表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NPCs  作者: 米川 米三
14/18

第14話 寝たフリ

 地下鉄の出入り口まで来た僕らは、金属バットを持った三人の男たちと出くわした。

 ごく普通の服装をしている彼らは暴徒や無法者には見えない。


「随分と物騒なモノ持ってるな」


「護身用ですよ」


「俺たちもそうだ」


 男はバットを肩に担いだ。


「獅子内の話は聞いてただろ? 女連れは危険だぞ」


「そうですね」


 僕は一応、警戒していたつもりだった。


 いきなり後ろからバットで殴りつけられる。

 肩と背中に激痛が走った。


「犬飼くん!」


「だから危険だって言ったろ」


 アスファルトに突っ伏した僕を尻目に、男たちは先輩を取り囲む。


「あんた綺麗じゃないか。ここでは未だなんだろ」


「せっかくなんだから楽しもうぜ」


 先輩に向かって男の一人が手を伸ばす。

 でも相手が悪い。

 先輩の鉄パイプが閃き、手前の男の上腕を叩き折った。


「ギャアアッ!」


「スキル持ちか!」


「調子に乗らせるな!」


 僕が出る幕は無かった。

 三人全員を散々叩きのめし、先輩はクルリと鉄パイプを回して腰の位置で止める。

 手足を折られてウンウンうなってる男たちを無視して、先輩は僕の腕を取った。


「大丈夫?」


「ええ。流石ですね」


「犬飼くんには盾があった方がいいかもね」


「ええ、まあ」


 先輩の手を借りた僕は苦笑いして起き上がる。

 彼女の手に触れるのはこれで二回目だ。


「そこの金物屋さんにフライパンがあるわ」


 僕は大ぶりのフライパンを手に入れた。

 見た目はカッコ悪いけど、GOFでのスキルを活かせそうだ。


 笹塚駅の切符売り場まで来た僕らは戦慄した。

 周囲には何人も人が倒れていて、床面に血液の絨毯を広げている。

 たぶん死んでる人もいるだろう。

 法律が消滅したら人間なんてこんなモノなんだろうか。

 個人のモラルは当てにならないものなんだろうか。


「きゃあああっ!」


 改札口を越えた駅構内の奥から悲鳴が響き聞こえた。

 あれは凛の声だ!

