第2話 想い人
【G・O・F】
エビオと一緒にドラゴンの見える丘に来た。
確かにここからは遠目でドラゴンが見える。
赤黒くて翼がでかくて巣の周りをウロウロしてるだけなんだけど、かなり強そうだ。
今の僕は戦士LV2だから近寄れば瞬殺されるのは確実。
見るだけで満足しておこう。
エビオとうなずきあって町に戻ろうとした時、そのドラゴンに向かって誰かがヒョコヒョコと歩いている姿が見えた。
遠くて良くは分からないけど、セミロングの赤毛で小柄な女の子に見える。
武器も持たずにたった一人でドラゴンに挑むなんて、相当なレベルの魔法使いかもしれない。
僕らは様子を見ていた。
そのキャラとの距離が近くなると、ドラゴンはムクッと起き上がって炎を吐く。
女の子はあっという間に黒コゲに成ってパタッと倒れた。
あれは即死だろう。
バ、バカか?
面白かったからエビオと一緒にゲラゲラ笑ってたらドラゴンが気付いて、もの凄い勢いで迫ってくる。
僕らは慌てて逃げ出した。
やっとの思いで町に戻った僕らは、あの女の子が何故ドラゴンに向かって行ったのか気になっていた。
MBNPCだとしたら神父に怒られながら復活してるだろう。
エビオと一緒に教会へ行ってみた。
そしたら案の定セミロングの赤毛で小柄な女の子が下着姿に成ってワンワン泣いている。
「キミ、さっきドラゴンに焼かれた子だよね」
僕が話しかけたら、その子は泣きながらうなずいた。
あれ?この子、凛とそっくりだ。
「何故あんな無謀な事をしたんだい?」
「友達になりたかったの」
有名な映画で友達に成ったドラゴンの背中に乗って空を飛ぶシーンがあったから、それが出来ると思っていたらしい。
この子はバカと言うより、このゲーム内での常識知らずなんだなって理解した。
でも所持品が下着だけだと困るだろうし。
凛かもしれないし、助けてあげよう。
「キミ、名前は?」
「り、凛です」
やっぱり。
キャラクター名は『パピコ』で、好きなアイスから付けたらしい。
でもいきなり本名を名乗るし、ネットゲームに慣れてない事がバレバレ。
『ドッグ』という名前のキャラを探して探して、やっとこの町までたどり着いて、僕らがドラゴンの見える丘に向かったって聞いて勇んで出かけた結果、黒コゲ。
僕がドッグだって名乗ったら、オイオイ泣きながら抱きついてきた。
うん、まぁ、懐いてくれるのは有難いんだけどね。
卯月凛さん。
エビオは「良かったね。これからはいつも一緒だね」って他人事みたいに言うし。
まったく、先が思いやられる。
エビオには彼女の本名は秘密にしてくれって頼んだ。
凛は隣の家の中学生で、現実で幼馴染だって話した。
そしたらエビオはちょっと苦い表情を浮かべる。
「例え約束しても仮想現実では只の口約束でしかないだろう」
確かにそのとおりだ。
「キミは悪いヤツじゃないと思うから、俺の本名と電話番号を教える。現実で連絡を取ろう。その時キミの本名も俺に教えてくれ。それで安心だろ」
エビオが良いヤツで助かったよ。
エビオは『海老名彰夫』と名乗って、電話番号を教えてくれた。
でも凜はこの町に来るまで知らない人に本名を名乗りまくってたから、もし訊かれてもキャラクター名はやっぱり『リン』って事で押し通すように言い含めておいた。
そんなに珍しい名前じゃないし、自キャラ名は勝手に表示されないし、何とかなるだろう。
そんなこんなで、今日は凛のお陰で慌ただしかった。
三人以上で組むとゲーム内でパーティとして認められる。
ギルドに申請しておけばサーバーからの通知情報もパーティ用に成るし、パーティ用クエストも受ける事が出来る。
遠く離れた場所で死んでも復活する教会の場所が同じなところも便利だ。
申請にあたって、パーティ名称を決めなければならない。
だから三人で相談して決めようと思ってたのに、凛が勝手に申請書に書き込んだから、それに成ってしまった。
パーティ名『オカメインコ』
「これって一人一枚ずつ出すんじゃないの?」
卯月凛さんの天然、いただきました。
一度登録したらもう変更できない。
自分が飼ってるからだろうけど、もっと強そうな名前にして欲しかった。
【現実】
今日は部活動も塾も休みだから、僕は真っ直ぐ帰宅する。
GOFでは今頃コボルド討伐クエストをしているはず。
成功してるかな。
僕らのオカメインコは、まだまだ駆け出しパーティ。
名声値も低い。
名声値を上げれば街中でNPCから声援を送られたり、買い物で値引きが効いたりもする。
更に名声値が上がれば王様に謁見出来たりゲーム内で家を購入出来たりもするから、今から楽しみだ。
勉強のことそっちのけでそんな考えをしながら歩く。
国道沿いに出たところで突然、彼女が脇道から現れた。
「あ、犬飼くん。偶然ね」
「そうですね」
鶴見先輩だ。
なんでいきなりこんな場所に現れるんだ?
