕の肩に手を置いた。


「いいと思うぞ。フリーモーションで強く成ればオートモーションと切り替えて使って、スキルチャージ中のラグを補える」


 確かにそうなんだけど。


「二人で試合して、お互いに慣れてない事を教え合ったら良いんじゃないか?」


「ふーん。なるほど、面白そうだな」


 エビさんの提案に小十郎が乗り気になってる。

 おいおい、フリーモーションで小十郎と試合だなんて殺される気がするよ。

 でも結局この場で試そうって話になっちゃって、僕は仕方なく剣と盾を構えた。

 小十郎は楽しそうにブンブンと日本刀を素振りする。

 パーティ内で小十郎の剣に付き合えるのは僕だけなんだ。

 参ったなぁ。


「万が一のために二人の貴重品は凛ちゃんに預けてある。安心して死んでいいぞ」


 他人事だと思って、エビさんは気楽に言ってくれるよ。


 仕方なくHP半分で降参のルールを決めた。

 他の三人に見守られながら僕らは試合を始める。


「ハッ!」


 小十郎が鋭く息を吐いて打ち込んでくる。

 予想通りの凄い速さだ。

 僕は必死に防御する。


「盾か! 上手いな! だがいつまで防げるかな!」


 攻撃に特化した小十郎相手ではどうしても防戦一方になってしまう。

 しかも攻撃は治まるどころか更に速度を増して僕の防御を突き崩してくる。

 防御の隙間を突かれ、僕のHPはどんどん削られ続けた。

 このままだと盾も破壊されて無防備になる。

 何も出来ないうちに完敗する。

 もう僕のHPは四分の三。

 小十郎め、流石だな!でも僕にだって先輩ゲーマーとしての意地がある。


「バッシュ」


 僕は小声でつぶやき、盾を正面に据えたまま瞬間的に間合いを詰める。

 戦士LV5の特殊スキルだ。

 小十郎の攻撃を弾き飛ばし、彼の体にも衝撃を伝えた。


「きゃ!」


「きゃっ」て、こいつは時々オカマっぽいんだよな。

 ヘンなヤツ。

 小十郎はバランスを崩して茂みの中へと転がった。

 少しHPも削れたはずだ。

 でも相手の体制を崩す以上の効果はこのスキルに期待できない。


「やるじゃないか!」


 身体に雑草を付け茂みから起き上がった小十郎は、まだまだ元気だ。

 楽しそうに刀を正眼に構える。

 ホントに剣術が好きなんだな。

 この構え方なんてまるで鶴見先輩みたいだ。

 僕はこれでスキルポイントを使ったからポイントチャージに時間がかかる。

 フリーモーションプレイ、試してみるか。


「FMP、エナベル」


 その言葉で、僕はフリーモーション設定に成った。


「そうこなくちゃ!」


 小十郎の剣がまた僕を襲い始める。

 今までの闘いで僕の目はある程度動きに慣れてたから何とか対応した。

 防御に専念すれば致命傷は防げる。

 でも攻撃する隙が見つからない。


「どうした。縮こまっていても勝てないぞ」


 くっそお。

 小十郎め調子に乗ってるな。

 僕は一か八か、彼が刀を上段に振りかぶったタイミングで胴を薙ぎ払った。

 僕のブロードソードが彼の胴体に当たる瞬間と、彼の日本刀が盾ごと僕の肩をカチ割る瞬間は同時だった。


「うわっ!」


「きゃあ!」


 僕らは同時に倒れ込み林道から転がって、道の脇に広る河原に突っ伏した。


「いててて……」


 クリティカルに近いダメージを食らって、もうHPが半分以下。

 僕の負けだ。


「やっぱりちょっと痛いな。ここまでHP削られたのは初めて」


 小十郎は笑って立ち上がる。


「次はオレがオートモーションを使う。ドッグ、スキル発動のコツを教えてくれ」


 小十郎はエビさんに頼んでHPを回復させ、二度目の試合を始めようとしてる。

 まだまだ止めようとしてない。

 ヤレヤレ、この剣術オタクめ。

 でも僕もちょっと楽しいから、まぁいいか。



 その後、首尾良くトロール退治に成功して、みんなそれぞれLVアップ。

 でもそれ以上に変化した事は、その日から毎日のように暇を見つけては僕と小十郎が剣術の試合に励むようになった事。

 互いに苦手なプレイスタイルを教え合い、僕らは実LV以上に能力を発揮できる。

 僕は試合を通じて、ますます小十郎を信頼するように成っていた。


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