 自動改札を乗り越え僕らは走る。

 凛とメイビーが凶器類を手にした十人近い男たちに取り囲まれていた。


「エビオ! 死んじゃヤダよ!」


 メイビーはシャベルを握ったまま倒れているエビさんにすがり付いている。


「お前ら!」


 僕と先輩は男たちの集団に向かって突っ込んだ。



 先輩と二人で暴漢たちを叩きのめし、蹴散らした。

 中には戦士系スキル持ちも何人かいたけど、先輩とのフリーモーション試合で鍛えられていた僕にとって手強い相手では無かった。

 殺しはしなかったけど追いかけられても困るから、暴漢たち全員の足の骨を折りまくって立ち上がれなくさせた。

 それからエビさんを担いで駅構内から脱出した。

 近くのコンビニ店内に入って、みんなの無事を確認する。

 凛とメイビーに怪我は無かった。

 僕らよりも先に着いて、彼女たちを守ってくれていたエビさんに感謝だろう。

 エビさんには意識はあったけど、頭と肩から血を流している。

 メイビーが泣きながらハンカチで彼の傷口を押さえていた。

 僕はフライパンの活躍で大した怪我をせずに済んだ。

 でも先輩は右腕を怪我してる。

 乱闘の最中にナイフで斬り付けられた時のものだ。


「大丈夫。刀は左で振るものだから」


「そんな問題じゃないでしょう」


 僕はコンビニのタオルで彼女の傷口を縛って、着ていたジャージを使って即席の三角巾を作り腕を養生した。


「……ありがと」


「病院に行きましょう。エビさんと先輩の怪我を診てもらわないと」


 五人で周囲を警戒しながら、アパートから近い医院へと向かった。



 幸い医院は普通に機能していた。

 二人とも大事は無いと医師NPCが言ったから、とりあえず安心する。

 エビさんと先輩の手当てをしてもらい、僕らは家路に着いた。


「明日の日中に俺は学校へ行くよ。信用できるMBNPCたちに声をかけて自警団を組織しようと思う。ドッグと小十郎も参加してくれないか」


 エビさんの提案に僕らはうなずく。彼らしい建設的なアイディアだ。


「状況が改善するまで五人で近くにいた方がいいな。とりあえず今晩、俺をドッグの部屋にいさせてくれないか。メイビーの部屋には小十郎と凛ちゃんでどうだろう」


「その分け方って」


「男女分けだ」


 メイビーって一応男なんだけど。

 もうエビさんの中では彼は女の子扱いなのかな。

 僕が部屋の使い方で試行錯誤していたら、メイビーが頬を赤らめながらエビさんの着る背広の袖を引いた。


「ボクはエビオと一緒にいるよ。エビオが怪我したのはボクのせいだから」


 彼はエビさんをつかんで放さない。

 結局そのまま押し切られた。

 メイビーの部屋にエビさん。

 僕と凛の部屋に先輩が泊まるのか。

 内心、複雑。



「おじゃまします」


 先輩は遠慮がちに僕らの部屋に上がった。

 狭い部屋をクルッと見回す。


「ふーん、ちゃんと片付いてる。凛ちゃんと一緒だから?」


「ええ、まあ」


 凛は向かい側の窓のメイビーに向かって手を振ってから、カーテンを閉めた。


「鶴見さんお腹空いてない? カレーで良かったら食べて」


「ありがとう」


 凛が作ったカレーを三人で食べて、しばらく一緒にテレビを観て過ごした。



「カレー、残ってるね」


「エビさんとメイビーに持って行こうか」


 僕の提案に二人は同意した。

 鍋にお玉を入れたまま凛が運ぶ。

 三人でゾロゾロ押しかけて驚かせてやろうって、ちょっとした遊び心付き。

 道を一本渡るだけだけど、念のため僕と先輩が鉄パイプを片手に周囲を警戒した。

 僕のと同じくらい古いアパートの二階の角部屋。

 先輩がドアチャイムを押そうとした時、メイビーの大声が室内から聞こえた。


「だからもうボクは大人なんだってば!」


 先輩の指がピクリと止まる。

 ボクも凛も固唾を呑んだ。


「もう子供じゃないよ!」


 先輩がドアチャイムから手を下ろした。僕に目配せして、うなずく。


「どうせボクの事、男だと思ってるんだろ!」


 メイビーの涙声を背にして、僕らは足音を忍ばせながら階段を下りた。




 夜九時を過ぎていた。

 もう寝ようかって話して布団を敷く。

 凛は自分の布団でいつものパジャマ姿。

 先輩には僕の布団で、パジャマが無いから僕のジャージを使ってもらう。

 僕のジャージなんて嫌がるかなって思ったけど「ありがと」って、礼を言われた。

 二人が着替えてる間、トイレにこもる。


「もういいよ」


 トイレから出た僕は毛布を被って、手には鉄パイプと懐中電灯。

 そしてドアの前で見張りをする。


「途中で見張り代わるから起こしてね」


「はい」


 先輩が気をつかってくれた。

 四時間後に交代しようって打ち合わせる。


「電気消すよ」


 凛が蛍光灯から吊るした紐を引き、カレーの残り香のする部屋を豆電球で照らした。



 しばらく時間が経った。

 疲れてたんだろう、先輩はスヤスヤと寝息を立ててる。

 僕はコーヒーを静かにすすり、数学の公式や原子配列を頭の中でそらんじていた。


(翔ちゃん……)


 いつの間にか僕の隣に凛が座っている。


(どうした。眠れないのか?)


(うん。メイビーの事、気になって)


(ああ、心配だな)


 たぶんあの時、メイビーはエビさんに告白したんだろう。

 そしてエビさんは大人の対応をした。

 そんなところだ。


(メイビーがエビさんを好きな事、私は知ってたの)


(そうか)


 エリア九〇に来てからずっと、凛とメイビーは仲良くしてたから僕は驚かない。


(初めてするのはエビさんがいいって、メイビー言ってたの)


 〝する″って。

 そこまでの女子トークするくらい仲良く成ってたのか。


(ねえ、翔ちゃん)


 凛は僕の被る毛布の中に一緒に入って、手を握ってきた。


(私は翔ちゃんがいいよ)


 僕は凛の手を握り返した。


(分かってる)


 僕は先輩の様子を横目で見てから、少しだけ凛の唇に唇を重ねた。


(もう寝な)


 でも凛は言う事を聞かない。

 握った僕の手を引き寄せ、密着させた。


(翔ちゃん、触って……)


 嫌だなんて思わない。

 性行為が解禁と知った瞬間、脳裏に真っ先に思い浮かんだのは凛の顔だったから。

 でも、今はまずい。


(だめだよ)


(お願い。ちょっとだけ)


 豆電球に照らされたオレンジ色の凛の顔。

 たまらなく愛おしく感じる。

 もし二人きりだったら間違い無くこのまま押し倒していた。


(まずいだろ。先輩がいる)


(大丈夫だよ、寝てるよ)


 規則正しいリズムで先輩の寝息が聞こえ続けてる。

 でも本当に寝てるのかな。


(明日にしよう)


(ダメなの。どうしても今。……お願い)


 僕の手は凛の下腹部へ押し当てられる。パジャマの中はしっとりしていた。


(私も)


 凛の手が伸びる。

 そうやって互いを触り、動いた。


「う、んー……」


 先輩が少しうめき声を漏らして寝返りを打つ。

 僕と凛はピタリと動きを止め、じっとしていた。


(起きてるかも)


(寝てるよ)


 凛はやめようとしない。

 僕も釣られて動く。

 少しずつ凛の呼吸が速く、荒くなる。

 声を漏らしそうなその唇を唇で塞いだ。

 僕の頬に鼻息が当たって、少しくすぐったい。

 やがて凛は僕に体重を預け、全身を震わせた。

 少し待って凛が落ち着いた感じに見えたから、耳元にささやく。


(いいか? もう寝な)


(うん……)


 身体を暖かくしたまま凛はうなずく。

 パジャマの中にティッシュを当てて、自分の布団の中に戻った。


(大丈夫だったかな)


 僕はそっと先輩の様子をうかがう。

 寝言一つ言わず、静かな寝息でずっと寝てる。

 寝てるように見える。

 寝たフリをしてるだけじゃないのかなって、少し心配した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