先輩の家は反対方向のはず!
僕が内心でシドロモドロしてたら先輩は笑って。
「そこのお店の焼きまんじゅうが美味しいって聞いたの。犬飼くんも食べてみようよ」
ここから歩いてすぐの場所にある焼きまんじゅう専門店。
お爺ちゃんが作りたてを売ってる。
一串三〇〇円。
「食べてみます」
僕と先輩は一緒に焼きまんじゅうを買って、食べながら国道沿いを歩く。
「美味しいね」
「ええ、まあ」
味なんて分かるワケない。
なんなんだこの突然の展開は。
まるでデートしてるみたいじゃないか!
「犬飼くんってクールって言うか、表情あんまり変えないよね。口数も少ないし」
「そうですか」
緊張して何を話せばいいか分からないだけです。
「犬飼くん、いつも体育館にスケッチしに来てるでしょ。どうして?」
そんなのあなたに会いたいからに決まってます。
「デッサンの練習です」
「ふーん。デッサンかぁ」
先輩は焼きまんじゅうをモグモグしながら話し続ける。
小さめの綺麗な唇。
やばい、口元まで可愛い。
色っぽい。
「犬飼くんってさぁ」
先輩は焼きまんじゅうを片手に僕の前に回り込んだ。
「ウチの剣道部とネット挟んで練習してるバレー部と、どっちの絵を描いてるのかなって女子の間でちょっと話題になってるの、知ってた?」
話題になってたのか。
僕の事なんて放っておけばいいのに。
「いえ、知りません」
「誰の絵を描いてるのかってみんな気にしてるから、私が代表して調査してたの。時々話しかけてたでしょ」
「そうですか」
調査されてたのか。
スケッチブックの中身は絶対見られるワケにはいかない。
気を付けよう。
でもこれで先輩が個人的な気持ちで僕に話しかけてたんじゃない事が分かった。
正直、がっかり。
「私、犬飼くんの事気にしてる人、知ってるんだけど」
「そうですか」
「犬飼くんは勉強出来るし、クールでカッコイイって」
「それは、どうも」
「犬飼くんって本当なら高崎に通えたはずなのに、なんでウチの学校なの?」
「家が近いので」
「ふーん。犬飼くんっていつも学年で五位以内だよね。凄いって、みんな言ってる」
ありがたい評価だけど。肝心のあなたはどう思ってるんでしょうか。
「美術部でモテてるでしょ」
「いえ」
実は美術部の女子から告白された事があるけど、他に好きな人がいるからって断っていた。
不愛想なガリ勉根暗メガネオタクなのに、何故自分を好きになってくれたのかは解らない。
「そうそう、こないだ犬飼くんが言ってたゲームだけど」
「GOFですね」
「検索してみたけど、本格的なやつみたいね」
まさか、先輩もやるつもりなのか?
「私、ゲームとか知らなくて。まだ美術部の方が分かり易いかな」
「そうですか」
またがっかり。
「美術部って見学しに行ってもいいのかな」
その後、鶴見先輩が暇な時に美術部を見に来るって話になった。
なんでこういう展開になったのか分からないけど。
やばい、今から緊張する。




