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NPCs  作者: 米川 米三
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第4話 夕日

【現実】

 僕はひたすら落ち込んでいた。

 鶴見先輩にあのスケッチブックを見られた。

 あれはもうやばい。

 あなたの事をいつも見てます宣言に等しい。

 そんなのまるでストーカじゃないか。

『高校生ストーカー犬飼翔一』

 最悪だ。

 もう剣道部の練習風景を見に行くなんて恥ずかしくて出来ない。

 唯一の先輩との接点だったのに。

 自室のベッドの上で恥ずかしさに悶絶しながらゴロゴロ転がってたら、一階から僕を呼ぶ声が聞こえた。


「翔ちゃーん、ご飯だよー」


 また凛が台所から呼んでる。

 悩んでいても腹は減るから食べに行こう。

 今日は父さんが出張中でいないって話したら、凛が晩御飯を作りに来てくれた。

 僕はテーブルに着いて、二人分のウーロン茶を注ぎながらテレビを点ける。

 テレビはニュース特番で月面基地で起きた爆発事故を繰り返し伝えていた。

 基地で働いていた二四人の職員たちは月往還船で地球に帰るらしい。

 火星開発の足掛かりとして作られたばかりだったのに、これは残念。


「月の人たち、みんな無事に帰って来れるといいね」


 凛は大概の物事に同情する。

 他人や物に対しても同情して泣く事がある。

 優しいというか、お人好しというか。

 その優しさで受験勉強の合間を縫ってご飯を作りに来てくれてるから感謝なんだけど、平均点は取れてないとウチの学校は厳しいはず。

 大丈夫かな。


「今日は肉ジャガ。頑張ったんだよ」


 凛はゲームでも凛。

 フルスキャンでキャラ生成してるから本人とBMNPCとの外見は髪の色以外同じ。

 相変らず戦闘スキルは習得しないけど、それならそれなりの活躍が出来るし、個性を楽しむのもゲームの一つだから仲間たちからダメとも言われてない。

 そもそも凛は家庭的な性格で家の中の事をするのが好きな子だ。

 最近は現実でも料理の腕前が確実に上がってきている。


「凛はさ、いい嫁さんに成るよな」


「えっ? やだもおっ。これ以上何も出ないよ♪」


 凛は嬉しそうにしながらテーブルに着いて、一緒に肉ジャガを食べ始めた。


「頑張って自分に釣り合ういい男、見つけろよ」


 僕がそう言ったら、凛は持っていた箸をパシンってテーブルに置いて、食べかけの肉じゃがを鍋に戻して蓋を閉めて、それを持って、何も言わずに僕の家から出て行った。




【G・O・F】

 五人に成ったし小十郎は強そうだから、ちょっと無理して熊退治のクエストに挑戦してみる事にした。

 熊と言っても(あなど)れない。

 北海道のヒグマに似ていて、ゲーム内の通常野生動物では二番目の強さだ。

 ちなみに一番はサーベルタイガー。


「腹ごしらえしてから棲息エリアに入ろう」


 エビさんの提案で僕らは背中の荷物のキャンプ用品を拡げる。

 調理は凛がリーダーシップを取って、みんなが手伝うスタイル。

 エビさんは火おこし、小十郎は近くの小川で水汲み、メイビーは凛と一緒に食材の準備を始める。


「凛、僕は何をしようか」


「知らない。適当にその辺歩いてればいいよ」


 まだ怒ってる。

 これは時間がかかりそうだ。

 仕方ない、小十郎の水汲みでも手伝おう。


「すまないなドッグ。二人でやればすぐ終わる」


 小十郎は案外礼儀正しいヤツで僕は安心している。

 ちなみにこの世界ではちゃんと疲労値もカウントされていて、無理な運動を続けるとスタミナを消費して動けなくなる。

 特に苦しくはないけれど、これも現実再現度が高い。

 でも水汲み程度なら疲労も微々たるもの。

 革袋を抱え、鼻歌交じりで小十郎と一緒に小川まで来た僕は、ちょっとブルっとなった。

 オシッコがしたい。

 冷えた小川の冷気を吸い込んだからかもしれない。

 そしたら隣で小十郎もブルッと震えた。

 生理現象が同じタイミングなのはパーティ仲間として好ましい。


「ハハハ、冷えるな。連れションでもするか」


 僕は小川に向かって立ち、ベルトの下をゴソゴソし始める。


「待て、こんな場所でするのか?」


 小十郎が慌ててる。

 割と気にするタイプか。


「気にしなくていいよ。現実と違って川は汚れないから」


「そっ、そういう問題じゃない!」


「さっさと済ませようぜ。生理現象の我慢は体に悪い」


 僕は小川のほとりで仁王立ちしながら小十郎を横目で見た。


「わたっ……オレは向こうへ行く。来るなよ! 見るなよ!」


 小十郎は顔を赤くして、茂みに向かって歩いて行く。

 なんだ、ずいぶんと照れ屋だな。

 彼は僕から随分遠ざかって、草が高く生い茂ってる場所に着いたらその場でしゃがみ込んだ。

 なるほど、大きい方だったか。



 腹ごしらえを済ませた僕らは熊の出没エリアに足を踏み入れる。

 そいつはヒグマよろしく、小川で魚を取って食べていた。

 熊は冷気耐性が強いから氷魔法は使わないようにと、エビさんから指示が出る。

 僕らは打ち合わせしたとおりの陣形を組んで、熊との距離を測った。

 ブロードソードにカイトシールド装備の僕が前衛。

 少し間を取って小十郎が日本刀を構える。

 その後ろに神聖魔法を準備するエビさん。

 メイビーは先制攻撃の火球魔法を唱え始める。

 更に下がって森の茂みに凛が身を隠す。

 エビさんが考えたフォーメーションだけど、無難な布陣だと思う。

 メイビーの火球魔法が杖の先から放たれ、熊の脇腹に当たって炸裂した。

 戦闘開始だ。



 少し手こずったけど、何とか熊を倒した。

 戦闘の展開はおおよそ想定していたとおり。

 僕がパーティの壁役で攻撃をしのいで、小十郎が隙を見つけては連続攻撃して。

 エビさんは防御と回復魔法に専念。

 止めはメイビーの雷撃魔法。

 みんなで活躍出来たけど、驚いたのは小十郎の剣さばき。

 LV1キャラとは思えない華麗な身のこなしで、次々とダメージを与え続けていた。

 一緒に戦って、やっと彼の強さの理由が分かった。

 基本動作を自動制御にしていないからだ。

 ゲームシステム上、格闘系キャラはLVに合わせて強さが上昇するように調整されている。

 だから格闘技や弓術なんかの経験が無い人でも、LV上昇と同時に動き方が自動的に熟達したものに変わっていく。

 誰もが平等に楽しむためのシステムだ。

 でも稀に現実で強い人が自動制御をカットして、自由な動きで戦う場合がある。

 〝フリーモーションプレイ〟と言われるんだけど、LVに応じた特殊スキルが出せなくなる欠点がある。

 小十郎はこのフリーモーションだ。

 そして彼の動きは剣道に似ている。

 太刀筋とか、足の運びとか。


「小十郎は現実で剣道やってる人か?」


「分かるか」


「うん、多少アレンジ入ってるみたいだけど。基本が剣道に見える」


 小十郎は日本刀をクルリと回して(さや)に戻す。


「あれだけ見てればね」


「え?」


「いや。なんでもない。気にするな」


 彼はちょっと慌てた様子だ。

 どうしたんだろう。


「熊さんが可愛そうだよ」


 今まで茂みに隠れていた凛が出て来て、倒れている熊の前で泣き始める。

 去年の北海道旅行の時に旭山動物園で観た熊を思い出したみたいだ。


「そうだな。気の毒だな。別に悪い事はしてなかっただろうし」


 小十郎まで凛に同調し始めた。

 一番ダメージを与えてたのはキミだろうが。

 凛に泣かれたから僕らは熊をその場で剥ぎ取りするのを諦めて、ギルドからの賞金だけで満足する事にした。

 それと、今後は人食いでも無い限り野生動物討伐クエストは受けない約束をした。

 でも野生動物はNPCですらない、単なるクリーチャーオブジェクトなんだけど。

 しょうがないな、女の子は物にも感情移入し易いからな。



 この場所は街から距離があるから今夜はここでキャンプする事になった。

 その辺の木の枝を折って骨組みを作り、上から広葉樹の枝や葉を被せる。

 急ごしらえのテントを男女それぞれ用に二つ。

 アウトドアは僕の斥候スキルの専売特許だから、喜々としてみんなに指示を出す。


「エビさん。そこは湿ってるから杭の場所をずらしましょう」


 作業中のエビさんに声をかけたけど上の空だ。

 どうしたんだろう?

 彼は丘陵に沈みかける夕日を見ていた。

 僕も同じ夕日を見る。

 ああ綺麗だな、と思った。

 仮想現実なのに本物以上に美しく見える夕日、夕焼け。

 エビさんみたいに家庭を持っている人は情感が豊かなのかなと思っていた。


「水野さん」


 エビさんがつぶやいた。

 〝水野〟って誰の事だろう。

 僕は気が付いた。

 夕日を背景にたたずむワンピースを着た女性。

 GOFの世界観にそぐわない、現実の普通の身なり。

 腰まで伸ばした黒髪。

 逆光で見えづらいのに分かるくらい上品な微笑み。

 僕とエビさんが見守る中、彼女は夕日に溶け込み薄くなり、姿を消した。


「今の人、誰ですか」


「気にしなくていい。たぶん管理スタッフだろう。なんで入って来たのかな」


 エビさんはそれ以上話さなかった。

 GOFの運営をするのは『ポッポン』という名のゲーム会社。

 サーバーは前橋に在る。

 そこの関係者じゃないかとの事だったけど、何故エビさんがその人の名前を口にしたのか。

 疑問が残った。

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